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ミッション8 王都進出と娯楽品
279 生きにくそうだね
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変身を遂げた彼らの一足先に、母クラルスと祖父リーリルがフィルズの下へとやって来る。二人には、最終確認をお願いしていたのだ。
「母さん、じいちゃん、出来はどうだった?」
これに、クラルスはクスクスと機嫌良く笑った。
「自分たちもびっくりな変身だったみたいね~♪ 何度見ても新人ちゃん達の本番初日は楽しいわ~♪」
「本当にねえ。あんなに楽しいこと、もっと早く知りたかったな……」
「うっ……」
リーリルはクラルスに寂しそうな目を向けて肩を落として見せた。その仕草は、罪悪感を煽ってくる。そして、リーリルは同じ目をフィルズやリュブランの方にも向ける。
「っ、じ、じいちゃん……ごめん」
「こ、これからはクーちゃんママと一緒に見られるんじゃないかな……」
「そうっ。じいちゃん頼むよっ。しっかり化粧の仕方とか、髪の整え方とか教えてやって欲しいな~って」
「そ、そうよお父さんっ。私だけじゃ不安だったのっ。だから、手伝ってもらえないかしら?」
そうなんとか機嫌を直してもらおうと説得すれば、リーリルは花が綻ぶようにふわりと笑った。
「いいの? ふふっ。楽しみがまた増えたっ」
許されたようだ。クラルスもフィルズやリュブランもほっと息を吐く。
「よ、よかった……」
「じいちゃんのあの目は心臓に悪い……」
「刺さるよね……」
リーリルの思惑通りだとしても、あんな目は向けられたくない。
話を変えようとフィルズは再びクラルスに声をかける。
「それで、母さん。新人達の様子は?」
「まあまあじゃないかしら? あの子達も、初日はあんなものだったもの」
あの子達というのは、公爵領都から来た者達のことだ。今はもう恥ずかしがりもせず、仕事中は別人を演じているが、最初は不安そうだった。
「だったかも?」
フィルズが同意する。一方、リーリルは冷静に分析していた。
「けど……公爵領都の新人さん達よりは、慣れるまで数日かかるかもしれないよ? 王都は空気が違うから」
それに、フィルズとリュブランがほぼ同時に答えた。
「感じ悪いもんな~」
「感じ悪いですもんね~」
おっと目を瞠り、フィルズとリュブランはお互いを見る。
「あ、フィル君も思った?」
「だな。あれだろ。威張る奴が多いから周りが必要以上に萎縮してる」
王都の住民の性質というのだろうか。多くの者が当たり前のように上下関係をつけたがるようだ。そして、下と認識させられた者達は、早足、猫背でそうした者の目に止まらないように生活している。
「あとアレだ。お忍びでも貴族が居るかもしれんという警戒があるな。万が一にも不敬罪とかってならんように」
「それはありそう。けど、お忍びなのに、貴族ぶるとか訳わからないよね?」
「常にヨイショされないと息が出来ない生き物なんだろうさ」
この辺になると、クリーンリングのメンバーはまた綺麗に並び始めていた。フィルズとリュブランの話も聞こえているようだ。ちょっと驚いている。
「生きにくそうだね」
「空気を読んで環境を整えてやってる周りがな」
「お世話してもらってる自覚がないなんて、幸せな生き物だよ」
これはもう、クリーンリングのメンバーにもしっかり聞こえるように話している。
「そういう奴らは、池の魚ぐらいに思っておけばいいさ。ほぼ何も考えてないし、あいつらは承認欲求を満たしたいって本能だけで生きてるんだから」
「ふふっ。池の魚っ。そうかもっ。見た目さえ褒めておけば良さそう」
「それだけが取り得だろ。あと、池って限定的な範囲しか知らない感じ」
「あははっ。狭い生息範囲だよねっ。ピッタリっ」
フィルズとしては実際、貴族は池の鯉的なものだと思える時がある。その棲んでいる池を汚してしまう感じも似ているだろう。
ちなみに、フィルズも公爵子息だし、リュブランに至っては王子だが、二人にはもう自分たちが貴族だという自覚がほぼない。
いい具合にクリーンリングのメンバーもフィルズ達の方を見ているので、話を締める。
「って事で、偉そうな貴族とか無駄に威張って見せてくる商人とかは、見た目良くても、中身は泥臭くて食べられない池の魚だと思って冷静に対処するように」
「「「「「はいっ」」」」」
「「「「「はい……?」」」」」
「可哀想な生き物だって目は向けるなよ? そこは演技をしっかりしろ。内心は見せるな。分かったか?」
「「「「「はい!」」」」」
「「「「「はい!」」」」」
ようやく返事が揃った。これならば一先ずは大丈夫だろう。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「母さん、じいちゃん、出来はどうだった?」
これに、クラルスはクスクスと機嫌良く笑った。
「自分たちもびっくりな変身だったみたいね~♪ 何度見ても新人ちゃん達の本番初日は楽しいわ~♪」
「本当にねえ。あんなに楽しいこと、もっと早く知りたかったな……」
「うっ……」
リーリルはクラルスに寂しそうな目を向けて肩を落として見せた。その仕草は、罪悪感を煽ってくる。そして、リーリルは同じ目をフィルズやリュブランの方にも向ける。
「っ、じ、じいちゃん……ごめん」
「こ、これからはクーちゃんママと一緒に見られるんじゃないかな……」
「そうっ。じいちゃん頼むよっ。しっかり化粧の仕方とか、髪の整え方とか教えてやって欲しいな~って」
「そ、そうよお父さんっ。私だけじゃ不安だったのっ。だから、手伝ってもらえないかしら?」
そうなんとか機嫌を直してもらおうと説得すれば、リーリルは花が綻ぶようにふわりと笑った。
「いいの? ふふっ。楽しみがまた増えたっ」
許されたようだ。クラルスもフィルズやリュブランもほっと息を吐く。
「よ、よかった……」
「じいちゃんのあの目は心臓に悪い……」
「刺さるよね……」
リーリルの思惑通りだとしても、あんな目は向けられたくない。
話を変えようとフィルズは再びクラルスに声をかける。
「それで、母さん。新人達の様子は?」
「まあまあじゃないかしら? あの子達も、初日はあんなものだったもの」
あの子達というのは、公爵領都から来た者達のことだ。今はもう恥ずかしがりもせず、仕事中は別人を演じているが、最初は不安そうだった。
「だったかも?」
フィルズが同意する。一方、リーリルは冷静に分析していた。
「けど……公爵領都の新人さん達よりは、慣れるまで数日かかるかもしれないよ? 王都は空気が違うから」
それに、フィルズとリュブランがほぼ同時に答えた。
「感じ悪いもんな~」
「感じ悪いですもんね~」
おっと目を瞠り、フィルズとリュブランはお互いを見る。
「あ、フィル君も思った?」
「だな。あれだろ。威張る奴が多いから周りが必要以上に萎縮してる」
王都の住民の性質というのだろうか。多くの者が当たり前のように上下関係をつけたがるようだ。そして、下と認識させられた者達は、早足、猫背でそうした者の目に止まらないように生活している。
「あとアレだ。お忍びでも貴族が居るかもしれんという警戒があるな。万が一にも不敬罪とかってならんように」
「それはありそう。けど、お忍びなのに、貴族ぶるとか訳わからないよね?」
「常にヨイショされないと息が出来ない生き物なんだろうさ」
この辺になると、クリーンリングのメンバーはまた綺麗に並び始めていた。フィルズとリュブランの話も聞こえているようだ。ちょっと驚いている。
「生きにくそうだね」
「空気を読んで環境を整えてやってる周りがな」
「お世話してもらってる自覚がないなんて、幸せな生き物だよ」
これはもう、クリーンリングのメンバーにもしっかり聞こえるように話している。
「そういう奴らは、池の魚ぐらいに思っておけばいいさ。ほぼ何も考えてないし、あいつらは承認欲求を満たしたいって本能だけで生きてるんだから」
「ふふっ。池の魚っ。そうかもっ。見た目さえ褒めておけば良さそう」
「それだけが取り得だろ。あと、池って限定的な範囲しか知らない感じ」
「あははっ。狭い生息範囲だよねっ。ピッタリっ」
フィルズとしては実際、貴族は池の鯉的なものだと思える時がある。その棲んでいる池を汚してしまう感じも似ているだろう。
ちなみに、フィルズも公爵子息だし、リュブランに至っては王子だが、二人にはもう自分たちが貴族だという自覚がほぼない。
いい具合にクリーンリングのメンバーもフィルズ達の方を見ているので、話を締める。
「って事で、偉そうな貴族とか無駄に威張って見せてくる商人とかは、見た目良くても、中身は泥臭くて食べられない池の魚だと思って冷静に対処するように」
「「「「「はいっ」」」」」
「「「「「はい……?」」」」」
「可哀想な生き物だって目は向けるなよ? そこは演技をしっかりしろ。内心は見せるな。分かったか?」
「「「「「はい!」」」」」
「「「「「はい!」」」」」
ようやく返事が揃った。これならば一先ずは大丈夫だろう。
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