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ミッション8 王都進出と娯楽品

295 困ったちゃん達

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フィルズとしては予想通りだった。とりあえず、困惑顔のリュブランとマグナを他の少女達と一緒に外に出すことにする。

「リュブラン、マグナ。そいつら玄関ホールに連れて行ってくれ。そろそろ、教会から人が来る。気絶した奴と……こいつ以外は全員、保護してもらってくれ」
「え……っ」

こいつとフィルズが肩を叩いた相手。少し年上の二十歳くらいの女を手刀で眠らせる。崩れ落ちた女を指差してフィルズはリュブランとマグナに告げる。

「こいつもここの奴。後でロープで縛っといてくれ」
「う、うん……」
「こ、この人も……気付かなかった……」
「まあ、ここまで擬態してると無理だろうな。因みに、こいつ男」
「「「「「っ、男!?」」」」」

少女達も驚きの声を上げた。彼女達も知らなかったようだ。今度はそんな同年代の少女達に、フィルズが声をかける。

「これでここの組織の奴は居ねえ。安心しろ。お前ら、よく耐えたな」
「「「「「っ……」」」」」

誰が敵かも分からず、ずっと緊張しながら息を潜めていたのだろう。愚痴るだけで次の日に暴力を振るわれることもあったようだ。中に裏切り者がいると気付いていたが、その特定が出来ずにいた。

涙をグッと我慢する少女達。そこから目を逸らして、リュブランとマグナに指示を出す。

因みにフウマは、屋敷の外周で逃げようとする者達を捕える遊びに夢中なので、ここには居ない。まるで、哀れな獲物を追い掛けるように、飛びかかって倒しては次、起き上がって逃げ出したらまた飛びかかるというのような遊びをしているらしい。フィルズかファリマスが呼ぶまでそのままだろう。

「リュブラン、マグナ連れて行け。こいつは二人で引き摺っていけよ」
「うん。それで、運ばれて来る人たちを監視しておけばいいんだよね」
「任せてください。逃がしません」
「ああ。余裕があったら、フウマが遊び倒して弱った奴も回収しておいてくれ」

そうして、彼らがこの場を後にするのを確認してから、ファリマスと取り残された三人の姦しそうな女達に目を向けた。

「お待たせ、ばあちゃん」
「いいや。まだ裏切り者が居たとはねえ。私の勘も鈍ったか……それも男とは……っ」

女装を見破れなかったのが、一番悔しいらしい。少しばかり落ち込んでいるようだ。

「いや、こんな薄明かりの中じゃあ、確認しきれねえって……」
「リルの妻としては、悔しいんだよ!」
「変な矜持だな……」

本気で、ここまで悔しそうなファリマスを見るのはフィルズも初めてで驚いた。気持ちを切り替えて、ファリマスの前で固まる少女達を見る。

「それより、そいつらのことだが」
「っ、ああ。この困ったちゃん達、どういう経緯でここに?」

フィルズならば、とっくに調べはついているだろうとファリマスは確信していた。先ほどの女装した裏切り者も、そうした調べが付いているからこそ、反応出来たものだ。

「それぞれの家から絶縁されてる問題児だ。修道院に送られる途中で、それを反対していたこいつらの母親や祖父母が奪還しようとして、そこで拐われたみたいだな」
「……そういう事情の裏を取って人を集めてたのかい」
「そういうことだ。どうせ要らねえ人間なら、タダで使えるってな。ここの奴ら、結構頭良いぜ」

身内全てが納得して修道院送りになる者は意外にも少ない。男親が家の名誉を守るために問題児となった娘を送る場合、その母親や甘やかしている祖父母は反対している事が多い。または、第一夫人が第二夫人の娘を邪魔に思って冤罪によって貶めることもある。その場合は、男親や母親が必死になって止めようとするものだ。

そうして襲撃によって助け出す方法が最終的に取られるのだが、その時に横から掻っ攫う者達がいるのだ。そうした者達は、他国の奴隷商に売ることを目的としていたりする。

修道院に送られるような者は、大概が若い女。反省することを願って送り出される者達だ。それなりに先がある者が多い。奴隷として売るにはピッタリというわけだ。

「なら、この子らは教会の保護対象にはならないかい?」
「修道院に送り届けられるだろうからな」
「「「っ、いやよ!」」」

すかさず口を開く三人。しかし、フィルズには関係ない。

「嫌でもなんでも、お前らの場合は、貶められたとかじゃなく、逆に友人や身分が下の奴を貶めたらしいじゃないか。自業自得だ」
「ああ。そういうことしそうな顔してるねえ」
「そいつは、幼馴染に嫉妬して顔に火傷を負わせた。その幼馴染は部屋に閉じこもって弱る一方らしい」

右端の女を指差してそう説明する。全く悪気の無い顔をしているのが、救いようが無い。

「真ん中のは、婚約者と話をしたってだけで数人の女達を脅して追い詰めて、一人自殺してる。他も精神的に参っているらしい」

ふんっと鼻を鳴らすだけで、反省してはいないようだ。どうしようもないなとため息混じりにフィルズは、最後の一人を指差した。

「そんでこいつは、自分の誘いに乗らなかったからって、気に入った男の家族を家ごと燃やしたらしいぜ。生き残ったのは、その男と妹だけだ。火傷が酷くて教会に預けられてる」

ファリマスは息を呑んだ後、ゆっくりと息を吐いて確認する。

「それ……修道院送りじゃ緩くないかい?」
「俺もそう思う」

完全に犯罪者じゃないかとファリマスが珍しくドン引きしているのが分かった。それが女達にも感じられたのだろう。すかさず言い訳を並べた。

「わ、私は悪くないわ! 男に媚を売るあの女が悪いのよ!」
「私の婚約者に色目を使うなんて、卑しい奴らはみんな消えれば良いのよ!」
「目をかけてやったのにっ。裏切ったあいつが悪いわ! 私より家族が大事なんて、許せるわけないじゃない!」
「「……ダメだな、こいつら……」」

醜いにもほどがある。

「このまま、ここの奴らと一緒に、犯罪者として兵に引き渡した方が良くはないかい?」
「そうだなあ。その方が、被害者も安心だよなあ」
「っ、なっ」
「そ、そんな事、お父様が許すはずない!」
「私が犯罪者ですって!?」

納得しない顔をするのは考えなくても予想できた。ファリマスはため息を吐きながら拳を握って鳩尾に一撃ずつ入れた。

「ぐえっ」
「うぐっ」
「げえっ」
「ふんっ。まったく、手間をかけさせる」
「……ばあちゃん、怒ってるじゃん……手刀じゃなくて鳩尾とか……」
「こっちの方が、目が覚めてからも動き辛いからね。これくらいの罰はあっても良いだろう?」

わざわざそちらにしたのは、その後の痛みも考えての事だったようだ。フィルズはそれもそうかと頷いた。

「だな。これも自業自得だ」
「そういうこった。そういえば、ラスタはどうしたんだい?」
「上でショック受けてる」
「ん?」

ラスタリュートは、執務室らしき場所にあった証拠書類を見て膝から崩れ落ちていたので、そのまま置いてきたのだ。

「ここの奴らが、長年国で追ってた『ブラックロード』の支部だって知ったのと、なんでこんな近くに根城があるのに、見つけられなかったかって理由が分かったからな。だから、止めとけばよかったのに」
「付いて来るのを止めた理由かい」
「そう。こうなると思ったからさ~」

王国騎士団長としては、許せないものだったのだ。








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