元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

354 一連の流れのようです

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密偵達は、後ろ頭を掻きながら告白する。

「その……ここが一番安全だとわかるので」
「なんでか、その……本音で話せるんです」
「ここでなら話してもいいかなと、思ったり」
「相談とか、できるんですよ」

少々興奮気味に報告する密偵達。密偵同士が出会えば、殺伐とした雰囲気になるのが普通だ。その上、契約者も同じではない。それなのに、どう見ても仲良しにしか見えなかった。

『だよな』と同意し合い、ぎこちなく笑う。なんだか嬉しそうだ。まるで、初めてのお友達を紹介されているような気さえしてくる。

「なるほど。同じ立場の方同士、悩みも分かち合えるでしょうし、良かったですねっ」
「「「「はい!」」」

そういう話だっただろうかと、王族組は最初の話がなんだったかを必死で思い出していた。密偵をやる者たちなど、同じ雇い主についたとしても仲良くやれるものではないはずだ。それが分かるから、余計に混乱する。

しかし、コウヤも、呑気に彼らの親交を微笑ましく思って終わりにするつもりはない。話は進める。

「では、その感じで、あなた方の意見を聞かせてください」
「……意見……ですか?」

密偵である彼らが意見を求められることは稀だ。だから、少々戸惑う様子が見られた。表情にはっきりとは出なくても、声から察せられるものはある。

「はい。こうして他の国の密偵とも仲良くされるのは、指示されてということではないのでしょう?」
「ええ……ここでこうして、話し合いで情報交換なんてこと……しているとは知られていません」
「これは我々の独断です……」

密偵達は、ここでは争わない。それが暗黙のルール。それはここで生まれたもので、ここ以外ではまだ適応される所はない。どうしてこんなことになったのか。説明を求められてもはっきりいって困るものだ。

どのみち、密偵としては致命的な理由。だが、もしも、本当に説明しろと言われたならば、彼らは命をかけてこう言うだろう。


『何にもできないんです。あそこでは。静かに息を潜めることさえ難しい。けれど、問答無用で排除されることもない。情報も拾えないこともないが、どれがあそこを守っている者たちの地雷になるかがわからない。そんな場所です』


そこで区切って、雇い主が激昂せず、何かを考えるようならば、こう続けるだろう。


『同じように思っている他国からの密偵達と身を寄せ合うようになるほど、あそこは世界が違う。せめて情報を擦り合わせ、持ち帰るものを精査することしかできないんです』


納得されるとは思っていない。けれど、これが真実だ。

最初は、他国の密偵と、それぞれの切り札となる情報を貸し与え、自分たちの身の安全を図る。それを考えてのことでもあった。この国の有力な情報が持ち帰れないならば、代わりになる他国の情報をと思ったのだ。

そして、何度もこれはここから生きて出ていける情報か、そうでないかを相談している内に、現在のなんでも相談できる平和な状態ができあがった。

「なら、教えてほしいんです。あなた方から見て、所属されている国は、このままで問題ありませんか?」
「……それは……国が……国として、この先やっていけるかということですか」
「はい。手は必要ですか?」
「……」

病を内に秘めた国々は、現在内乱状態にあると予想される。決起はしていないが、それでも、下の方で小競り合いは増えているだろう。

そうした動きの影響もあり、中央の機能が半ば停止しだしているはずだ。今はまだ良いが、長引けば、その国に住む民達が余波をくらうことになる。

いくら他国からは攻撃を受けないとはいっても、国が疲弊すれば、回復するまで何倍も時間がかかる。その間に立ち行かなくなり、他国と併合ということはあり得るのだ。

「密偵として、物事を客観的に見ることのできるあなた方なら、もう察しているかもしれません。この状況は、恐らく神教国が狙っていたものでしかありません」
「あ……」

彼らならば分かるだろう。裏で動く彼らには、裏の情報が入ってくる。

神教国と、教会で繋がっていた貴族がいなかったかどうか。そして、その貴族が今、どの位置にいるのかを知っていれば、すぐに分かる。

そこで、アビリス王達が理解できないという顔をしていたので、先にこちらの情報を出すことにした。

ここにサーナと一緒に出てきた男。彼には、コウヤが頼んで特別に情報を集めてもらっていたのだ。それが集まったから、ここに出てきたのだろう。

コウヤは、密偵達の後ろに控えていた彼に目を向ける。

「ジェラフさん。頼んでいた情報は集まりましたか?」
「はい。報告させていただきます」
「お願いします」

今まで、一言も話さなかった彼が、一歩踏み出して、執事のように礼をしてから口を開いた。

「ここ二百年の特定の病の発症が王家周辺に現れた国を調べました。これによると、三十年から五十年周期で、五人ずつ発症すると確認できました。対象者の大半は王、他は王妃か皇后であったと」

五人というのは、儀式で使われていた怪しげな魔導具の数と同じ。同時に使うことで力を発揮するが、個々に対象が選べたということなのだろう。

その魔導具は、テンキによって現在までに全て壊されている。パックンによって一つは回収し、現在、ゼストラークが時間を見ては解析をしていた。

「その国々は、現在のこちらの者たちの国と同じ状況か、病の者が亡くなった後に内乱のち、弱体化、又は隣国との併合という道を辿っておりました。これらは、実際に見ていたエルフやドワーフの混血の方々からの情報です。そして、そこに救済と称して神教国が入り込んでくるというのが一連の流れのようです」
「……」

コウヤは予想していた。だが、密偵達は呆然としてしまっている。目を向ければ、フレスタやディスタ達もだ。

そして、アビリス王は重く息を吐き出して俯き、顔を手で覆った。

「全て、あの国の仕組んだことであったか……」

分かっていたがここまでかと、心から失望した様子が窺えた。それを見て、コウヤは励ますように告げた。

「ですから、まずは、それぞれの国から関係者を弾き出しましょう。幸いというか、今、神教国は身動きが出来なくなっています。それぞれの国にある教会が助けを求めようにも、何もできませんからね。今が好機です!」
「……」

呆然とする密偵達。その後ろで、サーナとジェラフは頷く。

「で、各国から人も呼んで、話し合いをしましょう。屋根裏……はないですね」

天井を見上げてコウヤは考える。そこで閃いたと笑顔を皆へ向けた。

「会談となると、どこにも所属していない所がいいですし。空なんてどうですか?」
「「「「……は?」」」」

上を指差して笑うコウヤに、どう答えるべきか、誰も分からなかった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします!
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