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俺と彼女の進む路(みち)
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しおりを挟む「…………」
「あなたはね、なっちゃんにずっと『無言の圧力』をかけてたのよ……だから私達にも、学校にも、それからあなた自身にも言い出せなかったの」
(夏実を賢い子だと、可能性がある子だと口にするその裏で……俺はそんな事をしていたのか)
無言の圧力。
しかもそれは俺が実際経験した、この世で一番嫌いな言葉だった。
「あとね、今日、こんな時間に私が広瀬家でよっちゃんとゲームしてたのは未成年のなっちゃんを蔑ろにしていた訳でも、軽い夜遊びに興じていた訳でもないの」
「えっ?」
夏実から、アラ還4人がここで楽しく過ごし夏実を留守番させていると聞いて「常識が無い」とつい親達を嘆いてしまったのだが、晴美さんからそう言われて俺は目を見開かせる。
「なっちゃんから、『今夜ちゃんと自分の希望を湊人に伝えたいんだ』って言われたからなの。それまではずっと湊人くんにそれを伝えるのを躊躇ってたんだけど、週末のデートで少し自信がついたんじゃないかな」
「俺に伝える……自信……」
自惚れでなければそれはきっと、週末の誕生日デートで晴れて俺と男女の関係を結べたのがきっかけなのだろう。
8歳の頃から俺を王子と崇め、付き合い結ばれる未来を望み、それがこの数日前で叶ったのだから、「大学進学せずに俺と一緒になりたい」という夏実の真なる望みを伝えたい……夏実は秘かに計画していたのだ。
「今朝、湊人くんのお弁当作り終えて身支度している時はまだ上機嫌だったし『ちゃんと伝えるんだ』って目を輝かせてた。だけど19時半辺りかな……なんかすごく暗い表情してたのよなっちゃん『こんな事言ったら叱られるかもしれない』って、珍しくネガティブな言葉をブツブツ呟いてて」
「それで……そうだったんですか……」
晴美さんの話を聞いて、俺はすぐに夏実とのメールやり取りを思い出した。
朝は元気も良さそうで「りょ」を繰り返していた夏実が、19時半オフィスビルを出て駅に向かう最中にやり取りする頃には「り」と返事も短くなりスタンプを押すくらいになっていた。
一応、俺のメッセージを受けて「ロコモコ丼を作る」と張り切ってくれたみたいだったが、スマホ画面の向こう側での彼女は朝と同じ表情やテンションではなかったのだろう。
(18年夏実と接している癖に、メッセージ文の微妙な心の揺れも読み取れず、挙げ句の果てに参考書を買いに行くとまで言って無言の圧力をかけてしまったのか俺は……最低な男じゃないか)
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