夢の橋

夢人

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幕末の終わり15

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 昨日の東の言葉を思い出して日曜日の昼に外に出た。
「総司っていい子だね?私もいい人を探してみるわ。これ上げて?」
と言って紙バックをくれた。その中に総司が剣を構えている絵が入ったピンクのエプロンが入っていた。
 今日はおばさんから何度も言われていた3人で食べる初めてのランチだ。どういうわけか私はスーツを着た。よく考えたらスーツ以外まともな服は持っていない。駅に行くとおばさんが手を挙げた。おばさんもどこか窮屈そうなスーツを着ている。隣に恥ずかしそうに総司が可愛いフリルの付いたワンピースで隠れて立っている。
 3人黙って川崎に出た。おばさんが先に総司と私が並んで歩く。入ったのは老舗のステーキハウスだ。おばさんが懐かしそうに年配のコックと話している。
「あの人ここの主人でね、私と死んだ主人はここで働いていたのよ」
と言いながらビールを注いでくれる。私もおばさんにビールを注いで総司にも入れる。おばさんも未成年の彼女が飲むのを知っている。
「今の立ち飲み屋はステーキ屋をするのに借りたの。その工事中に事故で・・・」
 そこからは何度か話を聞いていた。そうだステーキ屋をするためにあのビルを借りたのだ。ステーキが運ばれてきておばさんは2本目を頼んだ。おばさんに言われて総司が細長い箱を出してきた。落ち着いた深緑のネクタイだ。総司も私もカウンターに向かっているようには話せない。それで私は東のエプロンを出した。
 急に総司がそれを見て嬉しそうに笑った。
「これ欲しかったの」
「ネットで探したのだけど?」
 東の言った言葉を言った。おばさんは2時間ほどすると用があると言って支払いを済ませて一人帰った。店を出ると公園がありその裏にはラブホテルのネオンが見える。おばさんもそのホテルに行っていたのかしれないなと思った。総司は気に行ったのかエプロンの袋を抱いている。
「鼠は総司を抱いた?」
「抱こうものなら切られるよ」
と答えると楽しそうに笑う。
「母は抱かれなさいと言ったよ。だがら新しい白いパンツをはかされた。私はいいのよ」
「今日はキッスだけでいい。向こうの総司を抱いて君を抱く」






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