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ダイの腹部に二本の剣を深く刺し込む。剣で抉る様に腹の中に食い込ませると、ダイが叫びながら私の背中に爪を突き刺した。
「君の心臓を僕にくれよ。魔力たっぷりのその心臓ぉぉぉぉ」
何度も叫びながら背中を爪で刺す。スピードを重視して薄い防具しか着けていない私の背中はガラ空きで、数えきれないほど刺され最後に深く食い込んだ。
グッ!あぁ……爪が内臓にまで達したわねぇ……心臓はわざと避けたのかしら……回復薬で何処まで……
「ルーシー!離れろ!!」
団長さんの悲鳴の様な声がする。でも、もう私の手はダイの体にめり込んで抜けない。どこか焦りのある声に、何処までも優しいのだと感じた。バカね、団長さん。私を気にしてチャンスを逃がすなんて……絶対にダメよ。
「私に構わず斬って!」
痛みを無視して私が叫ぶとダイの動きが止まった。背中に刺さる爪をわざとゆっくり引き抜き、私の目の前で見せ付ける様に爪についた血を舐めてニタリと笑った。
「何を強がってんだよ。死ぬよ?」
「死ぬのは貴方だけよ……マーク!!!!」
ダイの舌打ちの音と団長さんの悪態をつく声が同時に聞こえた。私から離れようとしたダイは、深くめり込んで抜けない私の手を斬り落とそうと爪を高く振り上げた。
「させるかぁ!」
私とダイの間にできた隙間に団長のの剣が入り、ダイを斜めに斬りつけ振り抜いた。その剣を翻して次は首のゴツゴツした肌の隙間に刺し込む。するとダイの首からゴリッと何か硬い物が剣に当たった音が耳に届いた。
「二度と喋るな。胸糞悪い」
「ゴボッ……ゴホッ、ゴホッ……ヒュー」
ダイが何か話そうとしているけど、喉を斬られたせいか風が抜ける音だけが響く。口から紫色の液体を溢れさせたダイの体が斜めに崩れ始める。一緒に引っ張られそうになった私の体を団長さんの太い腕が支えてくれた。そのままダイだけが倒れ、光の映らない目を私に向けて手を差し出した。
「ヒュー……ヒュー……ル……だ……」
「彼女はやれん。お前は一人で逝け」
団長さんがダイから隠す様に私を抱き込むと、ギルマスが準備していた檻にダイを閉じ込めた。団長さんから離れて一人で立とうとすると、彼の腕に力が入って抜けられない。傷のせいでフラフラする私は、腕の中から抜け出す事を諦めて顔だけ檻に向けた。
檻の中でダイは何度か痙攣していたけど、突然ピタリと動きが止まる。体から流れる紫色の液体が徐々に赤い血の色に変わると、彼の銀色の角が黒くなりボロボロと崩れた。少しだけ追放される以前の姿に戻り、やっと終わったのだと実感が沸いた。
ギルマスが通信機で何処かに連絡している姿を眺めていると、解毒しきれなかった毒が回ってきたのか眩暈がした。立っているのが辛くてその場に座り込むと、団長さんが慌ててポーチから何かを取り出して私の顔の前に付き出した。これ何かしら?
「ルーシー、この薬を飲んでくれ!」
何か分からず躊躇う私に団長さんが、押し付ける様に飲み薬を口に入れられて眉間に皺が寄った。喉に痛みを感じながら何とか飲みきると、次の薬も押し付けられる。もう!待ってよ!
「これは騎士団用の回復と解毒が一緒になった薬だ。一般に出回っている物より効くんだ」
そう言って薬を押し付ける団長さんが泣きそうに見えて、私は文句を薬と一緒に飲み込んだ。続けて二本の薬を飲み込んだ後から、木の葉を直接噛んだような青臭い臭いと強烈な苦味に顔をしかめる。ナニコレ……臭いってレベルじゃないわよ。しかも苦い。
「気持ち……悪い」
「どうした?薬が効かないのか?他の……」
口元を抑えて俯くと、団長さんが心配して他の薬を渡そうとする。そうじゃないと頭を横に振りたくても、こみ上げる吐き気に動けなかった。この薬、毒じゃないわよね?……今、口を開いたら吐きそう……
「マーク、その薬で気持ち悪いんじゃねぇのか?」
「うん?……あぁ、飲み慣れないとそうかもしれん」
ギルマスの言葉に団長さんが納得したように頷いた。やっと理解してくれた二人から顔を背けると、口元を抑えたまま座り込み自分の状態を確認した。……解毒は出来ているわ……内臓の傷は……半分くらい塞がったわ。でも、残り半分はもう一度回復薬を飲まないと無理ね。確かに効果は高いけど、この臭いと味は頂けないわね……
ゆっくりと立ち上がり何度か深呼吸をして痛みと吐き気を逃がしていると、団長さんが眉を下げながら背中を擦ろうとして手を止めた。あぁ、傷だらけだから触れなかったわね。はぁ……臭いけど、薬が効いたみたいね。話は出来そうだわ。
「大丈夫か?余計に具合が悪くなったな……すまない」
「いえ、薬が効いたわ。ありがとう……でも、まだ足りないわ」
自分のポーチから回復薬を取り出して煽る様に飲むと、視界がグニャリと縦に歪んむ。グルグルと回転する眩暈と吐き気に俯いた私は、団長さんとギルマスの声が遠くで聞こえた気がした。
変ね……二人とも直ぐ近くにいたはずなのに……息が苦しいわ……回復薬を飲んだのにどうしてかしら?……何かしら真っ暗で何も……ミエ……ナイ……
「君の心臓を僕にくれよ。魔力たっぷりのその心臓ぉぉぉぉ」
何度も叫びながら背中を爪で刺す。スピードを重視して薄い防具しか着けていない私の背中はガラ空きで、数えきれないほど刺され最後に深く食い込んだ。
グッ!あぁ……爪が内臓にまで達したわねぇ……心臓はわざと避けたのかしら……回復薬で何処まで……
「ルーシー!離れろ!!」
団長さんの悲鳴の様な声がする。でも、もう私の手はダイの体にめり込んで抜けない。どこか焦りのある声に、何処までも優しいのだと感じた。バカね、団長さん。私を気にしてチャンスを逃がすなんて……絶対にダメよ。
「私に構わず斬って!」
痛みを無視して私が叫ぶとダイの動きが止まった。背中に刺さる爪をわざとゆっくり引き抜き、私の目の前で見せ付ける様に爪についた血を舐めてニタリと笑った。
「何を強がってんだよ。死ぬよ?」
「死ぬのは貴方だけよ……マーク!!!!」
ダイの舌打ちの音と団長さんの悪態をつく声が同時に聞こえた。私から離れようとしたダイは、深くめり込んで抜けない私の手を斬り落とそうと爪を高く振り上げた。
「させるかぁ!」
私とダイの間にできた隙間に団長のの剣が入り、ダイを斜めに斬りつけ振り抜いた。その剣を翻して次は首のゴツゴツした肌の隙間に刺し込む。するとダイの首からゴリッと何か硬い物が剣に当たった音が耳に届いた。
「二度と喋るな。胸糞悪い」
「ゴボッ……ゴホッ、ゴホッ……ヒュー」
ダイが何か話そうとしているけど、喉を斬られたせいか風が抜ける音だけが響く。口から紫色の液体を溢れさせたダイの体が斜めに崩れ始める。一緒に引っ張られそうになった私の体を団長さんの太い腕が支えてくれた。そのままダイだけが倒れ、光の映らない目を私に向けて手を差し出した。
「ヒュー……ヒュー……ル……だ……」
「彼女はやれん。お前は一人で逝け」
団長さんがダイから隠す様に私を抱き込むと、ギルマスが準備していた檻にダイを閉じ込めた。団長さんから離れて一人で立とうとすると、彼の腕に力が入って抜けられない。傷のせいでフラフラする私は、腕の中から抜け出す事を諦めて顔だけ檻に向けた。
檻の中でダイは何度か痙攣していたけど、突然ピタリと動きが止まる。体から流れる紫色の液体が徐々に赤い血の色に変わると、彼の銀色の角が黒くなりボロボロと崩れた。少しだけ追放される以前の姿に戻り、やっと終わったのだと実感が沸いた。
ギルマスが通信機で何処かに連絡している姿を眺めていると、解毒しきれなかった毒が回ってきたのか眩暈がした。立っているのが辛くてその場に座り込むと、団長さんが慌ててポーチから何かを取り出して私の顔の前に付き出した。これ何かしら?
「ルーシー、この薬を飲んでくれ!」
何か分からず躊躇う私に団長さんが、押し付ける様に飲み薬を口に入れられて眉間に皺が寄った。喉に痛みを感じながら何とか飲みきると、次の薬も押し付けられる。もう!待ってよ!
「これは騎士団用の回復と解毒が一緒になった薬だ。一般に出回っている物より効くんだ」
そう言って薬を押し付ける団長さんが泣きそうに見えて、私は文句を薬と一緒に飲み込んだ。続けて二本の薬を飲み込んだ後から、木の葉を直接噛んだような青臭い臭いと強烈な苦味に顔をしかめる。ナニコレ……臭いってレベルじゃないわよ。しかも苦い。
「気持ち……悪い」
「どうした?薬が効かないのか?他の……」
口元を抑えて俯くと、団長さんが心配して他の薬を渡そうとする。そうじゃないと頭を横に振りたくても、こみ上げる吐き気に動けなかった。この薬、毒じゃないわよね?……今、口を開いたら吐きそう……
「マーク、その薬で気持ち悪いんじゃねぇのか?」
「うん?……あぁ、飲み慣れないとそうかもしれん」
ギルマスの言葉に団長さんが納得したように頷いた。やっと理解してくれた二人から顔を背けると、口元を抑えたまま座り込み自分の状態を確認した。……解毒は出来ているわ……内臓の傷は……半分くらい塞がったわ。でも、残り半分はもう一度回復薬を飲まないと無理ね。確かに効果は高いけど、この臭いと味は頂けないわね……
ゆっくりと立ち上がり何度か深呼吸をして痛みと吐き気を逃がしていると、団長さんが眉を下げながら背中を擦ろうとして手を止めた。あぁ、傷だらけだから触れなかったわね。はぁ……臭いけど、薬が効いたみたいね。話は出来そうだわ。
「大丈夫か?余計に具合が悪くなったな……すまない」
「いえ、薬が効いたわ。ありがとう……でも、まだ足りないわ」
自分のポーチから回復薬を取り出して煽る様に飲むと、視界がグニャリと縦に歪んむ。グルグルと回転する眩暈と吐き気に俯いた私は、団長さんとギルマスの声が遠くで聞こえた気がした。
変ね……二人とも直ぐ近くにいたはずなのに……息が苦しいわ……回復薬を飲んだのにどうしてかしら?……何かしら真っ暗で何も……ミエ……ナイ……
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