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「リョウ」に、サヨナラの口付けを。

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「じゃあ、明日ここで彼とゆっくり閲覧させていただきますね」
「是非是非♪ 花さんには合鍵渡してるんですから、自分の部屋だと思って寛いで下さいね。勿論さっきみたいに仲良くおねんねしてもらってても構いませんから♪」

 三度登場した「おねんね」のワードに花ちゃんはすぐに顔を赤くし、僕もつられて頬が熱くなった。

「でっ……では! 私はここでおいとまさせていただきます! 美味しいお茶をどうもありがとうございました!」

 花ちゃんはぎこちない態度で立ち上がり、慌てた様子で自分の荷物を拾い上げると、そそくさと玄関の方へ急いで行ってしまった。

「あっ、花ちゃん待って」

 僕も立ち上がり、花ちゃんの背中に呼び掛けながら玄関までついて行く。

「太ちゃん」
「昨日も今日も……カスミさんの件で花ちゃんに迷惑ばかりかけてるよね。本当にごめんなさい」

 僕の言葉に花ちゃんは首を左右に振って

「私、しばらく恵里子さんのお宅にお世話になる事になったの」
「えっ?」
「太ちゃんには『ユリさん』と言った方がしっくりくるかもね」

 次いで出た話に僕は目を丸くした。

「ええっ?!」
「太ちゃんにとっては驚く事がいっぱいかもしれないよね、私もまだ頭の整理が追いついてないから」

 花ちゃんはそのような事を言っていたけど、僕よりも随分と落ち着いている。

(花ちゃんはで僕にお昼ご飯とアイスを持ってきてくれたんだ……)

「だから心配しないで。少なくとも私は危険な状況にさらされる事はないから」
「……」
「太ちゃんの方が大変だと思う……だから、私が精一杯サポートするね」

 僕の手を握りながら希望の言葉を告げる花ちゃんはやっぱり5歳も歳上の、大人の女性なんだと思い知らされた。

「うん、ありがとう花ちゃん……本当に」
「また明日の昼過ぎ……同じ時間に来るね」
「うん……また明日」

 
 花ちゃんを見送り、再びリビングに足を踏み入れると

「太地くんごめん……今大事な時間だから」

 カウチソファにゆったりと身体を預け、ワイシャツのボタンを全て外した半裸状態で2杯目のローズティーに口を付けている樹くんのセクシーな姿が真っ先に飛び込んできた。

「樹くん……疲れてるよね? やっぱり」

 ついさっきまでにこやかにしていた彼とは全く違う、男の色気全開な雰囲気に僕は圧倒される。

「ちょっと静かにしてて太地くん……気持ちを鎮めたいから」

「……」

 さっき僕達に話していた「ナイトルーティン」とは、この瞬間の意味だったのだと思い知らされて

「ごめんね太地くん、もう飲み干したから片付けるよ」

 ガラステーブルの上に投げ捨てられたネクタイとティーセット一式を両手に抱えて立ち上がろうとする樹くんに僕は駆け寄り

「こっちこそごめん! っていうか、昨夜もこの時間作ってあげられなくてごめんなさい」

 僕と花ちゃんが使ったカップを彼の手から奪い、抱える荷物を手伝ってあげた。

「一日くらいなら平気なんだけどね。今日は色々あったし、疲れたから少しでも『日常の行動』をとって落ち着きたくてね」
「疲れてるなら僕がお茶の片付けやるよ。樹くんお風呂入ってきたら?」
「うん……そうさせてもらう」

「おねんね」とかいう変な冗談飛ばしたり、花ちゃんに「お姉さん」ではなく「花さん」とワザとらしく呼びセクシーに手を差し伸べたり、潤みのある声で語りかけたり……といった樹くんはもうどこにもいない。
 心身共に疲れ果てているのが誰の目にも明らかだ。



「洗って片付けてくれてありがとう。太地くんもシャワー浴びてきていいよ」

 15分ほどして僕の前に現れた上半身裸の樹くんは、さっきより気分が晴れているような感じがする。

「うん……」

 なんかもっと色々言うべき言葉があるんだろうけど、それが全て僕の存在が彼の癒しを邪魔してるんだという事実に行き着く気がして……尚更、言葉少なに頷くしかなかった。

「終わったらまたソファで寝ていいから。太地くんが起きるまで俺は邪魔しないよ」
「うん……おやすみなさい」

 それから開かずの部屋へ入っていく彼の姿を目で追う。


 パタンとゆっくり扉が閉まるのを見送ってから僕は申し訳ない気持ちで「ごめんなさい」と呟いた。



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