夢の橋

夢人

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伯爵15

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 博徒5人に守られて私が先頭で走る。もうすぐに伯爵の屋敷に向かう曲り道に来る。その時殺気を感じて飛び下がる。だが付いてきている博徒が2人切り倒されている。黒い影が現れる。覆面をしていない。斎藤一だ。
「下がれ鼠」
 後ろから蜘蛛が声をかける。私の手に負える相手ではないのだ。残った博徒3人は西郷を守る。だが通り抜けられない。蜘蛛が一撃を加えるが一は少し下がって避ける。次に上段に構える。蜘蛛は体を低く構える。蜘蛛は下からすり抜けようとしている。私も小刀を抜いた。
 蜘蛛は一の足を払うように走り抜ける。一は飛び上がりその剣を反対に振り下ろす。確実に蜘蛛の背中を切り裂く。私は走ろうとして足を止めた。その剣を受けたのは突然に現れた総司だ。
「総司か?」
 斎藤一が総司を認知した。なぜだろう。似ているのか。総司の目が釣りあがっている。命をかけている。
「構えも一緒だな」
「私は総司だ」
 一はゆっくりと剣を上段に構え直した。
「二人の総司はいらない」
 これは不味い。トラベラーでも死ぬのだ。それだけでなく元の世にいる総司も消えるのだ。私は小刀を構えて目を細める。風景が歪んでくる。だが一の剣が少し早く総司に振り下ろされている。次の瞬間凄い風が私の横をすり抜けていく。一の剣が停まっている。
 私は総司の立っていた位置に転がっている。その後ろに一の剣が振り下ろされている。時間の隙間で小刀を振ることは無理なようだ。だが切られたはずの総司が私の位置で剣を構えている。総司は時間の隙間を走り抜けたようだ。でもきょとんとしている。裏門が開いて博徒が何人も飛び出してくる。
 すでに斎藤一は剣を収めて後ろに走り出している。
「習得したのだな?」
「覚えていない」




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