夢の橋

決心2

　伯爵が新聞社に行くのに私は人力車の前を歩いた。
「たかがあのスパイを殺したのか？」
「どうして？」
「川路から聞かされた」
「逮捕されるのですか？」
「いや、彼らは影の人間だ。だが復讐はされる。たかを見守ってやってくれ」
　新聞社に着くと伯爵は編集長と話し込んでいる。
「板倉さんの同意を取ったのですか？」
「ああ、話済みだ」
　どうも仕事をせずアジ記事ばかり書いている壮士達を解雇したようだ。昼から背広を来て帽子を被った４０歳くらいの男性が５人を連れて入ってきた。私も伯爵に呼ばれて席に着く。
「西村玄道です」
「彼は多くの著書を書いているし、この道では有名だ。よろしく頼む」
　伯爵は紹介を済ませると人力車を呼んで出て行く。私は西村に言われて今までの新聞を倉庫から運んできた。すでに記者たちは出かけている。
　私は気になってその後スパイのアジトを覗いてみた。確かに女スパイを入れて２人が死んでいる。扉が開いていて人が出入りしている。その時肩を叩かれた。斎藤一だ。
「新しいボスと３人が追加された。そのボスは私もよく知っている。警視庁にいた男だ。京都見廻組にいた男だ。剣だけでなく短銃の腕もなかなかのものだ。伯爵に会った。たかのことも頼まれた」
「いつ？」
「昨日だ。私に新しい仕事を紹介されたよ。しばらく考えてみるさ。これから飲みに行こう。総司も来ている」