夢の橋

夢人

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日清戦争21

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 思い切って手綱を引いて反転する。
「車輪が外れた!」
 だが接近していた馬が2頭が跳ね飛ばされた。私は夢中で短銃の引き金を引きまくる。さらに1頭が馬車を避けきれず横転した。だが馬は起き上がった。その瞬間総司は飛び上がって馬に飛び乗った。反転する敵の姿が見える。総司がその一人を後ろから切りつけた。
 真正面にホーク、たかが見えた。左手で短銃を構えている。右の義手で手綱を引いている。1発目が私の肩をかすめた。2発目が脇腹に当たった。3発目は心臓を貫くと覚悟した。その目に殺意が溢れていた、総司は2人目の男の右腕をすり抜けざまに切り落とした。
 その時たかの横にいた男が爆薬を投げつけるのが見えた。
「総司!」
 まるでスロ-モーションを見るようだ。たかの銃身が動いた。総司の馬がもう目の前に迫ってきている。たかがどちらを撃つべきか迷っている。総司が前に飛び出すように空を舞った。
「もういい消えるんだ」
 たかの3発目は総司に向かって飛んだ。総司は空中で体を反転するとまだ構えたままのたかの左腕を切り飛ばした。そこまで見た私はすでに目を細めて消える態勢に入っている。1頭の馬が撃たれて大きく馬車が傾く。御者席の床に爆薬が落ちた。たかの左腕が宙に回っている。総司はまだ地面に着地せず浮いたままだ。たかの体だけが馬車をすり抜ける。
「よくやった」
 たかの声か。
 その時目の前が真っ赤になる。その次に真っ暗に変わり星空が回転する。死んだのか。それとも時間の隙間に入ったのか。伯爵と李は助かったのか。総司は上手く時間の隙間には入れたのか。
 次に恐ろしく静かなトンネルの穴に落ちていく。長い長いトンネルだ。

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