【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女と営みの巣

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 17時を回ったところで村川くんは「夕食の支度をする」と言い出した。

「村川さんって料理出来るんですか?」

 目を見開く夏実に村川くんは苦笑して

「妻が下拵えしてくれたものを焼くだけだよ基本は。スープ作りと卵焼きは自分でするけど大した事はしないから」

 と、本当になんでもないような表情でエプロンを棚から出し、これまた慣れた手つきで身につける。

「村川くん、スイーツ男子だけじゃなくて料理男子でもあるわけ?」
「ですから料理男子ってレベルじゃないんですって。土曜日しか作んないし」
「でもスープと卵焼き焼くんですよね? 見学してもいいですか? 卵焼き上手に焼きたいんで!」

 俺の横で目を輝かせる夏実に村川くんは「フッ」と声に出して笑った。

「卵焼き……そうだよね。お弁当に入れるもんね」

 彼の笑う姿に、即あの事が思い出される。

ーーー

『卵焼き、虎柄ですね』

ーーー

(あの揶揄からかいは自分が綺麗に焼けるからだった訳か。なんかムカつくなぁ。夏実の卵焼き、あれはあれで香ばしくて美味かったってのに)

「見学とか言うくらいなら夏実ちゃんも一緒にやろうよ。エプロンは妻のを貸す事になるけど」
「新婚さんのキッチンにお邪魔ちゃっていいんですか?」

 夏実は言葉では遠慮してそうにいて、態度はかなり前のめりだ。

「新婚っていってもここに住んでもうすぐ3年になるし、妻はそこまでキッチンや身の回りのものにこだわりを持ってる訳じゃないんだ。『広瀬さんの彼女が使いたがったら遠慮なくエプロン貸してあげて』って妻から事前に許可も得てるよ」

 村川くんはイケメン笑顔でもう一着エプロンを取りに行き……

「ついでに洗面台まで来て。夏実ちゃんの髪をまとめてあげるから」

 と、サラッと夏実のヘアアレンジをすると言いだしたものだから俺も夏実も驚く。

「「ヘアアレンジも出来るの??!」」
「いや、簡単なまとめ髪っすよ?」

 俺らのユニゾンに村川くんは恐縮しているのだが、この流れからして彼は夏実のロングヘアをしっかりまとめ上げるに違いない。

「湊人……いい、かな? 村川さんに髪いじってもらっても」

 夏実はおずおずと、まるで俺が他の男に髪触らせたくない男だとでもいうみたいな雰囲気で了承得ようとする。

「いや、全然。別に、いいけど」

 ……まぁ、多少そういう考えもあるのだが状況による。
 そもそも可愛い夏実や会社の後輩に「嫉妬深い醜い男」と思われたくないし今回は普通にOKしてやる。

(その代わり俺も洗面台までついていくけど。後輩がするヘアアレンジとやらも気になるし)

 
 3人ゾロゾロとリビングを出て洗面台まで並んで歩く。
 村川くんが、いの1番に洗面台の前に立つと引き出しを開けて

「新品のヘアピンと使い捨てのコームがこの辺にあったはず……」

 と、これまた慣れた感じで必要なものを取り出し夏実に手招きした。

「じゃあ、お願いしますっ」

 夏実は緊張気味に、村川くんに言われるがまま洗面台の鏡の前に立つと

「期待はしないでね♪」

 とチャーミングボイスで夏実に声をかけ、彼女の髪を留めていたヘアゴムを外して髪をき終わると

「は?」

 ものの数分でサッと仕上げてしまった。

「わ! 可愛くて大人っぽい!」

 夏実が褒めるのも分かる。

「こういうの出来るようになったのはごく最近なんだよ。デート前に妻の髪を弄るようになって、動画見ながら覚えてさ。っていうか、褒められたら本当に簡単で恥ずかしいんだけど」
「いやいや美容師さんみたいでしたよ村川さん!!」
「いやいやホント、そんなんじゃないから」

 村川くんは謙遜しているけど、見ていた俺も圧倒されていた。

(マジでなんなんだコイツ……)

 驚く俺と目が合った村川くんは顔を赤くしていて、

「そんな褒められたり驚かれたりしても……」

 と、また照れ臭そうに呟き、俺らよりも早くサッとキッチンへ戻っていってしまった。



 それからは村川くんと夏実がキッチンに立って料理を始めたんだけど……もう、ここまでくると言葉も出ないというか。
 さっきの、夏実の髪を触る手つき見ちゃったら「そりゃあ何でも器用にこなせるよね」という感想しか出ない。

「広瀬さんみたいにデカい人がカウンター前に立たれると気が散るんですけど」

 2人の様子がつい気になって、カウンター越しから2人の手つきを眺めていると村川くんから注意されてしまった。

「気が散るって、デカいのはお互い様だし村川くんは今夏実が肉を焼くのを隣で見守ってるだけだろ?」

(嫉妬の意味ではなく、さっきのヘアアレンジと同じく単純に気になって見ているだけなんだが……)

「座って夏実ちゃんが見てた物件のチェックでもしてて下さいよ。娘の彼氏が気になって仕方ないパパみたいですよ?」

 やはりそうには見えないらしい。

「うるさい。黙れよ後輩が」

 ついいつもの会社のノリでそう言う俺に対して、夏実はクスクス笑っていた。

「何? 夏実ちゃん、俺たちそんなに面白い?」

 村川くんが夏実の持っているフライパンにレモンスライスとハーブを加えて蓋をしていきながら、クスクス笑う夏実に微笑みかける。

「めっちゃ面白いです! 湊人と村川さん、会社でも仲が良いんだなぁって思って!」

 そう言う夏実に俺はすかさず

「仲良くねぇよ! 新入社員の教育係だから関わり合いが多いってだけだ」

 と言い返してみるものの、村川くんまで笑い出す始末で俺の顔が熱くなってくる。
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