夢の橋

夢人

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出会う16

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「どうした?」
 日曜日は蒲田の飲み屋には暖簾がかかっていない。シャターが半分上がってスカートの総司が現れた。私はジャージー上下の彼女しか見たことがない。
「母が買ってきたのよ」
「可愛いね」
 恐らく他人が見たら兄と妹に見えるだろうと思った。浅草まで出て12時半の映画に飛び込む。私はサンドイッチとコーヒーを買ってきて椅子に並んで座る。このデートを強く推してくれたのはおばさんだ。映画は総司のものを探した。
「朝ね、母に前髪を切られたの。可笑しくない?」
「そうか?それで少しイメージが違ったのだな?」
 劇場が暗くなって映画が始まる。この映画はアイドルの女優が総司の役をしていて、観客席には若いアベックが多い。切り合いになると彼女が急に私の手を握る。温かい手だ。2時間はあっという間だ。それから雷門を潜ってベンチで休憩した。どうも長い時間外に出るのはまだ厳しいようだ。
「私向こうではお酒を飲むの?」
「ああ、結構強いよ」
「飲みに連れていて?」
「不味いよ」
「私はジュースにする。飲み屋の方が落ち着くの」
 それで東京に出てきて初めて入った居酒屋に入った。私はビールで総司はジュースをグラスに入れた。それがいきなり彼女はビールを飲んだ。
「私母に内緒でビールも酒も飲むの。悪い子よね?母もよく飲むわ。父や兄を失って飲まないとやっていけなかったと思う。私は精神的にもたなかった」
「つらい記憶だな?」
「母は私と自殺も考えたようだった。でも飲ませた私が吐いてしまって。私向こうではまだ打ち解けていない?」
「いや、最近は話してくれる」
「また、誘ってくれる?母が喜ぶから」
「もちろんだ」




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