夢の橋

夢人

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伯爵17

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 人員整理が始まった。担当は吸収されるこちらの人事部が行うが、全員の面接の分析はこのチームが請け負った。これにはここの12人が専門とは係わらず丸1週間手伝った。全社員3500人のうちまず2500人が整理された。残った人間が最後に新会社に移転されるとは限らない。
 次の作業に必要な人間が主に残されたのだ。例えば人事処理をする人事部は大半残されたことになる。
「何時もの店に行ってるよ」
とメモが回って来る。今日は私は不当解雇裁判を起こした社員を整理から外して最終調整を任されている。久しぶりの残業だ。どうも私が一番若いから室長が使いやすいからだろう。明日から土日と連休だ。
「東は要注意だぞ」
 書類を届けた時に室長から念を押された。
「心中の後もカウンセラーを受けている。自殺願望が強い」
 自殺願望か。それが頭に残っている。銀座のビルまではいつも東方がタクシーを捕まえる。私は30分歩いて店のドアを押す。こうしてここ半月は二人でワインを飲みながら夕食を取っている。
「室長何か言わなかった?」
「いや」
「自殺願望だと?」
 もうすでにワインを飲んでいる。
「しばらくこうしているうちは死なないわ」
 いつも2時間すると私の方から立ち上がり一人帰る。
「今日は駄目よ」
 これは数日前から伝えられている。腕を取られて一緒に店を出る。タクシーを捕まえて六本木のラブホテルに入る。
「ここね、前の彼氏とよく来ていたところなの」







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