上 下
143 / 154
ミッション9 学園と文具用品

323 巡回させます

しおりを挟む
フィルズは、冒険者を坑道の入り口が見える場所に集めていた。

「そんじゃあ、ジュエル。囲いを作ってくれ」
《クキュゥ ♪   クッ、キュゥゥゥ!》

パタパタと小さな翼を動かして、地面から三メートルほど上に上がると、場所を確認して力を行使する。


ゴゴゴゴゴッ


地面が隆起し、一メートルほどの高さで、件の坑道の入り口から一本道を作り、現在フィルズ達が居る、拓けた場所を丸く円形に囲った。

「「「「「おおっ~」」」」」

冒険者達と少し離れて見ていた騎士達も、囲われたこの場所を見回して距離感を把握しているようだ。

「これだけ広ければ……」
「鉱山が稼働していたら、これだけの場所は取れなかっただろうな……」
「なんとか訓練場の倍はあるか……」

魔獣との戦いとなると、それなりに広い場所が必要だ。数も予想できない。とはいえ、一本道で撃ち漏らしたものを相手にする場所だ。それほど酷い乱戦にはならないだろう。

「騎士の兄ちゃん達は、あそこから外に出て、万が一にも外に飛び出す奴がいた場合、対処を頼む」

人一人出入りできる割れ目を指差して、この場からの退場を願う。

「えっ! 私たちも戦うが?」
「あんたらは、対人戦が主だろ? ちょい耳貸して」
「ん?」

不満そうな騎士達を集めて、フィルズは小さな声で伝える。

「町の方の見回りをして欲しいんだよ。今回のトンネルを貫通させた奴らは、どうもセクラ伯爵領から来ているみたいでな……」
「っ、セッ……二つ隣の領ですよね?」
「ああ。ここの元男爵とは折り合いが悪かったと聞いている。そこから、盗んだ鉱石をガーネルに卸しているらしい」
「ガーネルというと……あの、坊ちゃんの所で引き取った……」

ガーネルは、この国の隣国の一つ。王妹のレヴィリアが一度はその国の王家に嫁いだ。そして、国への不満から、民の一部が盗賊となって、この国にやって来ていた。国を乱したレヴィリアが悪いと思い込み、復讐するために行動に移した彼らは現在、この鉱山から少し離れた集落で、作物の品種改良や土壌改良の研究をしている。

「あいつらは関係してねえが、もしかしたら、あの国の土地の荒廃は関係があるかもしれん」
「……なんか大事になりそうな予感がするんですが……」

騎士達が不安そうな顔を向けた。これにフィルズは自信を持って頷く。

「そうだな。多分、面倒臭いことになる」
「坊ちゃん……」
「そんな情けない顔すんじゃねえよ。でだ。頼みたいのは、対人の部分だ。コソコソ盗みを働いて、それもこんな騒ぎにしてくれた相手だ。他にも何か仕掛けてくるかもしれん」
「……ここで魔獣の相手をしている間に、町で何かするかもしれない……と?」

混乱の最中に、町でも騒ぎを起こすということもあり得そうなのだ。

「そういうこと。他国の間者が入ってる可能性もあるんだ。それも、この国に良い感情を持ってない。あり得るだろ?」
「確かに……団長の方には」
「連絡済みだ。あちらでも警戒してもらう」
「分かりました。巡回させます」
「頼んだ」
「はっ!」

すぐに三人ほどでグループを組んでいく。それを見て、感心しながら、フィルズは言い忘れた事を思い出す。

「あっ。ウチの集落への見回りはナシで良い」
「あの国の間者が入るならば、あそこが一番危険では? 言っては何ですが……彼らは国を裏切った者と見られているはずです」

国を見限って、この国へやって来たとあちらの国では判断する可能性は高い。彼らは家族ごと来ているのだ。そう見られても仕方がないだろう。

「だからだよ。接触してくるなら、確実に捕まえられるだろ」
「……囮ですか……」

ニヤリと笑うフィルズ。その顔を呆れた様子で騎士達は見る。

「あそこに手を出すなら、あの国が本当に仕掛けて来るって証拠にもなるだろうが」
「……まあ、そうですね……分かりました。巡回ルートからは外します」

他国の、盗賊となってこの国に被害をもたらした犯罪者と見て、騎士が守らないこともあり得ると思わせられる。だから、不思議には思われないだろう。自然に、罠を張れる。

「おう。心配すんな。隠密ウサギの配置は完了してるからなっ」
「……敵の方が心配になりましたよ……」

微妙な顔をされた。心配無用なのは充分に伝わったようだ。

「よし。じゃあ、そろそろだ。冒険者のおっちゃん達も、準備は良いか?」
「いつでも良いぜ!」
「やったるぜ!」
「あっ。そう言ってる間に……来たみたいよ?」

坑道の奥から、何かがやって来る気配を感じ、一同は戦闘体勢を取った。

「戦闘開始だな」










**********
読んでくださりありがとうございます◎






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:1,672

義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,122pt お気に入り:911

悪役令嬢は勝利する!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:154

婚約破棄と言われても・・・

BL / 完結 24h.ポイント:5,495pt お気に入り:1,416

[完結]婚約破棄されたわたしは、新世界に出航します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:20

婚約破棄されたけど前世のおかげで無事復讐できそうです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:30

側妃は捨てられましたので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:695pt お気に入り:8,898

私と元彼と新しい恋人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:16

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。