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【第8話:マリンの買い被り】
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食堂のテーブル席にマリンと向かい合って座った。
普段は食堂でお茶を飲むなんて贅沢はめったにしない。
しかも学園一美しい貴族令嬢とテーブルを共にするなんて、緊張しすぎてお茶の味がわからないよ。
「ねえフウマ。あなたとララティさんって、いったいどういう関係?」
「え? 関係って言ったって……」
「初対面って感じじゃないわよね?」
俺とララティが知り合いだという話はしていないのに、マリンって鋭いな。
ん~、なんて答えようか?
初対面だなんてまったくの嘘はすぐにバレそうな気がした。だから少し迷ったけど、できるだけ嘘はつかないようにしよう。
ララティが魔王の娘だってこと以外は。
「数日前にたまたま知り合ったんだ。だけど彼女がウチの学院に転入してくるなんて聞いてなかったから、びっくりしたよ」
「そうなの。あなた、なにか彼女の弱みでも握ってるの?」
「え? なんのこと?」
「だってあの子、フウマの言うことを不自然なくらい素直に聞くもの」
──あ、なるほど。
「あなたはそんな酷い人じゃないと思うけど、もし本当に脅してるなら困ったことだと思って」
だからさっきララティが俺の言うことに素直に従った時に、マリンは不機嫌そうな顔をしてたのか。
「弱みを握ってるなんてことはないよ。俺もちょっと不思議に思うんだけど……彼女が俺を友達だと思って、立ててくれてるんだと思う」
「そう。フウマって真面目で誠実だし、その話しぶりだと本当にそうみたいね」
わかってくれてよかった。
「ただわたしが見た感じだと、彼女はあなたを立ててるって言うより、フウマの言うとおりにすることに喜びを感じてるんじゃないかしら」
「俺の言うとおりにすることに喜びを? え? なんで?」
「わからないの? つまり女心は複雑ってことよ」
「どういうこと?」
「ううん、気にしないで。ますますあなたに興味が出てきたわフウマ」
マリンの言うことが、マジわからん。
俺は今まで女の子と仲良くしたことがないから、女心なんてまったくわからないよ。
「あんなに仲良さげな態度を見せられたら、私の方がちょっと妬いちゃったけどね」
「いやだから、別に仲良さげでもないって」
「まあ、いいわ。ふふ」
いやマジで。ララティは魔王の娘で最恐の女子だぞ。
俺みたいな落ちこぼれと仲良いなんて言われたら、怒るだろう。
しかもだ。もしお父様(つまり魔王)の耳にそんなことが届いたら、俺は瞬殺されるに違いない。
おおぅっ……怖すぎるだろブルブル。
「ねえフウマ。あなたって今まで思っていたのとだいぶ違うわね」
「え? 今まで思っていたのって?」
「あなたとは今の学年になって初めて同じクラスになったけど」
そう。クバル魔法学院に10歳で入学して6年。今まではずっと別のクラスだった。
それが最終学年の今年、初めて同じクラスになった。
マリン・モンテカルロは三大貴族のご令嬢で、成績優秀な才色兼備の高嶺の花。
同じクラスになって1ヶ月が経つが、まともに喋ったのは今日が初めて。
だから彼女がどんな人物なのか、実際のところはほとんど知らない状態だ。
「フウマって普段は目立たないし、人付き合いが苦手で、大人しい人かと思ってたわ」
「うん。だいたいその認識で間違いないぞ」
もっと言うなら、魔力量が雑魚な落ちこぼれ。
マリンは気を遣ってそこには触れないけど、俺が落ちこぼれなのはみんな知ってることだ。
彼女が言う『今まで思っていた』の中には、きっとそれも含まれるに違いない。
「ううん。だってララティさんにすごく信頼されてるみたいだし、倒れてる魔獣を放っておけないくらい優しいし、それに魔法に関しても……」
「魔法に関しても?」
「何か秘めた力を持ってるみたいだし」
「いや、それはマジでないよ。買い被りすぎだ」
「どうかしら? あくまで隠し通したいみたいね」
「だからそうじゃないって」
なんでマリンはそんなことを言うんだろう。
俺、からかわれてるのかな。
「まあ、いいわ。今日のところはそういうことにしておいてあげる。……あ、戻って来たわね」
マリンの視線を追うと、ツバルとララティが食堂の入り口から入ってくるのが見えた。
ララティの校内案内も終わって、今日はここで解散することになった。
普段は食堂でお茶を飲むなんて贅沢はめったにしない。
しかも学園一美しい貴族令嬢とテーブルを共にするなんて、緊張しすぎてお茶の味がわからないよ。
「ねえフウマ。あなたとララティさんって、いったいどういう関係?」
「え? 関係って言ったって……」
「初対面って感じじゃないわよね?」
俺とララティが知り合いだという話はしていないのに、マリンって鋭いな。
ん~、なんて答えようか?
初対面だなんてまったくの嘘はすぐにバレそうな気がした。だから少し迷ったけど、できるだけ嘘はつかないようにしよう。
ララティが魔王の娘だってこと以外は。
「数日前にたまたま知り合ったんだ。だけど彼女がウチの学院に転入してくるなんて聞いてなかったから、びっくりしたよ」
「そうなの。あなた、なにか彼女の弱みでも握ってるの?」
「え? なんのこと?」
「だってあの子、フウマの言うことを不自然なくらい素直に聞くもの」
──あ、なるほど。
「あなたはそんな酷い人じゃないと思うけど、もし本当に脅してるなら困ったことだと思って」
だからさっきララティが俺の言うことに素直に従った時に、マリンは不機嫌そうな顔をしてたのか。
「弱みを握ってるなんてことはないよ。俺もちょっと不思議に思うんだけど……彼女が俺を友達だと思って、立ててくれてるんだと思う」
「そう。フウマって真面目で誠実だし、その話しぶりだと本当にそうみたいね」
わかってくれてよかった。
「ただわたしが見た感じだと、彼女はあなたを立ててるって言うより、フウマの言うとおりにすることに喜びを感じてるんじゃないかしら」
「俺の言うとおりにすることに喜びを? え? なんで?」
「わからないの? つまり女心は複雑ってことよ」
「どういうこと?」
「ううん、気にしないで。ますますあなたに興味が出てきたわフウマ」
マリンの言うことが、マジわからん。
俺は今まで女の子と仲良くしたことがないから、女心なんてまったくわからないよ。
「あんなに仲良さげな態度を見せられたら、私の方がちょっと妬いちゃったけどね」
「いやだから、別に仲良さげでもないって」
「まあ、いいわ。ふふ」
いやマジで。ララティは魔王の娘で最恐の女子だぞ。
俺みたいな落ちこぼれと仲良いなんて言われたら、怒るだろう。
しかもだ。もしお父様(つまり魔王)の耳にそんなことが届いたら、俺は瞬殺されるに違いない。
おおぅっ……怖すぎるだろブルブル。
「ねえフウマ。あなたって今まで思っていたのとだいぶ違うわね」
「え? 今まで思っていたのって?」
「あなたとは今の学年になって初めて同じクラスになったけど」
そう。クバル魔法学院に10歳で入学して6年。今まではずっと別のクラスだった。
それが最終学年の今年、初めて同じクラスになった。
マリン・モンテカルロは三大貴族のご令嬢で、成績優秀な才色兼備の高嶺の花。
同じクラスになって1ヶ月が経つが、まともに喋ったのは今日が初めて。
だから彼女がどんな人物なのか、実際のところはほとんど知らない状態だ。
「フウマって普段は目立たないし、人付き合いが苦手で、大人しい人かと思ってたわ」
「うん。だいたいその認識で間違いないぞ」
もっと言うなら、魔力量が雑魚な落ちこぼれ。
マリンは気を遣ってそこには触れないけど、俺が落ちこぼれなのはみんな知ってることだ。
彼女が言う『今まで思っていた』の中には、きっとそれも含まれるに違いない。
「ううん。だってララティさんにすごく信頼されてるみたいだし、倒れてる魔獣を放っておけないくらい優しいし、それに魔法に関しても……」
「魔法に関しても?」
「何か秘めた力を持ってるみたいだし」
「いや、それはマジでないよ。買い被りすぎだ」
「どうかしら? あくまで隠し通したいみたいね」
「だからそうじゃないって」
なんでマリンはそんなことを言うんだろう。
俺、からかわれてるのかな。
「まあ、いいわ。今日のところはそういうことにしておいてあげる。……あ、戻って来たわね」
マリンの視線を追うと、ツバルとララティが食堂の入り口から入ってくるのが見えた。
ララティの校内案内も終わって、今日はここで解散することになった。
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