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ミッション9 学園と文具用品

332 違うからね?

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こちらの応答を聞かず、十人ほどの令嬢達が部屋に入って来たのだ。

「失礼いたしますわ~」

これに答えたのは、リサーナだ。

「何ですの? 許可もなく入って来るなど、礼儀というものを知らないのですか?」
「あら、これはリサーナ様のことを思ってこそですわ。このような個室で、男女が一緒にいるという方が問題ではありませんの?」
「……はあ?」
「っ、リサ、落ち着いて、顔っ」
「ちょっ、低いよっ」

王女としてあるまじき柄の悪い低さの声が出ていた。その表情も凶悪だ。慌ててセルジュとカリュエルが立ち上がり、その顔を隠した。

むっとしたままのリサーナを宥めるようにしてから、カリュエルが令嬢達を振り返る。

「リサーナは妹だ。それも双子の。兄妹で馬車にも乗る。そして、そんな兄である私が居るのに、妹に何かできると? 普通に考えれば、問題はないよね?」
「っ、ですがっ、男と女ですわっ。何があるか……」

どちらを貶めたいのか、それは令嬢達の目を見れば明らかだ。リサーナに向けるのは強い悪意があるのに対して、カリュエルやセルジュには、媚を売るような目をしている。

「それは、私が友人の妹を、その友人の前で何かすると言いたいのか?」
「そんなの、分かりませんものっ。婚約者以外との節度ある距離というのは、大切ですわ!」

腕を組み、軽蔑するような目を向けるセルジュは、鼻で笑いながら告げた。

「へえ。これで何かあると思える君たちの頭の方がどうかしていると思うけど?」
「「「っ!」」」

ぐっと言葉に詰まる令嬢達を、セルジュとカリュエルの体の隙間から見たリサーナは笑った。

「そうですわねえ。どれだけいやらしいことを考えているのかしら。なんでしたら、わたくしが聞いてさしあげますわ。女同士ならば話せますでしょう?」
「「「ぐっ……」」」

数で押せるとでも思ったのだろうか。しかし、既に逃げ腰だ。

「ところで……このようなバカげた事を言うように、この部屋に案内したのは、どなたですの?」
「っ、ば、バカげたっ……なんて酷いっ」
「ウザっ……」
「っ、リサっ、しーっ」
「ふんっ」

カリュエルがそんな事言ってはだめだよと嗜めるが、リサーナはそっぽを向いて抗議した。

その間、セルジュを気にしていなかったのがいけなかった。

「おい……泣けば誰かが味方してくれるとか、うやむやにできるとか考えてんじゃねえぞ」
「「「……え……」」」
「っ、セルジュっ!」

セルジュがめちゃくちゃキレていた。目が据わっている。令嬢達は、そんな言葉が令息から出て来るとは思ってもみない。寧ろ、言われ慣れていない彼女達には、何を言われたのか理解できなかった。その明らかに理解できませんという顔が、セルジュには更に許せなかった。

「とぼけた顔してんじゃねえよ。扉を閉めろ」
「っ、な、何を……っ」

バタンと彼女達の後ろで扉が閉まる。誰もそれを閉める者などいないはずだった。殺気まで纏うセルジュの目に射抜かれ、令嬢達は腰を抜かす。そんな令嬢達から一度目を閉じて視線を外したセルジュは、腕を組んでテーブルの端に腰掛けると、告げた。

「誰が犯人だった?」

答えたのは、いつの間にか部屋の隅に居たクルフィだ。

《第一王子の取り巻きをしている三年の女達です。醜い女どもですよ。アレは、人によってはっきりと対応を変えます。学園とは、そういうことを学ぶ場なのですねえ》
「違うからね?」

カリュエルが必死に止めようとする。しかし、セルジュもクルフィも完全に無視していた。

「腐った奴らを作ってるとか、ここは矯正施設か何かかもね」
「違うからっ」
《同意します。権力におもねり、忖度の取り方を学ぶ場なのでしょう。調べましたところ、まともな方は、くだらないと腐った者達を放置して関係を持たなかったようです。そのため、改善もされず、腐った者は更に周りを腐らせてきたという流れです》
「……」

先ほどまで、必死に会話修正しようとしていたカリュエルは肩を落として脱落した。ちょっと同意する所も出てきたためだ。

「関わりたくないよね。腐ったものは、処分するのも手間だし」
《焼却処分をした後に無害かどうかを確認し、埋めなくてはなりませんから。アンデットと同じです》
「なるほど。けど、あれは臭いがあるから、まだ良い方だよ。近付く前の心構えができる」
《いえ、統計を取った結果、キツい自身の体臭を完全に消そうとするような香りを纏っている者ほど、内面が醜悪なようです》
「「「っ!!」」」

殺気が消え、床の冷たさで正気に戻っていた令嬢達は、それを聞いてドキリとする。自分たちの臭いを確認した。

「へえ。なんだっ。自分が腐ってるって、よく分かってるんじゃない?」
「「「っ……」」」
《無自覚ながらも自覚ありとは器用な連中です》

ゆっくりとそう言ってセルジュとクルフィは、座り込んだ令嬢達達へと、改めて視線を向けた。








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