11 / 11
11.
しおりを挟む
一晩中行為に及び、気がつけば太陽が高い場所まで上がっていた。俺もダイチも何度と果てて、最後は抱き合うように眠ってしまっていたのだ。
眠い目を擦りながら身体を起こす。隣にはもう彼の姿はなかった。
俺の身体も綺麗になっており、見知らぬ服を身につけていた。多分ダイチが服を着せてくれたのだろう。
立ち上がり、隣に続くドアをゆっくりと開く。するとキッチンに立つ彼と目があった。
「おはよう。身体の調子はどうだ?」
「初めてのわりには辛くない……です」
「そっか、良かった。昼食を用意したんだけど食べられる?」
コクリと頷き、椅子に腰掛ける。
甲斐甲斐しく用意してくれたものはどれもお店で出されるようなものばかり。
先ほどダイチが立っていた場所に視線を向ければ、何やら赤い文字が書かれた袋が置かれていた。出前を取ってくれたのかもしれない。
俺の知っている出前と言えばラーメンとかお寿司とかだけど、目の前にあるのはどちらでもない。パスタとサラダにパンといった施設でも度々出てくる昼食のメニューである。
といってもダイチが用意してくれたものの方が何倍もオシャレで美味しそうだ。
「いただきます」
小さく呟いてからフォークを手に取る。
「美味しい?」
「はい」
「そっか。良かった」
ダイチがふにゃりと笑うから、俺も釣られて頬が緩んだ。
幸せが胸の中にじんわりと広がっていく。けれどこの幸せは有限だ。
食事が終わると、二人で部屋を出て、彼が呼んだタクシーに乗り込む。
部屋を出てからずっと手は握られたまま。
向かう先はもちろん施設で、ダイチが俺を選んでくれることはない。
けじめを付けるための行為が終わったからか、彼の表情は非常に晴れやかとしていた。
帰還手続きをする時になると、繋がれていた手は何の合図もなく離される。
「ありがとう。君に会えて良かった」
「俺もです」
「ところで君の名前を聞いていなかったな。去り際に聞くことではないけれど、よければ教えてくれないか?」
「克行です」
克行という名前には、どんなことがあっても前に進んで欲しいという両親の気持ちが詰まっている。まさに今が前に進む時なのだろう。
昨日の行為は互いに前に進むための行為だったと自分に言い聞かせる。
「カツ、ユキ……ユキ?」
彼はゆっくりと俺の名前を噛み締める。
けれどこれ以上何かに囚われて欲しくない。
「かっちゃんって呼ばれてます」
そう、わざとらしく声をあげる。
一瞬だけ、彼が少しだけ寂しそうに眉を下げたような気がした。
「……いい名前だな」
「ありがとうございます」
お互い見つめ合うと、職員から「終わりました」と声をかけられる。
「ではここで」
「はい。さようなら」
深く頭を下げてから施設の敷地に一歩踏み出す。次に外に出られるのは一年後だ。
来年はどんな人に選ばれるのだろうか。
少なくとももう初恋を追ったりはしない。初恋は散っていった。
これからは俺も、一年に一度の嘘の日に浸る住人へと変わるのだ。
眠い目を擦りながら身体を起こす。隣にはもう彼の姿はなかった。
俺の身体も綺麗になっており、見知らぬ服を身につけていた。多分ダイチが服を着せてくれたのだろう。
立ち上がり、隣に続くドアをゆっくりと開く。するとキッチンに立つ彼と目があった。
「おはよう。身体の調子はどうだ?」
「初めてのわりには辛くない……です」
「そっか、良かった。昼食を用意したんだけど食べられる?」
コクリと頷き、椅子に腰掛ける。
甲斐甲斐しく用意してくれたものはどれもお店で出されるようなものばかり。
先ほどダイチが立っていた場所に視線を向ければ、何やら赤い文字が書かれた袋が置かれていた。出前を取ってくれたのかもしれない。
俺の知っている出前と言えばラーメンとかお寿司とかだけど、目の前にあるのはどちらでもない。パスタとサラダにパンといった施設でも度々出てくる昼食のメニューである。
といってもダイチが用意してくれたものの方が何倍もオシャレで美味しそうだ。
「いただきます」
小さく呟いてからフォークを手に取る。
「美味しい?」
「はい」
「そっか。良かった」
ダイチがふにゃりと笑うから、俺も釣られて頬が緩んだ。
幸せが胸の中にじんわりと広がっていく。けれどこの幸せは有限だ。
食事が終わると、二人で部屋を出て、彼が呼んだタクシーに乗り込む。
部屋を出てからずっと手は握られたまま。
向かう先はもちろん施設で、ダイチが俺を選んでくれることはない。
けじめを付けるための行為が終わったからか、彼の表情は非常に晴れやかとしていた。
帰還手続きをする時になると、繋がれていた手は何の合図もなく離される。
「ありがとう。君に会えて良かった」
「俺もです」
「ところで君の名前を聞いていなかったな。去り際に聞くことではないけれど、よければ教えてくれないか?」
「克行です」
克行という名前には、どんなことがあっても前に進んで欲しいという両親の気持ちが詰まっている。まさに今が前に進む時なのだろう。
昨日の行為は互いに前に進むための行為だったと自分に言い聞かせる。
「カツ、ユキ……ユキ?」
彼はゆっくりと俺の名前を噛み締める。
けれどこれ以上何かに囚われて欲しくない。
「かっちゃんって呼ばれてます」
そう、わざとらしく声をあげる。
一瞬だけ、彼が少しだけ寂しそうに眉を下げたような気がした。
「……いい名前だな」
「ありがとうございます」
お互い見つめ合うと、職員から「終わりました」と声をかけられる。
「ではここで」
「はい。さようなら」
深く頭を下げてから施設の敷地に一歩踏み出す。次に外に出られるのは一年後だ。
来年はどんな人に選ばれるのだろうか。
少なくとももう初恋を追ったりはしない。初恋は散っていった。
これからは俺も、一年に一度の嘘の日に浸る住人へと変わるのだ。
111
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
番に囲われ逃げられない
ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。
結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続きってない感じですか…?
すごく良いお話でした…!!!!
全員幸せになれ!!
今のところ続きはないのですが、シリーズ一本目は去年投稿しているのでまた気が向いた時にでも書くかも?です。あまり期待はせずに、投稿されたらラッキーくらいの気持ちでいただけると嬉しいです(* ´ ▽ ` *)
次の年に彼に主人公が選ばれるといいなぁ。
彼が次の年に別のオメガを番に選んだら切な過ぎる(´Д⊂グスン
番に選ばれなかった他の子たちも自分を昨年選んだアルファが次の年に別のオメガを選ぶ、そんな思いを毎年してるのかな。
切ないし哀しい。
選ばれるといいなぁとは思いつつも、果たして次の年も彼が来るか、来たとしても同じランクで過去にオメガを選んだ回数が少ないアルファに主人公を指名されてしまったら......という考えも頭によぎります。
他のオメガとアルファも同条件とはいえ、今回の相手がSランクなので選ばれる確率は高いのですが、確率は所詮確率。今まで主人公を選んできたアルファたちもハイランクなのでまた違うアルファに選ばれるなんてことも十分にあり得るのです......(*´ー`*)切ないですね......
かなり切ないですが…皆の幸せを祈るばかりです(TдT)
一年に一度しか会えず、ランクが高い&今までオメガを選んだ回数が少ないアルファから順番に選んでいくシステムかつオメガに決定権はない......となかなかな条件ですからね(*´ー`*)