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ミッション9 学園と文具用品
317 量産に入りますか?
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三日もすれば、隠密ウサギからの鉱山の情報がかなり集まってきていた。
フィルズは、工房の広い机に紙を広げ、その情報から正確に坑道の地図を書き上げていく。
「やっぱり、結構入り組んでるなあ……」
山から溢れ出た水が、自然にいくつも川を作るように、幾本もの坑道が鉱山内を巡っていた。
《鉱夫達の腕はよかったんですねえ。これで崩れないのはすごい》
工房管理者でフィルズの助手をするクマのスタックがその地図を覗き込んで感心する。
「確かになあ。この辺は高低差がありそうだ」
《山ですもんねえ》
フィルズも改めて地図を上から見回し、考え込む。
「立体に出来たらもっと分かりやすいんだが……」
《高度計測機の開発の進捗はおよそ六十%といったところです》
「そうだよな……0とする水準原点も探ってる途中だし……」
《ご主人は、用意出来るものは先に全部用意したい質でしたね》
「そうなんだよっ。準備万端にっ、全部必要なものが手元にないと気持ち悪いんだよな~」
《分かります》
料理でもなんでも、後でアレが足りないなんてことになることがないようにしてから作り始めたいのだ。だから、今回も計測機がないのが気持ち悪い。
「鉱山の方は、もっと後で手を付けるつもりだったしな~。それより先に温泉と思ってたし」
《おんせん……?》
「そう。温泉。出そうなんだよな~。場所の選定もあるし、人が集まる前に見つけたい」
そう言って、机の端に折りたたんで置いてあった元男爵領、ミルトーラと名を改めた土地の地図を鉱山の地図の上に広げる。
《元の住民達が戻り始めていると聞きました》
「それだよ。住宅地のど真ん中にってのもアリだけど……せっかくだから人が集まるように観光地化したいんだよな~。でっかいホテルとか建てたい!」
《かんこうち……ホテル……?》
スタックは頭をしきりに傾げているが、フィルズは頭の中にある計画に夢中だ。
「そのための従業員の教育も始めたし、次に計画を進めるには、やっぱ、安全のためにも鉱山のゴーレムをどうにかするしかねえかあ」
手帳を取り出し、計画のメモを修正する。因みに、地図やこの手帳の紙は、クルフの茎から繊維を取り出して作られたものだ。調整したインクとの相性も良さそうだと、その手触りを改めて地図に触れて確認する。
「ん、紙の質もインクも良さそうだな。日焼けのテストも問題なかったし」
《量産に入りますか?》
「そうしてくれ。用紙の大きさの規定は伝えてあったよな?」
《はい。A判とB判ですね。賢者の資料の通りに通達済みです。そのサイズで機械も作っています》
「よし。ならまずはA判もB判も十六分の一のA4とB4までのサイズを各百作ってくれ。完成までの時間も記録しといてもらえるか?」
《了解しました》
この世界には、木から作る紙はあるが、フィルズとしては資源となる木はなるべく大事にしたい。植樹をしていないのが気になっていたのだ。その点、クルフから作る場合は安心だ。実の方もしっかりいただける。
剣でも中々切れない茎は柵として使えるほどの丈夫さ。ゴミとして処分するのも大変だった。それを余す事なく利用できるのだから畑の片隅に仕方なくいつも植えていた農家も大喜びだ。なんと言っても厄介なゴミまでお金になる。クルフなど家畜の餌で、柵代わりでしかなかったのだ。今やそのクルフもポップコーンとして大人気となれば、これほど嬉しいことはないだろう。
《あっ。そういえば、クルフ専門の農家をやりたいという相談が来ていましたよ?》
「まあ、そうなるよな。う~ん……他の農業との兼ね合いもあるからなあ……辺境伯の所とも協議が必要だ。親父が今度来るのは……」
《再来週のはずです》
「おっ。なら、そん時にだな。製紙工場の本格稼動の相談もするか……」
《資料の作成をゴルドさんに依頼しときます》
「そうしてくれ。あ~……やること多いな~」
手帳に新たな予定を書き入れ、机に突っ伏す。やりたい事もやるべき事も多い。一度枠を作って手を離れてしまえば問題はないのだが、それまではしっかりと筋道を立てて先導しなくてはならない。
「何事も一つずつだな」
《先ずは鉱山のゴーレムです》
「そうだな。明日には行くかな」
《ジュエルさんがやる気だそうです》
「え? ジュエルのやつ、やっぱ付いてくる気か……まあ、良いけど。なら、シンジュをこっちのサポートに回すか」
《助かります!》
「それじゃあ、それでいこう」
日頃、ジュエルやエン達フェンリルの三つ子の世話をお願いしているクマのシンジュを、スタックのサポートに回すことにした。鉱山ではフィルズがジュエル達と行動するのだ。丁度良い。そう予定を立てて、フィルズは翌日、ビズに乗ってジュエル、エン、ギン、ハナと共に鉱山のある元男爵領、ミルトーラへと向かったのだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
お陰様で5巻好評発売中です!
フィルズは、工房の広い机に紙を広げ、その情報から正確に坑道の地図を書き上げていく。
「やっぱり、結構入り組んでるなあ……」
山から溢れ出た水が、自然にいくつも川を作るように、幾本もの坑道が鉱山内を巡っていた。
《鉱夫達の腕はよかったんですねえ。これで崩れないのはすごい》
工房管理者でフィルズの助手をするクマのスタックがその地図を覗き込んで感心する。
「確かになあ。この辺は高低差がありそうだ」
《山ですもんねえ》
フィルズも改めて地図を上から見回し、考え込む。
「立体に出来たらもっと分かりやすいんだが……」
《高度計測機の開発の進捗はおよそ六十%といったところです》
「そうだよな……0とする水準原点も探ってる途中だし……」
《ご主人は、用意出来るものは先に全部用意したい質でしたね》
「そうなんだよっ。準備万端にっ、全部必要なものが手元にないと気持ち悪いんだよな~」
《分かります》
料理でもなんでも、後でアレが足りないなんてことになることがないようにしてから作り始めたいのだ。だから、今回も計測機がないのが気持ち悪い。
「鉱山の方は、もっと後で手を付けるつもりだったしな~。それより先に温泉と思ってたし」
《おんせん……?》
「そう。温泉。出そうなんだよな~。場所の選定もあるし、人が集まる前に見つけたい」
そう言って、机の端に折りたたんで置いてあった元男爵領、ミルトーラと名を改めた土地の地図を鉱山の地図の上に広げる。
《元の住民達が戻り始めていると聞きました》
「それだよ。住宅地のど真ん中にってのもアリだけど……せっかくだから人が集まるように観光地化したいんだよな~。でっかいホテルとか建てたい!」
《かんこうち……ホテル……?》
スタックは頭をしきりに傾げているが、フィルズは頭の中にある計画に夢中だ。
「そのための従業員の教育も始めたし、次に計画を進めるには、やっぱ、安全のためにも鉱山のゴーレムをどうにかするしかねえかあ」
手帳を取り出し、計画のメモを修正する。因みに、地図やこの手帳の紙は、クルフの茎から繊維を取り出して作られたものだ。調整したインクとの相性も良さそうだと、その手触りを改めて地図に触れて確認する。
「ん、紙の質もインクも良さそうだな。日焼けのテストも問題なかったし」
《量産に入りますか?》
「そうしてくれ。用紙の大きさの規定は伝えてあったよな?」
《はい。A判とB判ですね。賢者の資料の通りに通達済みです。そのサイズで機械も作っています》
「よし。ならまずはA判もB判も十六分の一のA4とB4までのサイズを各百作ってくれ。完成までの時間も記録しといてもらえるか?」
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この世界には、木から作る紙はあるが、フィルズとしては資源となる木はなるべく大事にしたい。植樹をしていないのが気になっていたのだ。その点、クルフから作る場合は安心だ。実の方もしっかりいただける。
剣でも中々切れない茎は柵として使えるほどの丈夫さ。ゴミとして処分するのも大変だった。それを余す事なく利用できるのだから畑の片隅に仕方なくいつも植えていた農家も大喜びだ。なんと言っても厄介なゴミまでお金になる。クルフなど家畜の餌で、柵代わりでしかなかったのだ。今やそのクルフもポップコーンとして大人気となれば、これほど嬉しいことはないだろう。
《あっ。そういえば、クルフ専門の農家をやりたいという相談が来ていましたよ?》
「まあ、そうなるよな。う~ん……他の農業との兼ね合いもあるからなあ……辺境伯の所とも協議が必要だ。親父が今度来るのは……」
《再来週のはずです》
「おっ。なら、そん時にだな。製紙工場の本格稼動の相談もするか……」
《資料の作成をゴルドさんに依頼しときます》
「そうしてくれ。あ~……やること多いな~」
手帳に新たな予定を書き入れ、机に突っ伏す。やりたい事もやるべき事も多い。一度枠を作って手を離れてしまえば問題はないのだが、それまではしっかりと筋道を立てて先導しなくてはならない。
「何事も一つずつだな」
《先ずは鉱山のゴーレムです》
「そうだな。明日には行くかな」
《ジュエルさんがやる気だそうです》
「え? ジュエルのやつ、やっぱ付いてくる気か……まあ、良いけど。なら、シンジュをこっちのサポートに回すか」
《助かります!》
「それじゃあ、それでいこう」
日頃、ジュエルやエン達フェンリルの三つ子の世話をお願いしているクマのシンジュを、スタックのサポートに回すことにした。鉱山ではフィルズがジュエル達と行動するのだ。丁度良い。そう予定を立てて、フィルズは翌日、ビズに乗ってジュエル、エン、ギン、ハナと共に鉱山のある元男爵領、ミルトーラへと向かったのだ。
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