夢の橋

伯爵13

「総司はどこですか？」
「知らないのか？庭で毎朝剣の練習をしているさ」
　書物を抱えた源内が言う。私はほとんど森のようなこの屋敷の庭に降りたことがない。森の小道を歩くと声を上げている。総司が真剣を振っている。
「危ないじゃないか？」
「何言っているの？私は総司よ」
「トラベラーじゃないか？」
「私は総司として斎藤一と戦う」
　確かにあの重い剣を振り切っている。
「これは科学的には説明がつかないのだがな。その時代の役を担うと自然とそれに近づこうと言う心も体もどうかしようとするようだ」
　後ろから笑いながら源内が言う。
「私は君たちを観察することが仕事だからね？早く娘を抱いて子供を産んでくれよ」
　どうも源内も娘も本気なのだ。
「実験ね？やってあげたら？」
と言うなり剣を振り下ろしてくる。私は飛ぶように撥ねる。
「ほらね？源内の言うのは正しい。鼠も体がそうなりつつあるの」
「だが斎藤一とやるのは無理だ。総司が切られるのは見たくない」
　総司といると妙は気持ちになる。
「目を細めて景色が歪んで来たら人の動きが停まるのだ」
「歪まないわ」
　総司にはその能力がないのだろうか。だがトラベラーにはなべてあるはずだと伯爵は言っていた。