夢の橋

夢人

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日清戦争20

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 既に爆薬は投げ切ってしまった。それが分かったのかまた馬が近づいてきている。街道に合流した。道幅が広くなり3頭が至近距離まで駈けた来た。
「伯爵が撃たれた」
 総司の声がした。右肩を撃ち抜かれたようだ。これで撃ち手が一人減った。私は身を乗り出して一番近づいてきた男を撃ち落とした。だが額を抜けた弾で血が流れてきた。
「どうしたの?顔が真っ赤よ」
「かすり傷だ」
と言って鉢巻を捲いて血が目に入るのを止めた。
「このままじゃ車輪が外れる」
 李が叫ぶ。
「あの砂煙は?」
 総司の声がする。目の前の山の上から砂煙が転げ落ちてくるようだ。
「3台目と合流する」
 私は向こうには相当数がいるとほっとした。だが目の前に降りて来たのは馬車だけだ。御者席に蜘蛛が座っている。
「どうした?」
「袁世凱の軍が潜んでいた。裏切り者がいた。後ろでまだ戦ている。何とか後ろの追撃を止めてくれ?」
「横に並んで伯爵と李を移してくれ?」
「分かった」
 向こうも王族の他御者と蜘蛛だけになっている。伯爵が乗り移った。次は李だ。だが弾が李の体を貫いた。それでも伯爵がしっかりと引き寄せた。総司が御者席に出てきている。
「死ぬときは一緒だ。時の隙間を最後は抜けるのだ」




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