101 / 154
ミッション8 王都進出と娯楽品
281 あいつらは信用できない
しおりを挟む
キラーリは、商業ギルドでの一件から自主的に家で謹慎していた。
彼は、今日までギラーリ商会で雇っている従業員達にも、加護の有無を確認してくるようにとしていた。
その結果が出たのが二週間経った今日だった。
「ようやくか……」
報告に来た秘書が申し訳なさそうに報告する。
「申し訳ありません。加護の確認にかなりの人が教会に押しかけているようで、時間がかかりました」
「ああ、いい。それで……」
「はい。その……他の神々の加護も消えている者もいるようです。こちからが職員達の結果です。これによると、表に出していたサウル神様の加護を持つ者の大半がその……加護を失いました……わたくしもです……」
「……そうか……」
「……」
秘書の男も、顔色が悪い。加護を取り上げられたという事実が、自身にも降りかかってきたのだ。他人事では済まされない。そして、加護を取り上げられるということは、神を失望させたということに他ならない。
「……少し……外の空気を吸ってくる……」
「っ、では、お着替えをっ」
キラーリは、教会で加護を確認した翌日から、今まで着ていた派手な色の服も、ギラギラした装飾品も身に着けていない。
まるで喪に服すように、地味な装いをしていた。その表情も、自信に満ち溢れていたものから一転、覇気もなくかなり老け込んで見える。
彼のギラギラした装いは商会の顔としてのものだった。だから、秘書の男も、出かけるならば着替えをと思ったのだ。
しかし、キラーリはそれを止めた。
「いや……このままでいい」
「……護衛はお連れください……」
「ああ……」
そして、いつもの護衛二人にもお忍びスタイルというか、普段着にしてもらい、キラーリは商会を出た。
それも、歩いてだ。見た目がかなり変わったため、誰もキラーリだとは思わないだろう。
「旦那?」
「馬車はいいので?」
「ああ……」
「「……」」
護衛達は顔を見合わせてながらも、目に見えて落ち込む様子のキラーリについて行くことにした。
当て所なく歩いていると、いつの間にか貧民街の近くまで来ていた。
「旦那。この先は……」
汚いと言って、キラーリはまず足を踏み入れない場所。さすがに気分を害すると思い、護衛達は声をかける。
しかし、その時、見た事もない制服を着た者達が目に入った。
「あれは……なんだ?」
その装いも気にはなるが、もっと気になるのは、彼らの傍らにある車輪のついたボックスだ。
「魔導具……か?」
制服の縁取りと同じ、発色が美しい橙色の金属のボックスが嫌でも目を引く。
キラーリが観察していれば、近くにいた露天の女主人が声をかけてきた。
「おや。知らないのかい? あれはセイスフィア商会のクリーンリングって清掃部隊らしいよ。アレは、中で入れたゴミを全部土にする魔導具らしい」
「ゴミを土に……」
「畑の肥料になるんだってさ」
フィルズならば、収納用のスタックボックスの形だと説明したかもしれない。積み上げる事ができるボックスコンテナで、斜め上に開くものを参考に作られた。奥に長く、大きさとしてはそれほど大きくはない。
それが四輪の台車らしき物に乗っている。横幅は一般的な馬車の半分ほどだ。
箱は斜め上に蓋が開くようで、背の低い子どもは開けられないだろう。もちろん、関係者以外は開けられないようにされている上に、手を離すと蓋は閉まるようになっているため、万が一にも開けて中に入り込むということはないようになっていた。
実はこれ、簡単な操作で自走する車で、運転者が前に一人乗り、後ろにあるステップに二人、立って乗ることが出来る。速度は馬車で馬がトコトコと歩くスピードぐらいしか出ない。
そこに居た揃いの制服を着た三人の男女は、町の人々と楽しそうに話をしながら、道に落ちているゴミや泥、馬糞などを、その手にしている箒やブラシで、ちりとりに入れていく。
「あの人らが持ってるゴミを入れる『塵取り』も魔導具らしい。後ろから凄い勢いで水も出るんだ」
「水が……? あれも……一人ずつ持っているが……」
「すごいよねえ」
この『塵取り』は、中に入った物を中で仕分けしている。マジックバッグの応用を使っていた。水は塵取りの柄に沿って嵌めてあるホースから出る。水圧はかなりのものだ。
長い柄が付いており、自立するちりとりと箒、ブラシの三点でセットになる造り。ちりとりの取っ手の部分で開閉する。
「あの人達に今、頭下げてる老夫婦ね。昨日、失くして諦めていた夫人の指輪を、泥の中から探し出してもらったからお礼に来たんだよ」
「泥の中……もしや、この側溝の?」
「そうさ。毎日のようにあの夫人はこの辺りで指輪を探していてね……それは知っていたんだけど……」
「……」
困っていることは、その様子でわかっていた。この辺りの人達は、毎日のようにこの辺りに来て、何時間も彷徨く夫人を気の毒に思っていた。何かを探しているのは、間違いなさそうだったのだ。
だが、見ているだけで、手を出すことはなかった。手を貸したいとは思っていても、行動に移すだけの余裕はなかったのだ。
「それが昨日、あの人たちが来て、夫人に話を聞いてから側溝を掃除し始めてね。しばらくして、塵取りをひっくり返したかと思えば、いくつかの指輪や腕輪が出てきたんだよ」
「いくつか……?」
ヘドロの中には、貴金属品が意外にも多くあったようだ。
「その中から探していた指輪が出てきたんだってさ」
「……泥はどうしたんだ?」
「それが、出てきた指輪や腕輪は綺麗だったんだ。聞いたら、泥は泥で中に回収される魔導具なんだってさ。なんでも、マジックバッグの応用だって」
「……」
マジックバッグは、中で入れた物を分別している。指輪ならば指輪、土なら泥や土になり得る落ち葉などだ。これにより、ヘドロの中にある指輪などの貴重品があれば、汚れが土に分類されて分けられた後、綺麗になった指輪だけ取り出せるのだ。
「あ、使用者権限があるから、盗んでも無駄だってさ。権限の変更は商会と教会でしか出来ないようになってるって言ってたねえ。王都の商業ギルドは信用できないからって。私もこれは同意するよ。あいつらは信用できない」
「っ……」
キラーリは、はっきりと『王都の商業ギルドは信用できない』と口にした女主人に驚いて息を呑んだ。
町の変化を、はっきりと感じた瞬間だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
彼は、今日までギラーリ商会で雇っている従業員達にも、加護の有無を確認してくるようにとしていた。
その結果が出たのが二週間経った今日だった。
「ようやくか……」
報告に来た秘書が申し訳なさそうに報告する。
「申し訳ありません。加護の確認にかなりの人が教会に押しかけているようで、時間がかかりました」
「ああ、いい。それで……」
「はい。その……他の神々の加護も消えている者もいるようです。こちからが職員達の結果です。これによると、表に出していたサウル神様の加護を持つ者の大半がその……加護を失いました……わたくしもです……」
「……そうか……」
「……」
秘書の男も、顔色が悪い。加護を取り上げられたという事実が、自身にも降りかかってきたのだ。他人事では済まされない。そして、加護を取り上げられるということは、神を失望させたということに他ならない。
「……少し……外の空気を吸ってくる……」
「っ、では、お着替えをっ」
キラーリは、教会で加護を確認した翌日から、今まで着ていた派手な色の服も、ギラギラした装飾品も身に着けていない。
まるで喪に服すように、地味な装いをしていた。その表情も、自信に満ち溢れていたものから一転、覇気もなくかなり老け込んで見える。
彼のギラギラした装いは商会の顔としてのものだった。だから、秘書の男も、出かけるならば着替えをと思ったのだ。
しかし、キラーリはそれを止めた。
「いや……このままでいい」
「……護衛はお連れください……」
「ああ……」
そして、いつもの護衛二人にもお忍びスタイルというか、普段着にしてもらい、キラーリは商会を出た。
それも、歩いてだ。見た目がかなり変わったため、誰もキラーリだとは思わないだろう。
「旦那?」
「馬車はいいので?」
「ああ……」
「「……」」
護衛達は顔を見合わせてながらも、目に見えて落ち込む様子のキラーリについて行くことにした。
当て所なく歩いていると、いつの間にか貧民街の近くまで来ていた。
「旦那。この先は……」
汚いと言って、キラーリはまず足を踏み入れない場所。さすがに気分を害すると思い、護衛達は声をかける。
しかし、その時、見た事もない制服を着た者達が目に入った。
「あれは……なんだ?」
その装いも気にはなるが、もっと気になるのは、彼らの傍らにある車輪のついたボックスだ。
「魔導具……か?」
制服の縁取りと同じ、発色が美しい橙色の金属のボックスが嫌でも目を引く。
キラーリが観察していれば、近くにいた露天の女主人が声をかけてきた。
「おや。知らないのかい? あれはセイスフィア商会のクリーンリングって清掃部隊らしいよ。アレは、中で入れたゴミを全部土にする魔導具らしい」
「ゴミを土に……」
「畑の肥料になるんだってさ」
フィルズならば、収納用のスタックボックスの形だと説明したかもしれない。積み上げる事ができるボックスコンテナで、斜め上に開くものを参考に作られた。奥に長く、大きさとしてはそれほど大きくはない。
それが四輪の台車らしき物に乗っている。横幅は一般的な馬車の半分ほどだ。
箱は斜め上に蓋が開くようで、背の低い子どもは開けられないだろう。もちろん、関係者以外は開けられないようにされている上に、手を離すと蓋は閉まるようになっているため、万が一にも開けて中に入り込むということはないようになっていた。
実はこれ、簡単な操作で自走する車で、運転者が前に一人乗り、後ろにあるステップに二人、立って乗ることが出来る。速度は馬車で馬がトコトコと歩くスピードぐらいしか出ない。
そこに居た揃いの制服を着た三人の男女は、町の人々と楽しそうに話をしながら、道に落ちているゴミや泥、馬糞などを、その手にしている箒やブラシで、ちりとりに入れていく。
「あの人らが持ってるゴミを入れる『塵取り』も魔導具らしい。後ろから凄い勢いで水も出るんだ」
「水が……? あれも……一人ずつ持っているが……」
「すごいよねえ」
この『塵取り』は、中に入った物を中で仕分けしている。マジックバッグの応用を使っていた。水は塵取りの柄に沿って嵌めてあるホースから出る。水圧はかなりのものだ。
長い柄が付いており、自立するちりとりと箒、ブラシの三点でセットになる造り。ちりとりの取っ手の部分で開閉する。
「あの人達に今、頭下げてる老夫婦ね。昨日、失くして諦めていた夫人の指輪を、泥の中から探し出してもらったからお礼に来たんだよ」
「泥の中……もしや、この側溝の?」
「そうさ。毎日のようにあの夫人はこの辺りで指輪を探していてね……それは知っていたんだけど……」
「……」
困っていることは、その様子でわかっていた。この辺りの人達は、毎日のようにこの辺りに来て、何時間も彷徨く夫人を気の毒に思っていた。何かを探しているのは、間違いなさそうだったのだ。
だが、見ているだけで、手を出すことはなかった。手を貸したいとは思っていても、行動に移すだけの余裕はなかったのだ。
「それが昨日、あの人たちが来て、夫人に話を聞いてから側溝を掃除し始めてね。しばらくして、塵取りをひっくり返したかと思えば、いくつかの指輪や腕輪が出てきたんだよ」
「いくつか……?」
ヘドロの中には、貴金属品が意外にも多くあったようだ。
「その中から探していた指輪が出てきたんだってさ」
「……泥はどうしたんだ?」
「それが、出てきた指輪や腕輪は綺麗だったんだ。聞いたら、泥は泥で中に回収される魔導具なんだってさ。なんでも、マジックバッグの応用だって」
「……」
マジックバッグは、中で入れた物を分別している。指輪ならば指輪、土なら泥や土になり得る落ち葉などだ。これにより、ヘドロの中にある指輪などの貴重品があれば、汚れが土に分類されて分けられた後、綺麗になった指輪だけ取り出せるのだ。
「あ、使用者権限があるから、盗んでも無駄だってさ。権限の変更は商会と教会でしか出来ないようになってるって言ってたねえ。王都の商業ギルドは信用できないからって。私もこれは同意するよ。あいつらは信用できない」
「っ……」
キラーリは、はっきりと『王都の商業ギルドは信用できない』と口にした女主人に驚いて息を呑んだ。
町の変化を、はっきりと感じた瞬間だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
応援ありがとうございます!
175
お気に入りに追加
11,868
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。