悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

文字の大きさ
4 / 49
第一章:まずは、スタートラインに立つために。

4.嵐の予感

しおりを挟む
 ミネルヴァは、海を望むことが出来る居間で午後のお茶を楽しみながら一人で過ごしていた。
 彼女が目を覚まし、一日が経った。
 ヴァラドは父への定期的な連絡のために屋敷を離れており、ビンスは屋敷の周りを警護している。リーネアッラは、ほんの少し前までこの場に居て給仕をしてくれていたのだが、侍女長に呼ばれて離れている。
 そもそもこの屋敷は別荘で、常時生活しているのは庭師と掃除婦の夫婦である、ランとアニーラというフリッタ夫妻だけだ。母親であるライネッツ公爵の領内にあり、今回訪れるにあたっては、執事が一人、侍女が二人、護衛が二人という総勢五人しか人を連れてきていない。屋敷の大きさに対してあまりに人間の数が少なかった。
「はぁ…」
 一人なのをいい事に、遠慮なく溜息を吐く。ついでに机に肘をついて頭を抱える。
(頑張ろうと決意したのはわずか一日前なのに、今から三ヶ月後を思うだけで気が重い)
 彼女の知っているストーリーで、ミネルヴァの出番は既に終わっている。五日前の修学式という、彼女の知識で言うところの高校の卒業式のようなものの式場で、ミネルヴァは衆目の中、王太子に婚約破棄を告げられて、ゲームストーリーからは退場だった。
 最礼服に身を包み、式場へ足を運ぶと、扉の前から人垣が真っ直ぐに伸びていた。そして、その先には王太子と寄り添うようにリリィ・マリア・ネート子爵令嬢が立っていた。王太子に婚約破棄を言い渡されたミネルヴァは、式場に入ることも出来ず、その場から踵を返して立ち去ったのだ。
(式場を逃げ出し、その足でこの別荘へ…んー三ヶ月後の卒院式、イラストは王太子とヒロインが踊ってるやつだったと思うんだよね…そこにはミネルヴァは居なかったけど………ゲームでは自殺が成功してしまっていたのか、単に何かの理由をつけて欠席したのか、イラスト上切り取られていただけか………少なくともミネルヴァ不在の理由なんて一切触れられていなかった…はず)
 正直に言うと彼女がゲームをプレイした時に一番熱心になったのは王太子ではなく未来の近衛騎士団長カイル・ダリオ・フォルカ伯爵令息だった。王太子のストーリーもクリアはしていたのだが、思い返したストーリーもイラストも、どうにも朧げである。
(まぁ、もう婚約破棄されてしまったし…大人しく壁の花でもやってればいいのかなぁ…)
 修学式はともかく卒院式は、よほどの理由がなければ欠席はできないのが現実だ。だからこそ彼女は三ヶ月後を考えると気が重いのだ。つまり、ゲームのイラストにミネルヴァが居ないのは切り取られているのだろう、そう考える。流石に、同級生のミネルヴァが死んだその後で大団円ムードで卒院式が開かれたとは、思いたくない。
 そもそも修学式と卒院式は、彼女の感覚では卒業式と入社式に似ている。卒業証書の授与式が修学式で、卒業生達がこれから大人として社会に出ていきますと決意表明するのが卒院式、という訳だ。
 だが、流石は身分社会の貴族様、といったところか。修学式と卒院式の間には、三ヶ月半ほどの間が有る。この期間、学院の最上級生である学徒達は授業が無い。当然である、既に修学済みなのだ。だが、まだ学徒である。いわば、モラトリアムだ。共に学んだ友人達と、上下関係が確立される前に、自由にはしゃぐための期間。
(大学生の卒業旅行よね、ようするに、まぁ、出て行く社会の緩さは段違いだけど)
 背もたれにぐったりと体を預けながら、ああでもないこうでもない、と卒院式をやり過ごす方法を考える。
 卒院は社会への門出も兼ねている。院生の両親のみならず国家要人も参加するため、欠席可能となる正当な理由は忌引きか危篤くらいなもので、正直ミネルヴァの意思でどうこう出来る事ではない。
(出席は大前提。壁の花になるのは簡単だろうけど、ミネルヴァの身分でそれは、型破りだしなぁ………足音?)
 一人考えていた彼女の耳に、おかしな音が届く。
(え、何っ!?)
 この屋敷に歩く時にこれほど大きな足音を立てる者は居ない。しかも、音は歩くというより、走っているような間隔でどんどん近付いてきている。扉に最も音が近付いてくる頃には、叫ぶ様なリーネアッラの声も聞こえていた。
(え? リーネ?)
 リーネアッラの声がしているということは、少なくとも強盗などではないのだろうか。幾分か緊張を和らげ、足音が止まった扉を見つめていると、ものすごい勢いで扉が開いた。リーネアッラが慌てて扉に取り付き、壁に激突するのをなんとか防いでいる。
 当の、扉を壁に激突させる勢いで開けた人物は、腰に両手を当てて仁王立ちし、爛々と燃えるような瞳でミネルヴァを見つめた。小柄な体躯に、ブルネットの柔らかな巻毛と丸い緑の瞳がなんとも愛らしく、小動物の様である。格好は仁王立ちだが。
「ミーナ!!」
 鋭い声がミネルヴァの耳を震わせた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います

真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...