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俺と彼女と可愛い甘え
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「これは……」
「思いっきり食事してますね……」
そこに映し出された画像は明らかにスイーツのような軽食の類いではなかった。
しかも「出張中のご褒美」「早めのランチ」といったハッシュタグをご丁寧にくっつけている。
「うちも迂闊やったんよ……うちは森田ちゃんが大阪居てた頃から仲良かったから今回のお弁当の話とか一昨日してて、その流れで鏑木さんに『会社で用意されるお弁当が森田ちゃんセレクトや』って言うてしもうたから」
狭山さんは肩を落としてそう申し訳なさそうに理由を話してくれたのだが、狭山さんが「森田さんが弁当の手配をした」と鏑木さんに伝えた事は決して悪い事ではない。
「しかも一昨日の段階ならお弁当1人分くらいキャンセル出来たのに……」
今日と明日のランチの手配や今夜の飲み会会場の確保は野崎さんも関わっていたから、野崎さんもその意味でガッカリするのも無理はないと感じた。
「俺はこのボリュームで充分だけど、村川くんなら2つくらい食べるんじゃないか? いつも食べてる弁当も大きめだから」
「広瀬くんそれほんま? お弁当もったいないことにならへん? ……っていうか、お弁当めっちゃ美味しそうやん♪ 鏑木さん絶対損してるでこれ!」
狭山さんは席に一つずつ並べられたお弁当をまじまじと見て嬉しそうな表情を浮かべる。
「そうなんです。私もここのお惣菜すごく好きで、森田さんと店員さんと相談しながらおかずの中身決めたんです」
「えー! お弁当のおかず、わざわざ選んだん?」
「惣菜屋さんの注文弁当なので中身選べるんです。ですからアレルギーの有無や苦手なものも確認して……」
「そっかぁ~……それはあかん事よねぇ……」
村川くん森田さんがまた会議室に戻ってくるとほぼ同時に、近距離エリアの事務員さん達が到着したようでまたザワザワしてきた。
当然の事、俺ら3人の会話はそこで断ち切り「お久しぶりです」や「午前業務後すぐ来て下さってありがとうございます」などと言った労いの挨拶を、会議室に入ってきた事務員さん達と次々交わしていく。
2年に一回が通例となってきたこの営業事務研修は、「研修」と名はついていてもその半分くらいの時間は我が業務部から営業事務員に向けての「お疲れ様会」のようなものだ。
だから、手配する食事や夜の飲み会で日頃の感謝を込めて楽しんでいただくのが実質メインとなる。
資料を作成して自社商品や外注商品の生産状況、大きな物件の情報共有、通常業務での不備な点や要望を聞いて解決に導く……そういった真面目な「研修」も勿論行うのだが
「皆様お疲れでしょうから、お好きな席に座って召し上がって下さい。昼休憩よりは少し前になりますけど」
ささやかではあるが、各所に散らばった者同士が集まり顔を合わせ、普段出来ない話を弾ませながら少しでも喜んでいただきたい……そう、俺ら業務部側が準備するのには大きな理由があった。
「あ、そうそう。今年の社員旅行、中止になったのよねぇ~今年こそは行けるかなーって思ってたんだけど残念……」
「まぁ、みんな南の島行きたいもんねぇ~無理に毎年計画して規模小さくするよりは数年に一回にしてドーンと良いとこ行きたいって思うのが人間だよね」
「でも去年の九州旅行、めちゃくちゃ楽しかったんですよ! 一番テンション上げて楽しんでたのが福岡営業所の皆さんでしたから」
「営業管轄下だからといってつまんないなんて事はないのよ実際!九州には良い温泉たくさんあるし♪
私は子どもがちっちゃいから見送っちゃったけど実は一番行きたかったんだぁ」
「私もエリア内とはいえ四国行った事ないから高知行ってうなぎとか食べたいですもん!」
「意外とそういう国内旅行がいいのよね~子育て世代にとっては」
鏑木さん以外が集まり、お弁当の中身をつつきながら先輩後輩関係なく口々にそんな話題を交わしている。
「一応研修が始まる前に高橋部長からその説明が詳しくあると思うのですが、やはり数年ごとの海外旅行に路線変更って事になりそうです」
俺の軽い説明に、その場に居た先輩事務員さん方は
「ああ~……」
「やっぱりそっかぁ……」
と、肩を落としていた。
小さな会社であっても、社会人の一大イベントといえば従業員一同を集めた旅行ではないかと思う。
俺が入社直後は2年から3年に一回南の島のどこかへ3泊旅行していたのだが、そうなるとベテランの営業事務員などワーキングマザーの参加率が極端に落ちてしまう。理由は先程の会話の通りで、子どもがある程度の年齢に達しないと3日以上の外泊は難しいというのだ。
国内なら良いけど海外へ行くとなると子どもの事が気にかかる。男女平等の世の中を目指していかなければならない社会状況なのに実質そうなっていかないのは、既婚女性の負担が内外共に大きいからなのだろう。
それで近年は人気の温泉地を行き先とする年一国内旅行路線に変更し今まで諦めていた社員さん方に少しでも参加してもらおうとしたのだが、結局このような結果になってしまった。
「お昼はお弁当でしたけど、夜の会場も楽しみにしててくださいね!事前アンケートで好きなお酒に日本酒を選ばれてた方が多かったので、地酒や日本酒カクテルが楽しめる場所を選んでみましたから」
「勿論お酒飲めない方向けのメニューもありますので、短い時間ではありますが楽しんで下さいね」
我が部の中で森田さんが一番オフィス周辺の飲食店に詳しいから店の手配は森田さんにほぼ任せてみたのだが、昼の弁当一つでこのような自体になったのだから先が思いやられる。
「思いっきり食事してますね……」
そこに映し出された画像は明らかにスイーツのような軽食の類いではなかった。
しかも「出張中のご褒美」「早めのランチ」といったハッシュタグをご丁寧にくっつけている。
「うちも迂闊やったんよ……うちは森田ちゃんが大阪居てた頃から仲良かったから今回のお弁当の話とか一昨日してて、その流れで鏑木さんに『会社で用意されるお弁当が森田ちゃんセレクトや』って言うてしもうたから」
狭山さんは肩を落としてそう申し訳なさそうに理由を話してくれたのだが、狭山さんが「森田さんが弁当の手配をした」と鏑木さんに伝えた事は決して悪い事ではない。
「しかも一昨日の段階ならお弁当1人分くらいキャンセル出来たのに……」
今日と明日のランチの手配や今夜の飲み会会場の確保は野崎さんも関わっていたから、野崎さんもその意味でガッカリするのも無理はないと感じた。
「俺はこのボリュームで充分だけど、村川くんなら2つくらい食べるんじゃないか? いつも食べてる弁当も大きめだから」
「広瀬くんそれほんま? お弁当もったいないことにならへん? ……っていうか、お弁当めっちゃ美味しそうやん♪ 鏑木さん絶対損してるでこれ!」
狭山さんは席に一つずつ並べられたお弁当をまじまじと見て嬉しそうな表情を浮かべる。
「そうなんです。私もここのお惣菜すごく好きで、森田さんと店員さんと相談しながらおかずの中身決めたんです」
「えー! お弁当のおかず、わざわざ選んだん?」
「惣菜屋さんの注文弁当なので中身選べるんです。ですからアレルギーの有無や苦手なものも確認して……」
「そっかぁ~……それはあかん事よねぇ……」
村川くん森田さんがまた会議室に戻ってくるとほぼ同時に、近距離エリアの事務員さん達が到着したようでまたザワザワしてきた。
当然の事、俺ら3人の会話はそこで断ち切り「お久しぶりです」や「午前業務後すぐ来て下さってありがとうございます」などと言った労いの挨拶を、会議室に入ってきた事務員さん達と次々交わしていく。
2年に一回が通例となってきたこの営業事務研修は、「研修」と名はついていてもその半分くらいの時間は我が業務部から営業事務員に向けての「お疲れ様会」のようなものだ。
だから、手配する食事や夜の飲み会で日頃の感謝を込めて楽しんでいただくのが実質メインとなる。
資料を作成して自社商品や外注商品の生産状況、大きな物件の情報共有、通常業務での不備な点や要望を聞いて解決に導く……そういった真面目な「研修」も勿論行うのだが
「皆様お疲れでしょうから、お好きな席に座って召し上がって下さい。昼休憩よりは少し前になりますけど」
ささやかではあるが、各所に散らばった者同士が集まり顔を合わせ、普段出来ない話を弾ませながら少しでも喜んでいただきたい……そう、俺ら業務部側が準備するのには大きな理由があった。
「あ、そうそう。今年の社員旅行、中止になったのよねぇ~今年こそは行けるかなーって思ってたんだけど残念……」
「まぁ、みんな南の島行きたいもんねぇ~無理に毎年計画して規模小さくするよりは数年に一回にしてドーンと良いとこ行きたいって思うのが人間だよね」
「でも去年の九州旅行、めちゃくちゃ楽しかったんですよ! 一番テンション上げて楽しんでたのが福岡営業所の皆さんでしたから」
「営業管轄下だからといってつまんないなんて事はないのよ実際!九州には良い温泉たくさんあるし♪
私は子どもがちっちゃいから見送っちゃったけど実は一番行きたかったんだぁ」
「私もエリア内とはいえ四国行った事ないから高知行ってうなぎとか食べたいですもん!」
「意外とそういう国内旅行がいいのよね~子育て世代にとっては」
鏑木さん以外が集まり、お弁当の中身をつつきながら先輩後輩関係なく口々にそんな話題を交わしている。
「一応研修が始まる前に高橋部長からその説明が詳しくあると思うのですが、やはり数年ごとの海外旅行に路線変更って事になりそうです」
俺の軽い説明に、その場に居た先輩事務員さん方は
「ああ~……」
「やっぱりそっかぁ……」
と、肩を落としていた。
小さな会社であっても、社会人の一大イベントといえば従業員一同を集めた旅行ではないかと思う。
俺が入社直後は2年から3年に一回南の島のどこかへ3泊旅行していたのだが、そうなるとベテランの営業事務員などワーキングマザーの参加率が極端に落ちてしまう。理由は先程の会話の通りで、子どもがある程度の年齢に達しないと3日以上の外泊は難しいというのだ。
国内なら良いけど海外へ行くとなると子どもの事が気にかかる。男女平等の世の中を目指していかなければならない社会状況なのに実質そうなっていかないのは、既婚女性の負担が内外共に大きいからなのだろう。
それで近年は人気の温泉地を行き先とする年一国内旅行路線に変更し今まで諦めていた社員さん方に少しでも参加してもらおうとしたのだが、結局このような結果になってしまった。
「お昼はお弁当でしたけど、夜の会場も楽しみにしててくださいね!事前アンケートで好きなお酒に日本酒を選ばれてた方が多かったので、地酒や日本酒カクテルが楽しめる場所を選んでみましたから」
「勿論お酒飲めない方向けのメニューもありますので、短い時間ではありますが楽しんで下さいね」
我が部の中で森田さんが一番オフィス周辺の飲食店に詳しいから店の手配は森田さんにほぼ任せてみたのだが、昼の弁当一つでこのような自体になったのだから先が思いやられる。
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