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【第24話:ララティのお願い】
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その日の夜。就寝時間のちょっと前。居間での事だった。
カナが眠い目をこすりながら寝室へと向かった後、ララティが俺に声をかけてきた。
「なあフウマ」
「ん? なに?」
「ちょっとお願いがあるんだが、いいか?」
「改まってどうしたんだよ? いいよ」
「今から教える魔法をあたしにかけてみてくれないか」
「なんの魔法?」
「それは内緒だ」
「内緒?」
「ああ、そうだ」
なんの魔法なのかわからずに他人に魔法をかけるって、何が起こるかわからないから不安だぞ。それに、内容を知らずに呪文だけで魔法をかけるのはハードルが高い。
でもまあ本人が言ってるんだから、そう危険なものじゃないんだろう。
だけど──
「魔法をかけるのはいいけど、俺みたいな雑魚魔力の者に頼むのはどうかと思うぞ。それよりも誰か、魔法能力に長けた誰か他の人に頼んだ方が……」
「いいんだよ。あたしはフウマに頼みたいんだ」
ちょっと怒ったようなララティの口調。
そう言えばコイツはコミュ障で、俺以外に親しくしてる生徒はいないからなぁ。
頼める相手がいないんだろう。まあ仕方ないか。
「わかった。じゃあ呪文を教えてくれ」
「『アウストレーベン』だ」
アウストレーベンか。聞いたことがない呪文だ。なんだか古代魔法っぽい響きだな。
「じゃあ行くぞ」
「ああ。思いっきりかけちゃってくれ」
かけちゃってくれと言われてもな。
なんかちょっとエッチな響きだと思うのは俺だけか?
そんな雑念は一旦横に置いておこう。
ちゃんと集中しないと、魔法を発動させることすらできない。
俺はララティに向かい合って立ち、右手のひらを彼女の額辺りにかざした。
そして手に意識を集中し、教えられた呪文を詠唱する。
「よし行くぞ。……『アウストレーベン』!」
魔力が俺の身体中を巡り、そして右手に集まるのを感じる。
なんだこれ!?
今までに感じたことがないくらい、大きな力が身体を巡っている。
そして眩いばかりの光が右手を包み、そこからララティに向かって一気に放出された。
大きな光の筋がララティの細身の身体を直撃する。
「うわぉっ!」
魔力に押されてのけぞるララティ。
片足を後ろにして、ぐっと踏ん張った。
うわ、すっげえ。俺の魔法がこんなに勢いを持つなんて、生まれて初めての体験だ。
どういうことだ?
「いいぞフウマ。これならば……」
しばらくすると俺の手から出てララティに当たっていた光の束が消えた。
これで……よかったのだろうか?
「どうララティ? 魔法はちゃんと発動したかな?」
「ん……どうだろう」
ララティは後ろを向いて、俺に見えないように何かをしている。
どうやら服の袖をまくり上げて、手のひらか手の甲を確かめてるみたいだ。
だけど何をしているのかは、はっきりとはわからない。
「いや……ダメだな」
そう言ってララティは、また俺の方に向いた。
その顔は、とても残念そうだった。
「なあララティ。やっぱ何の魔法なのか教えてもらった方が、ちゃんと発動させやすいよ」
魔法というのは、単に呪文を唱えればいいというものではない。
どんな現象が起こるのか、術者がしっかりイメージできてこそ、効果の高い魔法が発動するのである。
ましてや俺みたいに魔力が弱い人間が、イメージせずに呪文の詠唱だけでかける魔法なんて、魔法自体は発動しているけど、大した効果が出なくて当たり前だ。
「いやダメだ。内緒だって言っただろ」
「そうだけどさ……」
こんな残念そうな顔を見たら、なんとか成功させたいって思うじゃないか。
「じゃあもう一回やってみようか?」
「いやいい。ちゃんと発動するにはやはり力が足りなさすぎる。同じやり方を何度したところで、効果が出る可能性はほぼない」
だよな。
ララティのお願いをまったく実現できないなんて……俺ってこんな雑魚な魔法使いで、マジ情けない。
「あ、フウマ。気にするな。キミが悪いわけじゃない」
俺はあまりに落ち込んだ情けない顔をしたんだろう。
ララティが慌ててフォローしてくれた。
だけど俺が悪いんだよララティ。
何年も学んでいるにも関わらず、底辺で落ちこぼれな魔法使いでしかない俺が悪いんだよ。
でも落ち込んだ顔のままだとララティに心配をかけてしまう。だからあえて明るく振る舞った。
「あ、うん。わかってるよ。大丈夫だ」
「そっか。協力してくれてありがとうフウマ。また機会があったら頼む。じゃああたしも寝るわ」
そう言いながら、ララティはトボトボと寝室に向かった。
「おう。いつでも依頼してくれ」
俺は肩を落として丸まったララティの背中に、そんな言葉をかけるしかできなかった。
***
(sideララティ)
「くそっ、、ダメだったか」
寝室に戻ってベッドに腰かけたあたしは、つい枕をグーパンで殴った。
悔しい。
あたしが毎晩、フウマの体内への魔力蓄積を続けているおかげで、彼の魔力はかなり上がっている。
だけど魔法の中身も教えないままだと、強力な眷属の呪いを解除するには全然と言っていいほど力が足りない。
うーむ、どうしたものか。
やはり眷属の呪いのことをきちんとフウマに説明をすべきだろうか。
……いや、やはりそれはリスクが高い。
フウマはかなり信頼ができる人間だ。
そして魔族であるあたしを受け入れてくれてる。
だけどどこまでいってもあたしと彼は、魔族と人間なのだ。
いがみあって殺し合って、争い合っている者同士なのだ。
もしあたしが眷属の呪いに支配されているとフウマが知ったら、彼はどうするだろうか。
あえて呪いを解かずにおいて、あたしを利用しようとしないだろうか。
最近、この地域で魔族の不穏な動きをちょこちょこと感じる。
今までこの辺りにはいなかった魔獣が現われたり、魔法学園の授業で原因不明の魔力暴走が起きたり。
今後アイツらがさらにおかしな動きを広げてくるなら、人間は警戒を強め、魔族に対抗する方法を考えないといけなくなる。
そんな時に、魔王の娘であるあたしを自由に操れる呪いの存在を、人間が知ったらどうなる?
フウマはいいヤツだ。それは間違いない。
だけど場合によっては、眷属の呪いを利用しようとする可能性も、ゼロとは言えない。
だから、あたしは慎重に判断をしなくてはならないのだ。
= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。自我亡失まで15日 =
カナが眠い目をこすりながら寝室へと向かった後、ララティが俺に声をかけてきた。
「なあフウマ」
「ん? なに?」
「ちょっとお願いがあるんだが、いいか?」
「改まってどうしたんだよ? いいよ」
「今から教える魔法をあたしにかけてみてくれないか」
「なんの魔法?」
「それは内緒だ」
「内緒?」
「ああ、そうだ」
なんの魔法なのかわからずに他人に魔法をかけるって、何が起こるかわからないから不安だぞ。それに、内容を知らずに呪文だけで魔法をかけるのはハードルが高い。
でもまあ本人が言ってるんだから、そう危険なものじゃないんだろう。
だけど──
「魔法をかけるのはいいけど、俺みたいな雑魚魔力の者に頼むのはどうかと思うぞ。それよりも誰か、魔法能力に長けた誰か他の人に頼んだ方が……」
「いいんだよ。あたしはフウマに頼みたいんだ」
ちょっと怒ったようなララティの口調。
そう言えばコイツはコミュ障で、俺以外に親しくしてる生徒はいないからなぁ。
頼める相手がいないんだろう。まあ仕方ないか。
「わかった。じゃあ呪文を教えてくれ」
「『アウストレーベン』だ」
アウストレーベンか。聞いたことがない呪文だ。なんだか古代魔法っぽい響きだな。
「じゃあ行くぞ」
「ああ。思いっきりかけちゃってくれ」
かけちゃってくれと言われてもな。
なんかちょっとエッチな響きだと思うのは俺だけか?
そんな雑念は一旦横に置いておこう。
ちゃんと集中しないと、魔法を発動させることすらできない。
俺はララティに向かい合って立ち、右手のひらを彼女の額辺りにかざした。
そして手に意識を集中し、教えられた呪文を詠唱する。
「よし行くぞ。……『アウストレーベン』!」
魔力が俺の身体中を巡り、そして右手に集まるのを感じる。
なんだこれ!?
今までに感じたことがないくらい、大きな力が身体を巡っている。
そして眩いばかりの光が右手を包み、そこからララティに向かって一気に放出された。
大きな光の筋がララティの細身の身体を直撃する。
「うわぉっ!」
魔力に押されてのけぞるララティ。
片足を後ろにして、ぐっと踏ん張った。
うわ、すっげえ。俺の魔法がこんなに勢いを持つなんて、生まれて初めての体験だ。
どういうことだ?
「いいぞフウマ。これならば……」
しばらくすると俺の手から出てララティに当たっていた光の束が消えた。
これで……よかったのだろうか?
「どうララティ? 魔法はちゃんと発動したかな?」
「ん……どうだろう」
ララティは後ろを向いて、俺に見えないように何かをしている。
どうやら服の袖をまくり上げて、手のひらか手の甲を確かめてるみたいだ。
だけど何をしているのかは、はっきりとはわからない。
「いや……ダメだな」
そう言ってララティは、また俺の方に向いた。
その顔は、とても残念そうだった。
「なあララティ。やっぱ何の魔法なのか教えてもらった方が、ちゃんと発動させやすいよ」
魔法というのは、単に呪文を唱えればいいというものではない。
どんな現象が起こるのか、術者がしっかりイメージできてこそ、効果の高い魔法が発動するのである。
ましてや俺みたいに魔力が弱い人間が、イメージせずに呪文の詠唱だけでかける魔法なんて、魔法自体は発動しているけど、大した効果が出なくて当たり前だ。
「いやダメだ。内緒だって言っただろ」
「そうだけどさ……」
こんな残念そうな顔を見たら、なんとか成功させたいって思うじゃないか。
「じゃあもう一回やってみようか?」
「いやいい。ちゃんと発動するにはやはり力が足りなさすぎる。同じやり方を何度したところで、効果が出る可能性はほぼない」
だよな。
ララティのお願いをまったく実現できないなんて……俺ってこんな雑魚な魔法使いで、マジ情けない。
「あ、フウマ。気にするな。キミが悪いわけじゃない」
俺はあまりに落ち込んだ情けない顔をしたんだろう。
ララティが慌ててフォローしてくれた。
だけど俺が悪いんだよララティ。
何年も学んでいるにも関わらず、底辺で落ちこぼれな魔法使いでしかない俺が悪いんだよ。
でも落ち込んだ顔のままだとララティに心配をかけてしまう。だからあえて明るく振る舞った。
「あ、うん。わかってるよ。大丈夫だ」
「そっか。協力してくれてありがとうフウマ。また機会があったら頼む。じゃああたしも寝るわ」
そう言いながら、ララティはトボトボと寝室に向かった。
「おう。いつでも依頼してくれ」
俺は肩を落として丸まったララティの背中に、そんな言葉をかけるしかできなかった。
***
(sideララティ)
「くそっ、、ダメだったか」
寝室に戻ってベッドに腰かけたあたしは、つい枕をグーパンで殴った。
悔しい。
あたしが毎晩、フウマの体内への魔力蓄積を続けているおかげで、彼の魔力はかなり上がっている。
だけど魔法の中身も教えないままだと、強力な眷属の呪いを解除するには全然と言っていいほど力が足りない。
うーむ、どうしたものか。
やはり眷属の呪いのことをきちんとフウマに説明をすべきだろうか。
……いや、やはりそれはリスクが高い。
フウマはかなり信頼ができる人間だ。
そして魔族であるあたしを受け入れてくれてる。
だけどどこまでいってもあたしと彼は、魔族と人間なのだ。
いがみあって殺し合って、争い合っている者同士なのだ。
もしあたしが眷属の呪いに支配されているとフウマが知ったら、彼はどうするだろうか。
あえて呪いを解かずにおいて、あたしを利用しようとしないだろうか。
最近、この地域で魔族の不穏な動きをちょこちょこと感じる。
今までこの辺りにはいなかった魔獣が現われたり、魔法学園の授業で原因不明の魔力暴走が起きたり。
今後アイツらがさらにおかしな動きを広げてくるなら、人間は警戒を強め、魔族に対抗する方法を考えないといけなくなる。
そんな時に、魔王の娘であるあたしを自由に操れる呪いの存在を、人間が知ったらどうなる?
フウマはいいヤツだ。それは間違いない。
だけど場合によっては、眷属の呪いを利用しようとする可能性も、ゼロとは言えない。
だから、あたしは慎重に判断をしなくてはならないのだ。
= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。自我亡失まで15日 =
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