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花を愛で、同様に花からも愛でられる

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「そういえばお花ちゃん、坊やとの新生活はどう? 9月初めとはいえ暑い季節の引っ越しは大変だったでしょう?」

 恵里子さんは花ちゃんの方に向き直って話題を変えた。

「引っ越しの荷造りや手配は全部太ちゃんがやってくれたんです。高校時代にも引っ越しのアルバイトやってたから手際良くって助かりました」
「そんな……僕の所為で引っ越しする羽目になったから、花ちゃんにあまり迷惑かけたくないなって思っただけで」
「今も専門学校の入試対策しながらアルバイト掛け持ちしてるんですよ。太ちゃん、この2か月弱でバイト代たくさん稼いでて」
「それも学費に回すんだよ。自分の為だから」

 一応謙遜してみるものの、花ちゃんの褒め言葉に僕の頬は弛む。

「マッサージ資格取得の為の専門学校かぁ……まぁ、坊やらしいと言えばらしいわね」
「ボクなんかようやくリョウと同レベルの事が出来始めてて、今度アロマの民間資格取ろうって思ってるところなのに!更に上を目指そうとするんだから参るよね」

 恵里子さんの言葉も燿太くんの言葉も、くすぐったいけど気持ちいいみたいな不思議な感覚がする。

「入試はこれからなんだけど、絶対に合格してみせるよ。そしてちゃんと資格を取って、今度は男性も女性も僕のマッサージで癒してあげたい。近い将来人の役に立てる仕事を本格的にしたいんだ」

 ガキっぽい行動かもしれないけれど、この場で宣言するような発言を僕がしたら

「頑張れ太ちゃん!」
「坊やなら出来るわよ、絶対♪」
「この際太地くんは高みを目指していかないとね!樹も絶対そう思ってるよ」

 3人とも温かな笑顔やエールを向けてくれた。



「恵里子さんお邪魔しましたー」
「ユリさんご馳走様」
「今日はありがとうございました」

 ホームパーティーは2時間ほどでお開きとなり、お暇させていただく。
 僕と花ちゃんは今日まで契約していたアパートの駐車場に停めていた車に乗り込む為に駅とは反対方向へと足を向け、歩いて駅に向かおうとしていた燿太くんを呼び止めた。

「今から仕事でしょ? 店の近くまで送るよ」
「ホント? めちゃくちゃ助かる♪」

 彼は僕が言い終わらないうちにクルッと振り向いてニッと笑うんだから、僕も花ちゃんもクスクス笑ってしまった。

「あっ! そうだ大事な事を忘れてたよ!」

 車に3人で乗り込む際、燿太くんは思い出したかのようにスマホを取り出すので、僕も運転席から後部座席に座る燿太くんへ自分のスマホを近付けてみる。

「新しい番号で連絡交換、してもいい?」

 僕の問いに燿太くんは笑顔で頷き連絡交換を済ませる。

「じゃあ燿太くん、店の前まで向かうね」
「いやいや! 大事な事は連絡交換だけじゃないから!」

 燿太くんは僕がエンジンをかけるのを慌てて止めて、身に付けている鞄の中身をガサガサやり出す。

「これ、6月分と7月1日分の給料だよ『渡してほしい』って頼まれたんだ」
「「えっ!?」」

 燿太くんが差し出してきた封筒の厚みに僕も花ちゃんも驚き、花ちゃんは目を見開いて僕と燿太くんの顔を交互に見ている。

「ひと月分の給料にしては多過ぎるよ絶対!! 金額間違えてるって!!」

 僕はすぐに突き返したんだけど、燿太くんは譲らない。

「店側がリョウの報酬として用意したんだから、絶対受け取って! じゃなきゃボクが叱られるんだよ」
「でも……」
「一から新しい生活始めるし専門学校の学費もかかるし、しかもその間あまりバイトも出来ないんだろ? 大人しく受け取んなよ! 太地くんが受け取らないなら花ちゃんに渡しちゃうっ!」
「ええ!? わ、私??!」

 僕が受け取らないと知るなり、今度は花ちゃんに分厚い封筒をグイッと押し付ける。

「ええ! ちょっと燿太くんっ!」
「まだ時間に余裕あるからやっぱ歩いて駅まで行くよー! じゃあねー!!」

 それから燿太くんは後部座席のドアを開け、逃げるように駅まで走って行ってしまった。

「……行っちゃった」
「……そうだね」

 こっちは車なんだから追いかければすぐ彼に追いつくんだけど、僕達は呆気にとられてしまって

「燿太くん、足速いんだね」
「学生時代、短距離でインターハイ出た事あるって、太ちゃんが来る前に話してたよ」
「へぇ……すごい人だったんだね、知らなかった……」

 なんだか脱力し、2人で顔を見合わせる。

「太ちゃんが働いていたお店は皆良い人なんだね。燿太くんも逸木さんも、オーナーさんも」
「うん……」

 花ちゃんの優しい言葉に僕は頷き、彼女から封筒を受け取って自分の鞄の中に入れた。

「お金は、大事に使わせてもらうよ。学費の足しにする」
「それがいいね! 皆さん、太ちゃんの事を応援してくれてる筈だもん!」

 それは本当に、彼女の言う通りだと思った。

「頑張らなきゃね、僕……」
「うん! 私も太ちゃんサポートするから♪」

 だから尚更、全ての人からの温かい気持ちが伝わってくる。

「ありがとう……」


 僕は感謝の言葉を呟き、家路へ急ぐ為に改めて車のエンジンをかけた。



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