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花を愛で、同様に花からも愛でられる
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「えー? 私達で交わした秘密っていっても信頼のおけるパートナーにはバラしちゃうもんじゃない? 一緒に住んでて血の繋がったきょうだいなんだから、秘密なんてあろうものなら気付かれるだろうし」
「気付かれないよう努力しますよそのくらい! 恵里子さんは出来ないんでしょうけど!!」
「まぁっ! 坊やひっどぉい!!」
「だってそうじゃないですかっ! 恵里子さんがカスミさんに『リョウにはガールフレンドちゃんが居る』ってバラしちゃったから……」
僕は顔を熱くしながらガキみたいな反論をした。それが巡り巡ってカスミさんにまで僕のプライベートを知られる引き金となってしまったからだ。
「あ……」
「ああ……」
花ちゃんも燿太くんも口から声を漏らして恵里子さんの方を向く。
「それは……申し訳なかった、わね。ごめんなさい。
結果、坊やだけじゃなくてお花ちゃんにも迷惑かけちゃったし、私は私で夫の家族の件でお店しばらく行けてなかったから、坊やとカスミさんの件を知ったのがごく最近だし。本当に……ごめんなさい」
恵里子さんはしおらしく、素直に僕と花ちゃんに向かって頭を下げた。
「いや……そこまで真剣に謝らなくていいですよ恵里子さん」
さっきまで明るく振る舞っていた恵里子さんが急に真面目モードになるとは思わず、僕は両手を左右に振る。
「あっ、恵里子さん」
花ちゃんも僕同様「謝らなくていい」という表情を恵里子さんに向けていた。
「お花ちゃん……」
「結果、太ちゃんも私も無事でしたし、こうして太ちゃんの新しい一歩を踏み出す手伝いも出来てますので」
僕と花ちゃんの言葉に恵里子さんは笑顔に戻り
「ありがとう。お料理はお詫びの意味も含んでいるから遠慮なくたくさん食べてね。勿論コウちゃんも!」
と、もう一度明るく乾杯をして美味しい料理や飲み物を4人で堪能し始めた。
「そういえば、燿太くんはどうして今日来てくれたの?」
あらかた食べ進め、少し冷静になった頭でもう一つ引っかかっていた疑問を友達に問う。
「ああ」
燿太くんは恵里子さんの美味しい料理に舌鼓を打ちながら、恵里子さんと花ちゃんの顔を順に見て……最後に僕の顔を見ながら口の中のものを嚥下して口を開く。
「ボクは樹の代役だよ。本来はここにボクじゃなくて樹が来る予定になっていたわけ。樹の勤務をボクが代わるって話でね」
「樹くんが!?」
久しぶりに懐かしい名前を耳にして、一瞬にして樹くんとの思い出の数々が蘇る。
「イツキさんの連絡先は私も知ってるから、私もお誘いしてみたの。でもやっぱり『仕事があるから』って断られちゃって」
「別にボクは代わっても良かったんだよ? なのに樹ってば『代わるならホームパーティーの方を代わってくれ』だってさ。結果美味しい料理にありつけてるし、花ちゃんにも会えたから良い事づくめだったけど」
「そっか……そうだったんだ」
樹くんには、また改めて感謝の言葉を伝えたかった……けれど彼は彼自身の仕事を誇りに思っているから。
プライベート時間を削って僕と会うよりも彼には彼らしく立派に仕事を全うしてほしいとも願う。
「やっぱり、ボクよりも樹に会いたかった?」
シュンとした顔を皆に見せてしまったから燿太くんが気にしてそう訊いてくれた。けれども僕は首を横に振る。
「我が儘言うなら燿太くんにも樹くんにも両方会いたかったよ。でも樹くんにはいっぱい迷惑かけてしまったから、せめて今はまだ樹くんらしくしていてほしいなって」
正直寂しいけど、彼があのマンションに住み続けるのであればまた会いにいく事が出来る。
そういう意味も込めて皆に向かってそう答えたら、恵里子さんが……
「逸木がここに来ないのは絶対私の所為なのよ。アイツ、基本的に私を面倒臭がってるから」
と、頬杖をつきながらそんな事を言い出した。
「え?」
驚いたのは僕1人で、花ちゃんも燿太くんも苦笑いしている。
「確かに、樹の性格ならあり得るかも!」
「恵里子さんから逸木さんのお話聞いちゃうと……ね」
2人の反応の仕方が意外過ぎて僕が戸惑っていると、恵里子さんは僕にニヤリと笑いかけ……
「私ね、逸木の同級生なの! 中学のね♪」
と、今まで一番ビックリする事実を聞かされた。
「えええっ!??? ……じゃあ、恵里子さんが開店当時からのお客様だったのって」
「勿論、逸木に無理矢理聞いたの。風の便りで女性用風俗店に関わり始めたって知ったから♪」
「ああ……」
「ケースケを独占できちゃってるのもアイツのおかげなの。じゃなきゃあの子と夢のような時間を週一回に我慢させられちゃうんですもの♡」
「……なるほど」
恵里子さんの幸せそうな笑みに思わず相槌を打ってみたものの……
(ユリさんと樹くんが同級生っていう事にビックリしてしまうけれど、他のお客様は週1回の推奨なのにユリさんにだけ週2回以上の来店を許したりケースケくんを贔屓にし過ぎていたりって、もしかして樹くんの陰なる苦労があってこそだったんじゃないかなぁ……)
そんな彼の気苦労を察してしまったし、何よ
り樹くんの前でユリさんの名前を出す度に彼が頬を引き攣らせていたのはこういった昔からの縁による事情があったのだと知ると、何とも言えない気持ちになった。
「気付かれないよう努力しますよそのくらい! 恵里子さんは出来ないんでしょうけど!!」
「まぁっ! 坊やひっどぉい!!」
「だってそうじゃないですかっ! 恵里子さんがカスミさんに『リョウにはガールフレンドちゃんが居る』ってバラしちゃったから……」
僕は顔を熱くしながらガキみたいな反論をした。それが巡り巡ってカスミさんにまで僕のプライベートを知られる引き金となってしまったからだ。
「あ……」
「ああ……」
花ちゃんも燿太くんも口から声を漏らして恵里子さんの方を向く。
「それは……申し訳なかった、わね。ごめんなさい。
結果、坊やだけじゃなくてお花ちゃんにも迷惑かけちゃったし、私は私で夫の家族の件でお店しばらく行けてなかったから、坊やとカスミさんの件を知ったのがごく最近だし。本当に……ごめんなさい」
恵里子さんはしおらしく、素直に僕と花ちゃんに向かって頭を下げた。
「いや……そこまで真剣に謝らなくていいですよ恵里子さん」
さっきまで明るく振る舞っていた恵里子さんが急に真面目モードになるとは思わず、僕は両手を左右に振る。
「あっ、恵里子さん」
花ちゃんも僕同様「謝らなくていい」という表情を恵里子さんに向けていた。
「お花ちゃん……」
「結果、太ちゃんも私も無事でしたし、こうして太ちゃんの新しい一歩を踏み出す手伝いも出来てますので」
僕と花ちゃんの言葉に恵里子さんは笑顔に戻り
「ありがとう。お料理はお詫びの意味も含んでいるから遠慮なくたくさん食べてね。勿論コウちゃんも!」
と、もう一度明るく乾杯をして美味しい料理や飲み物を4人で堪能し始めた。
「そういえば、燿太くんはどうして今日来てくれたの?」
あらかた食べ進め、少し冷静になった頭でもう一つ引っかかっていた疑問を友達に問う。
「ああ」
燿太くんは恵里子さんの美味しい料理に舌鼓を打ちながら、恵里子さんと花ちゃんの顔を順に見て……最後に僕の顔を見ながら口の中のものを嚥下して口を開く。
「ボクは樹の代役だよ。本来はここにボクじゃなくて樹が来る予定になっていたわけ。樹の勤務をボクが代わるって話でね」
「樹くんが!?」
久しぶりに懐かしい名前を耳にして、一瞬にして樹くんとの思い出の数々が蘇る。
「イツキさんの連絡先は私も知ってるから、私もお誘いしてみたの。でもやっぱり『仕事があるから』って断られちゃって」
「別にボクは代わっても良かったんだよ? なのに樹ってば『代わるならホームパーティーの方を代わってくれ』だってさ。結果美味しい料理にありつけてるし、花ちゃんにも会えたから良い事づくめだったけど」
「そっか……そうだったんだ」
樹くんには、また改めて感謝の言葉を伝えたかった……けれど彼は彼自身の仕事を誇りに思っているから。
プライベート時間を削って僕と会うよりも彼には彼らしく立派に仕事を全うしてほしいとも願う。
「やっぱり、ボクよりも樹に会いたかった?」
シュンとした顔を皆に見せてしまったから燿太くんが気にしてそう訊いてくれた。けれども僕は首を横に振る。
「我が儘言うなら燿太くんにも樹くんにも両方会いたかったよ。でも樹くんにはいっぱい迷惑かけてしまったから、せめて今はまだ樹くんらしくしていてほしいなって」
正直寂しいけど、彼があのマンションに住み続けるのであればまた会いにいく事が出来る。
そういう意味も込めて皆に向かってそう答えたら、恵里子さんが……
「逸木がここに来ないのは絶対私の所為なのよ。アイツ、基本的に私を面倒臭がってるから」
と、頬杖をつきながらそんな事を言い出した。
「え?」
驚いたのは僕1人で、花ちゃんも燿太くんも苦笑いしている。
「確かに、樹の性格ならあり得るかも!」
「恵里子さんから逸木さんのお話聞いちゃうと……ね」
2人の反応の仕方が意外過ぎて僕が戸惑っていると、恵里子さんは僕にニヤリと笑いかけ……
「私ね、逸木の同級生なの! 中学のね♪」
と、今まで一番ビックリする事実を聞かされた。
「えええっ!??? ……じゃあ、恵里子さんが開店当時からのお客様だったのって」
「勿論、逸木に無理矢理聞いたの。風の便りで女性用風俗店に関わり始めたって知ったから♪」
「ああ……」
「ケースケを独占できちゃってるのもアイツのおかげなの。じゃなきゃあの子と夢のような時間を週一回に我慢させられちゃうんですもの♡」
「……なるほど」
恵里子さんの幸せそうな笑みに思わず相槌を打ってみたものの……
(ユリさんと樹くんが同級生っていう事にビックリしてしまうけれど、他のお客様は週1回の推奨なのにユリさんにだけ週2回以上の来店を許したりケースケくんを贔屓にし過ぎていたりって、もしかして樹くんの陰なる苦労があってこそだったんじゃないかなぁ……)
そんな彼の気苦労を察してしまったし、何よ
り樹くんの前でユリさんの名前を出す度に彼が頬を引き攣らせていたのはこういった昔からの縁による事情があったのだと知ると、何とも言えない気持ちになった。
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