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じゅう。

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この世界に来てから何度イケメンに気絶させられたやられたのだろうか。

未だ揺れる軍馬の上で意識を取り戻した私は、そう思いながら目を開ける。

「うわぁ……!」

目を開けた先に見たには、夕陽に照らされる大きく高い塀。

その下にある門からは、少し先に沢山の露店が見えた。

「リウ、起きたのなら、フードをかぶれ。」

私が声を出した事により目が覚めたと分かったのか、ゼノさんの声が聞こえる。

言われるままにフードをかぶれば、隣に一騎の軍馬が並んだ。

「よく寝ていたね、リウ。」

「セシル王子。」

「昨日はよく眠れなかったの?」

「…いえ、私の防御力の問題です。」

「あははっ、またそれ?」

王子は笑うが、私には死活問題だ。

まさか視界の防御力だけではなく、耳の防御力まで上げなくてはならぬとは。

私がそんなことを決意しているとは知らない王子は、軍馬を元の位置に戻した。



「リウ、今から王都に入る。もう少し目深にフードをかぶれ。」

第2王子に見つかりたくなければな。

そういうゼノさんにびくりと体を揺らし、フードをできる限り目深にかぶる。

近くで、大きな鐘のなる音が聞こえた。

しばらくすると、門を入り、王都の中を進むのがわかった。

人々が行き交い、活気ある道を進めば、沢山の声が聞こえる。

「第1騎士団が帰ってきたぞ!」

「セシル王子ー!」

「カッコいい!」

「キャァ!第1騎士団よ!」

「ゼノ団長!おかえりなさい!」

「セシル王子!ご無事で安心しましたわ!」

国の騎士の帰還を喜んでいるのだろう。歓声がすごい。

先ほどよりも沢山の人が集まっているのがわかった。

「ゼノ団長の前にいる方はどなたかしら…?」

どこかで、その声が聞こえた。

目深に被っているフードを握り、下を向けば、小さな子供と目があった気がした。

それにギュッと目を閉じ視線から逃れれば、パサリ、と頭に何かがかけられた。

「それで、少しはごまかせるでしょ。」

そう言って、私に何か布をかけてくれたのはハロルド君で、暗くなった視界に映るのは、ハロルド君のローブだろう。

「…ありがとう。」

異様な姿の私に視線が集まっているような気がしなくもないが、先ほどより恐怖は薄らいだ気がした。






「もう大丈夫だぞ。」

ゼノさんの声が聞こえ、私に被っていたローブが取られる。

三つの大きな建物があるその場所は、人々の歓声がなくなり、とても静かだった。

先に軍馬を降りたゼノさんに掴まり私も降りれば、ハロルド君が近付いてくる。

「ハロルド君、ローブありがとう。助かりました。」

「いや、なんとなく予想はしていたからな。」

そう言って私からローブを受け取った彼は、私たちが乗っていた軍馬と自分の軍馬を引き連れて何処かに行った。

ハロルド君の背を見送った私は、着ていたローブをゼノさんに返す。

「ありがとうございました。」

「あぁ。疲れただろう、もうすぐパドマが来る。」

そしたらまずは風呂に入ると良い。と言うゼノさんの言葉が終わった時、タイミングよくパドマさんが現れた。

「ゼノ団長、リウをお借りします。」

「あぁ。また後で食堂に連れてこい。」

「かしこまりました。」

ゼノさんが場所を離れれば、パドマさんに、じゃあ行こうか、とゼノさんが入って行った建物とは別の建物に入っていく。

私もパドマさんについて建物に入れば、こっちよ。と手をひかれる。

ひかれるままについていけば、一つの扉の前で立ち止まった。

「ここは大浴場よ。この建物は第1騎士団の女子寮で、部屋にもシャワー室があるけど、今日はここを使ってちょうだい。今は誰も使ってないから、ゆっくりできると思うわ。」

そう言って扉を開いた先は、私が知っている温泉みたいな感じで、10人ほどがゆっくり入れる広さがあった。

使い方はこうで、シャンプーは……。と教えてくれたパドマさんは、じゃあ私は部屋のシャワー室使うから。着替えは後で持って来るわ。と言って出て言った。

扉が閉まったのを確認した私は、服を脱ぎ、浴室に入る。

何日も溜めた汚れを綺麗に落とすように丁寧に髪と体を洗い、湯船に浸かれば、随分と久しぶりの入浴にホッと息をついた。

しかしすぐに、落ち着いている場合ではないと思い至る。

この人達の優しさにいつまでも甘えていられない。

これからの自分のことを考えなければいけないのだ。

300年に1度の儀式ということは、私が日本に帰れる可能性はとても低いだろう。

もし帰れたとして、果たしてそこは私の知る日本なのかすらも分からない。

それに、帰るためには最初にいた、あの大きな水たまりがある場所に行かなければいけないのだ。


___私を捨てると決めた危険な場所。


第2王子に会うかもしれない。

あの場にいた誰かに会うかもしれない。

そう言えば、あの時の少女は元気だろうか。

この世界に来て一番はじめに声をかけてくれた黒髪の少女を思い出す。

顔は朧げで、思い出そうとすると靄がかかった。

「ま、あの子は聖女様だし、私とは違うか。」

私から出た声は、今の私の不安な気持ちを当たるかのように嫌味っぽかった。

そんな自分自身に自嘲すれば、先ほどの行いが少しは許されるような気がした。
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