夢の橋

夢の橋10

　夜中に激しい頭痛に襲われて総司を抱き寄せる。総司も苦痛で顔をしかめている。急に部屋中が揺れ出して歪んでくる。
　次の瞬間見覚えのある庭に立っている。戻ってきたのだ。総司が隣に立っている。
「私と鼠の墓がある」
　隣には黒揚羽の墓が立っている。
「やはり死んだんだ？」
「だがここに立っている」
「幽霊じゃない？」
　花束を手に立っている李がいる。
「戻ってきた？」
「見えるのか？」
　李が総司の腕を抱いている。
「李の温かさが伝わってくる」
「伯爵達は？」
「撃たれた私を抱いて馬車で走った。後ろで大きな爆発があった。袁世凱の軍が坂を降りて来た。もうだめかと思ったわ。その時に日本船が見えて日本の軍人が鉄砲を持って降りて来た。蜘蛛が総司と鼠が死んだと報告をした。それで船が桟橋を離れた。私はそれからは気絶した」
「よかったな？伯爵は？」
「孫六さんと皇居に出仕している。毎朝斎藤一という先生が線香を上げに来る」
「そう」
　総司が懐かしそうに燃え尽きた線香を見ている。
「開戦したのだな？」
「そう。もう消えないね？」
　李にはトラベラーの話をしていた。
「分からない。すぐには戻れなかったのだよ」