夢の橋

夢人

文字の大きさ
上 下
16 / 182

伯爵16

しおりを挟む
 西郷は地下室に入った。伯爵は朝から彼と長話をしている。西郷の食事の上げ下げは源内の娘がしている。私は総司に無理やりに稽古に連れて来れれている。もう20度も同じことを繰り返しているが一度も成功せず、最後は二人とも衝突して気絶した。時間の隙間を作れないのだ。
 源内がたんこぶの治療をしてくれる。
「まだまだ二人とも自分の意志では無理なようだね?これは私の推測だが命の危険のような環境で起こるようだね?」
「命の危険?」
 再び立ち上がった総司が木に立てかけていた真剣を抜く。
「鼠も刀を構えてくれ」
「嫌だ。まだ死にたくない」
「危険だな?」
 源内が間に入る。この世界にいると死の恐怖が薄いのだが、トラベラーでも死ぬと聞いて死の観念が生まれている。もしかしたら容易にこの世界で死なないように時間の隙間ができるのだろう。
 総司の目があの時のように吊りあがっている。
「止められないみたいだ」
「仕方がない。治療は任せるのだ」
 それで治療道具を運んできた。その間も総司の目は引き攣ったように吊り上がっている。これは殺されるかもしれない。だが総司に殺されてもいいかと言う気持ちになる。女としての気持ちより妹の気持ちが強い。いつの間にか伯爵と西郷が縁先に立っている。
 総司がすでに剣を上段に構えた。私は震える手で小刀を構える。だが気持ち真っ直ぐに構えられていない。それを源内が見ている。だが総司の剣は頭から振り下ろされるだろう。自然に視線がぼやけてくる。私が一人走り抜けても衝突は怒らないはずだ。それにかけることにした。
「きえー!」
 総司の声と共に走り出した。



しおりを挟む

処理中です...