夢の橋

夢人

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夜明け前6

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 相変わらず総司は口をきいてくれない。逆に源内の娘は書斎に来ては私に話しかける。蜘蛛と執事の孫六は相変わらず犬猿の仲だ。孫六は総司を可愛がっている、
 今日は伯爵が新しくできたビアホールに出かける。人力車の前に総司が付き私は後ろから離れて歩く。伯爵は相変わらず政府の要注意人物で私服が2人付いている。戻ってから斎藤一の姿を見ない。川路から罷免されたんだろうか。
 ホールに入ると人ごみの中を2階の席に通される。立派な髭を生やした男が伯爵に握手を求める。この人が板垣退助だ。
「退官したそうだな?」
「ああ、やってられん。京都で桐野にあったらしいな?」
「また耳が早いな?」
「岩倉に睨まれているぞ」
 私と総司は隣のテーブルで壮士達に囲まれてビールを飲んでいる。
「西郷達はどうだ?」
「やはり最後は負ける」
 現在のところ善戦しているような記事が出ている。
「私は政党を作って戦う。もう内乱の時代ではない。力を貸してくれ」
「ああ、私もそう思っている。それで長姉にも援助を依頼してきた」
「今でも長姉殿は天皇家の裏金の金庫番をしているんか?」
「それは遠い昔のことだ」
 私は先ほどから壮士に一人が総司に抱き付いているのを睨んでいる。私は懐の短刀を握った。と同時に総司が大男を投げ飛ばした。大男はいきなり刀を抜いたが総司の剣が首元に当てられている。
「止めなさい。彼は原田左之助を切った男ですよ」
と退助が笑っている。どうやら斎藤一は総司が切ったと噂を流したようだ、
 どうやらこれからは板垣退助と仕事をするようだ。





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