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ミッション9 学園と文具用品

331 ボロクソ言うね

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学園生活を送るセルジュは、ここ数日機嫌が悪かった。

「もう嫌だ! なんなんだ! あの女共はっ! 行く所行く所付いて回って鬱陶しい!!」

特別個室で昼食を取っているのだが、苛立ち過ぎて食べる気もしないようだ。一緒に席についている第二王子のカリュエルが苦笑を向ける。

「仕方ないさ。セルジュは、この国唯一の公爵家の跡取りだ。縁を持ちたいと思う子女は多い。それも成績優秀で文武両道ということも、今回の試験ではっきりしたからな」

入学してから、初めての定期試験。それがついこの間終わった。その試験の点数と順位が貼り出されたと同時に、擦り寄って来る者が一気に増えたのだ。どこへ行っても、ついて回ってくる同級生にセルジュは辟易していた。

同席している第一王女のリサーナが優雅に食事を取りながら告げる。

「昨年までは、評価の仕方が曖昧な部分もあって、家格によっておかしな加点もありましたが、今回からは、純粋な実力評価ですからね」
「お陰で、私も自分の実力を改めて知れた。訳のわからん加点をされて、持ち上げられると、色々と勘違いをするからな」

これまでは、王子だから、王女だからとカリュエルとリサーナは順位が一番上で固定されていた。点数は発表されないため、それが正しいかは確認のしようがなかった。筆記試験の出来を知っているのは自分だけ。半分しか正解していなくても、一位なのだ。正しい自身の実力の程がわからなかった。そして、すごいと持ち上げられて、努力もせずに上位でいられることで、更に勉強へのやる気もなくなる。

「わたくしは、是非とも、以前の成績も今の評価基準で付け直してもらいたいですわ。そうすれば、どれだけ成長したかが理解できますもの」
「確かに……そうだな。学園長に頼んでみよう。愚かだった頃の自分を見つめ直すことができるかもしれない」

今でこそ、フィルズの下で勉強をした成果が出て、本来の実力もトップクラスになっている。だが、だからこそ分かる。ほぼ満点に近い今が順位で一番上になるのは間違いない。ならば、半分ほどしか出来なかった以前はどうだったのかと。

「それだよっ。どうなって、そうなったの!? 前までは、点数は出さなかったって聞いたよ!? それも筆記と実技まで細かく発表とかっ」

筆記試験は語学、算学、史学で合計三百点。実技試験が体術を見る剣術、魔導具を使っての戦闘力を見る魔導学、ダンスと礼法の社交学で合計三百点となる。

「因みに、何点だったんだい?」
「……筆記が二百九十二……実技が二百八十……」
「すごいなっ」
「それはすごいですわっ」

文句なく一位が取れる成績だった。

「寧ろ、筆記の八点はどこでの失点かが気になるな」
「語学と史学で四点ずつ……一問間違えた」
「算学は満点ということですか? 素晴らしいですねえ」
「いや、加算と減算しかない問題で間違えないよ……フィルが考えるような引っ掛け問題もなかったし」
「あっ、それはあるね。けど、意地の悪い問題がないのは、今となっては張り合いがない」
「ですわね。そこはなんだか残念でしたわ」

フィルズが作った問題には、意地の悪い引っ掛け問題が多く、答えを出した後も何度も考え直して最終的な答えを出すという、飽きない楽しさがあった。

「こうしてみると、学園の教育レベルは低いね」
「ええ……学園に来ている意味があるのかと疑いますわ」
「フィルが言っていたよね。勉強よりも、ここでは人の付き合い方を学ぶんだって……これが社会の縮図とか……絶望しかないけど」
「確かに。くだらない、低レベルな者しかいないのが浮き彫りになるようだ」
「改めてそう認識するとそうですわね……これで以前は満足していたと思うと、情けなくなりますわ」
「「「はあ……」」」

ため息しか出ない。

「そういえば、第一王子の話は聞きまして?」

リサーナとカリュエルは、セルジュの前では、お兄様とは呼ばなくなった。

「ああ。上位五十位にも入れなかったらしいね。外面だけで取り繕っていたあの人からすれば、屈辱的だろう」
「へえ~。何? 第一王子って、頭悪いの?」

セルジュが一年生、カリュエルとリサーナが二年生で、第一王子が三年生だ。教室も離れているため、一年生のセルジュは、三年生の様子など知らなかった。

「勉強は出来ないだろうなと思っていたけど、本当に出来なかったみたいだね」
「実戦を知ったわたくし達からすれば、剣もニブニブですわよ」
「なんですごいと思ってたんだろうなあ」
「本当ですわっ。リュブランとは逆に、良いように噂を上手く流していたのでしょうね」
「文武両道だと思っていたが、蓋を開けてみてびっくりというやつだ」

リュブランは、周りから何も出来ないやつと言われて来た。誰もその出来ないことを見ていないのに、それが当たり前のように言われてきたのだ。それとは逆に、第一王子はなんでもできる人と思われてきた。

「実戦も、実習で用意された場所か王家の狩猟場でしか経験がないのだと思いますわ」
「今思えば、一年前でもリュブランより出来なかっただろうね。今だったら幼児と老成した実力者との差くらいあるよ」
「わたくし達でも、リュブランが護衛になるくらい差がありますもの。あんな室内育成された王子なんて、お話になりませんわ」
「……ボロクソ言うね……」

もうカリュエルとリサーナは、第一王子への嫌悪感を隠しもしない。

「アレを兄と立てていた自分が気持ち悪いからね」
「アレをお兄様なんて呼んでいたなんて……うっ、食事の時に思い出したくないですわ」
「そこまで……?」

セルジュとしては、母親が違うだけの兄に、そこまで嫌悪感を向けるところが理解出来なかった。

「セルジュにはわからないだろうね」
「フィルさん大好きなセルジュさんには、理解できないかもしれませんわ。わたくしも、フィルさんが兄や弟でしたら文句などありませんのに……」
「羨ましいなあ」
「羨ましいですわ」
「え~、そう? ふふっ。フィルはあげないけど」
「ずるいよ……」
「ずるいですわっ」
「ふふんっ」

これでセルジュの機嫌は一気に回復する。フィルズの事は本心だが、カリュエルとリサーナは、微笑ましげにニヨニヨとするセルジュを見ていた。

そこへ、招かれざる客が現れた。







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読んでくださりありがとうございます◎
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