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ミッション8 王都進出と娯楽品
301 酷い感じ?
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膨大な回収された契約書などの中から、それらを抜き取るのは、それほど苦ではなかった。貴族が関わった証拠や、契約書などは大事に金庫に仕舞われていたのだ。意外にもきちんと整理できていた。
とはいえその量は、日頃から大量の書類を見ることに慣れているファスター王やリゼンフィアにとっても膨大な量であった。これは組織が長年溜め込んでいたためだ。
個人での契約ではあるが、貴族は家門の醜聞を嫌う。例え故人や引退した者がしでかした事であっても、弱味になるならば隠そうとするだろう。後ろめたいことならば尚更だ。よって、その契約相手が例えもうこの世に居ないとしても、処分することなく保管されていたようだ。
そして、それとは別に保管されていたのが、怪しい研究書や、恐らく契約時の報酬か何かで受け取った賢者の研究書などだった。
「君くらい古代語が読める人なんて居ないから、中途半端に訳したのとか多いよね……」
「まあ、報酬か担保にでもしたようなやつだろうからな。原書ではあり得ないか」
賢者の遺産として、ほんの一部であっても、不完全な写本であっても、集める好事家がいない訳ではない。担保としてならば十分だろう。
「かろうじて、直接問題になりそうなのはこの一つだけだよ。後はでたらめだけど、写本としては成り立ってそうなやつね」
肩をすくめて見せるリザフトに、フィルズは笑って歩み寄っていく。リザフトの座る長いソファの背の所に腕をついて少しもたれ掛かる。そこからリザフトの手元の資料を覗き込んだ。
「酷い感じ?」
「かなりね。それも、そこに独自の研究も組み合わせてるから厄介だよ。奇跡的に成功してそうなのもあるから余計に……」
ため息を吐くリザルトは、持っていた書類を机に投げ出し、ソファに身を深く沈める。天井を見ながらフィルズへと確認した。
「宝石とかそういうのも回収してるんだよね?」
「ああ。そっちの仕分けは今、地下で測量部隊にさせてる。なんだ? もしかして、物もあるかもしれないのか?」
「うん。だって……フィル君なら、出来るって分かったものを、研究だけで終わらせる?」
「ないな」
「だよねえ……」
作れると思ったものを、机上の空論で終わらせるなんてあり得ない。
「成功してるならいいんじゃ……ああ、やべえ方に振り切った?」
「もう呪いレベルのが出来てそう。この資料と一緒に手に入れてるかもしれないし、ちょっと後半、インクが新しそうだから……」
「あの組織の奴で作った奴がいるかも?」
「うん」
捕まえた者達の中に、それを面白がって完成させた者が居るかもしれないらしい。
「これは一度、アクラスに確認させた方が良いかも。地下まで結界は効いてるんだよね?」
「ああ」
「なら、アクラスに見て……くれるみたい。ファサラも行ったね」
「気になってたんだな」
魔法神のアクラスと技巧神のファサラが、地下に顕現したのがリザフトには分かったようだ。
「ふっ。今頃、測量部隊の面々が目を丸くしてるかもな」
「驚かせちゃうね」
「いいよ。あいつら、まだ少し感情が薄いし、表情筋硬いから」
「裏で生きて来た子達だっけ」
「そう。母さんが少しでも笑かそうと、毎日ちょっかいをかけてるよ」
「大丈夫? 驚いて反射で攻撃とかしない?」
暗殺者として、フィルズの所に送り込まれて来た者達だ。反射的に手を出しかねない。フィルズからも、彼らにその感覚は忘れるなと言ってある。それなりに訓練も続けているようだ。
「それも楽しいとかって、言ってた。リュブラン達に、いかに相手を刺激させずに近付き、遊ぶかって訓練になるとか何とか」
「ふははっ。クーちゃんは、何でも遊びにしてしまうから良いよねっ」
クラルスの行動は、神も推奨するものらしい。
リザフトはふうとゆっくり息を吐くと、緩んだ頬に触れながら、再び真面目な顔に変える。
「発明とか人が作り上げるものって、基本スルーしてきたから……ちょっとまずいかも」
発明は世界を発展させるのに必要なものだ。
「例え、失敗作でも過程とするなら止められないもんなあ」
「そうなんだよ……フィル君は、ヤバい失敗作は、ヤバいって予想立てて、報告して破棄してくれるけど、他の人はね……」
「まあ、俺の場合は前世の……ふわっとした記憶でも完成形を知ってるからな。その過程で起きそうな事故とかも予想が立てやすい」
技術が進化する過程を知っているのと全く知らないのとでは、差があって当たり前だ。中には、完成品であっても、良くない面があるということも知っている。だから、最初からそのマイナス面を除いて改良することも考えられる。
「そっちの対策については話し合ってくれるか?」
「うん。マズいのはもしかすると、フィル君に回収してもらわないといけなくなるかもしれないけど」
「あ~……まあ、それ自体は構わない。もともと、頼まれてるのは、そういう役目も込みだろ?」
「……ごめんね」
フィルズの立ち位置は、神の遣いのようなものだ。この世界を発展させることだけではなく、神が手を出せない所に手を貸すことも求められている。
しかし、神だけの感覚では、人の世の常識から外れてしまいがちだ。その調整をすることもフィルズの役目だと自負している。それを忘れてはいけないと認識を強くしながら、リザフトを見た。
申し訳ないという表情を見せるリザフト。手を煩わせてすまないと思っているようだ。だが、フィルズは、その事を苦だとは思わない。
「いいんだよ。俺は前世で多分……あんま良い思い出がなさそうだし、今をくれた事、リザフト達には感謝してるんだ」
「っ、知って……」
「なんとなく?」
フィルズの言葉に、リザフトが少し眉間に皺を寄せ、同情するような表情を見せた。しかし、フィルズとしては過去の事として受け入れているものだ。過去を憐れまれても困る。だから、全く気にした様子もなく首を傾げて見せる。それこそ、気にするなと言うように。
「両親ともに、あんま良い関係じゃなかったな~ってのと、人付き合いが苦手だったってことくらいしか自分のことは思い出せねえけど、気にしてねえよ」
前世では、どっちかといえば陰気くさい、今のフィルズとは正反対な性格だった気がしている。かつての、部屋に閉じこもってしまっていたクラルスのような、そんな内に溜め込んでしまう性格だったように感じていた。
「そういう鬱々とした人生をなんとなく知ってるから、今の俺がいるんだろ? この性格って、そのお陰だと思うんだよ。それを知ってるから変えようと思ったんだろう。だから、なかったことにするつもりはない」
「そう……だね……そうかもしれない」
「経験って大事だよなっ」
明らかに思い出したくない記憶もあるはず。だが、それでも全部が大事な経験だとして笑うフィルズに、リザフトも釣られて笑った。
「そうだね。うん。そういうフィル君だからこそ、私たちは君を選んだんだ」
「ありがとな。ならさ、これもこの世界の奴らにとっては必要な経験なんだよ。失敗する経験ってのも、大事だろ?」
フィルズは、机に散らばる資料を手に取ってそう告げた。
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読んでくださりありがとうございます◎
とはいえその量は、日頃から大量の書類を見ることに慣れているファスター王やリゼンフィアにとっても膨大な量であった。これは組織が長年溜め込んでいたためだ。
個人での契約ではあるが、貴族は家門の醜聞を嫌う。例え故人や引退した者がしでかした事であっても、弱味になるならば隠そうとするだろう。後ろめたいことならば尚更だ。よって、その契約相手が例えもうこの世に居ないとしても、処分することなく保管されていたようだ。
そして、それとは別に保管されていたのが、怪しい研究書や、恐らく契約時の報酬か何かで受け取った賢者の研究書などだった。
「君くらい古代語が読める人なんて居ないから、中途半端に訳したのとか多いよね……」
「まあ、報酬か担保にでもしたようなやつだろうからな。原書ではあり得ないか」
賢者の遺産として、ほんの一部であっても、不完全な写本であっても、集める好事家がいない訳ではない。担保としてならば十分だろう。
「かろうじて、直接問題になりそうなのはこの一つだけだよ。後はでたらめだけど、写本としては成り立ってそうなやつね」
肩をすくめて見せるリザフトに、フィルズは笑って歩み寄っていく。リザフトの座る長いソファの背の所に腕をついて少しもたれ掛かる。そこからリザフトの手元の資料を覗き込んだ。
「酷い感じ?」
「かなりね。それも、そこに独自の研究も組み合わせてるから厄介だよ。奇跡的に成功してそうなのもあるから余計に……」
ため息を吐くリザルトは、持っていた書類を机に投げ出し、ソファに身を深く沈める。天井を見ながらフィルズへと確認した。
「宝石とかそういうのも回収してるんだよね?」
「ああ。そっちの仕分けは今、地下で測量部隊にさせてる。なんだ? もしかして、物もあるかもしれないのか?」
「うん。だって……フィル君なら、出来るって分かったものを、研究だけで終わらせる?」
「ないな」
「だよねえ……」
作れると思ったものを、机上の空論で終わらせるなんてあり得ない。
「成功してるならいいんじゃ……ああ、やべえ方に振り切った?」
「もう呪いレベルのが出来てそう。この資料と一緒に手に入れてるかもしれないし、ちょっと後半、インクが新しそうだから……」
「あの組織の奴で作った奴がいるかも?」
「うん」
捕まえた者達の中に、それを面白がって完成させた者が居るかもしれないらしい。
「これは一度、アクラスに確認させた方が良いかも。地下まで結界は効いてるんだよね?」
「ああ」
「なら、アクラスに見て……くれるみたい。ファサラも行ったね」
「気になってたんだな」
魔法神のアクラスと技巧神のファサラが、地下に顕現したのがリザフトには分かったようだ。
「ふっ。今頃、測量部隊の面々が目を丸くしてるかもな」
「驚かせちゃうね」
「いいよ。あいつら、まだ少し感情が薄いし、表情筋硬いから」
「裏で生きて来た子達だっけ」
「そう。母さんが少しでも笑かそうと、毎日ちょっかいをかけてるよ」
「大丈夫? 驚いて反射で攻撃とかしない?」
暗殺者として、フィルズの所に送り込まれて来た者達だ。反射的に手を出しかねない。フィルズからも、彼らにその感覚は忘れるなと言ってある。それなりに訓練も続けているようだ。
「それも楽しいとかって、言ってた。リュブラン達に、いかに相手を刺激させずに近付き、遊ぶかって訓練になるとか何とか」
「ふははっ。クーちゃんは、何でも遊びにしてしまうから良いよねっ」
クラルスの行動は、神も推奨するものらしい。
リザフトはふうとゆっくり息を吐くと、緩んだ頬に触れながら、再び真面目な顔に変える。
「発明とか人が作り上げるものって、基本スルーしてきたから……ちょっとまずいかも」
発明は世界を発展させるのに必要なものだ。
「例え、失敗作でも過程とするなら止められないもんなあ」
「そうなんだよ……フィル君は、ヤバい失敗作は、ヤバいって予想立てて、報告して破棄してくれるけど、他の人はね……」
「まあ、俺の場合は前世の……ふわっとした記憶でも完成形を知ってるからな。その過程で起きそうな事故とかも予想が立てやすい」
技術が進化する過程を知っているのと全く知らないのとでは、差があって当たり前だ。中には、完成品であっても、良くない面があるということも知っている。だから、最初からそのマイナス面を除いて改良することも考えられる。
「そっちの対策については話し合ってくれるか?」
「うん。マズいのはもしかすると、フィル君に回収してもらわないといけなくなるかもしれないけど」
「あ~……まあ、それ自体は構わない。もともと、頼まれてるのは、そういう役目も込みだろ?」
「……ごめんね」
フィルズの立ち位置は、神の遣いのようなものだ。この世界を発展させることだけではなく、神が手を出せない所に手を貸すことも求められている。
しかし、神だけの感覚では、人の世の常識から外れてしまいがちだ。その調整をすることもフィルズの役目だと自負している。それを忘れてはいけないと認識を強くしながら、リザフトを見た。
申し訳ないという表情を見せるリザフト。手を煩わせてすまないと思っているようだ。だが、フィルズは、その事を苦だとは思わない。
「いいんだよ。俺は前世で多分……あんま良い思い出がなさそうだし、今をくれた事、リザフト達には感謝してるんだ」
「っ、知って……」
「なんとなく?」
フィルズの言葉に、リザフトが少し眉間に皺を寄せ、同情するような表情を見せた。しかし、フィルズとしては過去の事として受け入れているものだ。過去を憐れまれても困る。だから、全く気にした様子もなく首を傾げて見せる。それこそ、気にするなと言うように。
「両親ともに、あんま良い関係じゃなかったな~ってのと、人付き合いが苦手だったってことくらいしか自分のことは思い出せねえけど、気にしてねえよ」
前世では、どっちかといえば陰気くさい、今のフィルズとは正反対な性格だった気がしている。かつての、部屋に閉じこもってしまっていたクラルスのような、そんな内に溜め込んでしまう性格だったように感じていた。
「そういう鬱々とした人生をなんとなく知ってるから、今の俺がいるんだろ? この性格って、そのお陰だと思うんだよ。それを知ってるから変えようと思ったんだろう。だから、なかったことにするつもりはない」
「そう……だね……そうかもしれない」
「経験って大事だよなっ」
明らかに思い出したくない記憶もあるはず。だが、それでも全部が大事な経験だとして笑うフィルズに、リザフトも釣られて笑った。
「そうだね。うん。そういうフィル君だからこそ、私たちは君を選んだんだ」
「ありがとな。ならさ、これもこの世界の奴らにとっては必要な経験なんだよ。失敗する経験ってのも、大事だろ?」
フィルズは、机に散らばる資料を手に取ってそう告げた。
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