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第一章:まずは、スタートラインに立つために。
10.時は迫る
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卒院式まであと十五日、そろそろ王都へ移動を始めなくては、という訳で、ミネルヴァはせっせと荷造りをしている。いや、大きなものや重いものは当然のことながら、小さなものや軽い荷物とて使用人達がせっせと詰めて、積み込んでいるのだが。こと、イーグルに関してだけは全て自分でやるようにしているのだ。
「えっと、後は、イーグルの餌ね」
「お嬢様…すっかりお元気になられて」
生け捕りにされた鼠がごそごそと動いている籠を手にイーグルへ微笑みかける姿を見て、侍女長が涙ぐむ。その涙には、わずかばかりのどうしてこうなったという悔恨の念も含まれているが、概ねミネルヴァの笑顔を喜ぶものだ。
ちなみにフランセスカは、一日早く旅立っている。
(色々あったけど、卒院式はフランセスカも一緒だし、虫除けに従兄のニムが一緒に居てくれるみたいだし、壁前に立ってれば良いわよね)
ニムとは、セフィルニム・モク・ライネッツ公爵令息の愛称であり、彼はミネルヴァの従兄であり、フランセスカの二つ歳上の兄だ。
高い身分にありながら壁際に固まっているのは褒められた事ではない。だが、一度でもセフィルニムと踊れば面目は潰れずに済む。式の初めに少し踊って、その後は壁際に居ようと考えている。フランセスカにも相談したが、それが良いと思うわと言われた。セフィルニムを呼んだのも彼女の手配だったりする。
(やっぱりフランセスカ様々だわ。彼女のおかげでものすごく助かってる)
ミネルヴァはイーグルを左腕に載せ、右手でその頭を撫でながら微笑む。イーグルの爪には、彼女がアニーラに教わって作った、爪鞘という人を傷付けないように猫鷹の爪に着ける革製の装具がしてある。
「お父様にはちゃんと許可をもらったから、貴方も一緒よイーグル。新しい場所でもちゃんと側に居るから心配しないでね」
ランが用意してくれた篭箱という猫鷹のねぐらにイーグルに入ってもらう。
猫鷹には帰巣本能ならぬ帰主本能のようなものがあり、移動する船で猫鷹を飼う事ができるのもこのためである。イーグルほど懐いていればミネルヴァの元に戻る意識があるので、馬車の中に繋いでおかずに馬車の上に篭箱ごと居てもらい、移動中でも好きに飛べるようにした方がストレスを溜めなくて良いのだ。
「ラン、アニーラ。急に来たのにとても気持ちよく過ごせたわ。二人のおかげよ。本当にありがとう」
「もったいないお言葉ですお嬢様」
「またいつなとお越しになって下さいませ」
ランとアニーラの見送りで馬車に乗り込み、ミネルヴァはついに王都に向けて出発した。
リーネアッラと二人、車内で揺られている。当然だが、馬車の中では本は読めないし、何か書物もできない。飲食も無理なので、普段は静かに過ごすことが多い主従の間であっても、自然と会話が始まった。話が始まれば、互いに仲が良い年頃の娘達だ、当然会話は楽しくはずむ。
「そういえば…フランセスカ様のご用事ってなんだったんでしょう。一日早いだけなら一緒でも良かったのでは、と思うのですが」
首を傾げるリーネアッラにミネルヴァが微笑んで予想を答える。
「私のために王都でもなるべく一緒に居てくれるつもりみたいだから、式の用意のためだと思うわ…流石に、王都では気を遣わないで大丈夫よって言ったのだけど。優しいから、セスって」
卒院式の装いは、学院制服の最礼装に手を加えたドレスで参加するのが慣例である。
公爵家令嬢ともなれば、当然の様に好みも引き立て方も知り尽くしたお抱えのお針子がいるので、本人が不在でもドレスそのものは出来上がる。現にミネルヴァのドレスも本人不在の中出来上がっていると報告を受けている。
ただ、やはり本番前に本人が着用して合わせなくてはならないし、髪型や小物の検討も必要なのだ。
「然様でございますね。用意と言えば、お嬢様のドレスは淡い青とうかがいました。髪飾りは青玉の金細工になさいますか?」
「気が早いわよリーネ」
まだドレスの現物も見ていない内から小物の検討を始めるリーネアッラに笑いながら、彼女の記憶の中で一枚の絵が思い浮かぶ。
「でも、そうね、あの髪飾りはしないわ…いっそ、イーグルの羽で飾りを作ろうかしら」
「えぇ!?」
「海辺の鳥だもの、真珠と合わせてみたらどうかしら、私の髪に飾ったらイーグルの灰色は映えると思うわ」
「もうお嬢様ったら。…冗談ですよね?」
「さぁ?」
慌てるリーネアッラをからかう様にはぐらかしながら、ミネルヴァは笑う。
ミネルヴァが気に入ってよく使っていた青玉をはめ込んだ金製の髪飾りは、彼女の瞳によく似た色をしている。そしてそれは、王太子の瞳の色にも似ているという事だ。だからこそミネルヴァはその髪飾りを愛用していた。
そして、彼女が思い出した絵の中で、同じ青玉をはめ込んだ金製の髪飾りを着けていたのはミネルヴァではない。
(絶対に…あの髪飾りだけは、もう着けられないわ)
いっそ処分してしまった方が良いのかもしれないと考えながら、その事をリーネアッラには知られないように会話を続ける。
さすがに卒院式にというのは冗談だったが、イーグルの羽で髪飾りを作るというのは、自分で言っておいてなんだが、名案だと思えてきた。話しているうちにリーネアッラもノってきて、ああでもないこうでもないと二人で話し続け、休みの際などに具体的なデザイン案を紙に書きつけたりした。
「えっと、後は、イーグルの餌ね」
「お嬢様…すっかりお元気になられて」
生け捕りにされた鼠がごそごそと動いている籠を手にイーグルへ微笑みかける姿を見て、侍女長が涙ぐむ。その涙には、わずかばかりのどうしてこうなったという悔恨の念も含まれているが、概ねミネルヴァの笑顔を喜ぶものだ。
ちなみにフランセスカは、一日早く旅立っている。
(色々あったけど、卒院式はフランセスカも一緒だし、虫除けに従兄のニムが一緒に居てくれるみたいだし、壁前に立ってれば良いわよね)
ニムとは、セフィルニム・モク・ライネッツ公爵令息の愛称であり、彼はミネルヴァの従兄であり、フランセスカの二つ歳上の兄だ。
高い身分にありながら壁際に固まっているのは褒められた事ではない。だが、一度でもセフィルニムと踊れば面目は潰れずに済む。式の初めに少し踊って、その後は壁際に居ようと考えている。フランセスカにも相談したが、それが良いと思うわと言われた。セフィルニムを呼んだのも彼女の手配だったりする。
(やっぱりフランセスカ様々だわ。彼女のおかげでものすごく助かってる)
ミネルヴァはイーグルを左腕に載せ、右手でその頭を撫でながら微笑む。イーグルの爪には、彼女がアニーラに教わって作った、爪鞘という人を傷付けないように猫鷹の爪に着ける革製の装具がしてある。
「お父様にはちゃんと許可をもらったから、貴方も一緒よイーグル。新しい場所でもちゃんと側に居るから心配しないでね」
ランが用意してくれた篭箱という猫鷹のねぐらにイーグルに入ってもらう。
猫鷹には帰巣本能ならぬ帰主本能のようなものがあり、移動する船で猫鷹を飼う事ができるのもこのためである。イーグルほど懐いていればミネルヴァの元に戻る意識があるので、馬車の中に繋いでおかずに馬車の上に篭箱ごと居てもらい、移動中でも好きに飛べるようにした方がストレスを溜めなくて良いのだ。
「ラン、アニーラ。急に来たのにとても気持ちよく過ごせたわ。二人のおかげよ。本当にありがとう」
「もったいないお言葉ですお嬢様」
「またいつなとお越しになって下さいませ」
ランとアニーラの見送りで馬車に乗り込み、ミネルヴァはついに王都に向けて出発した。
リーネアッラと二人、車内で揺られている。当然だが、馬車の中では本は読めないし、何か書物もできない。飲食も無理なので、普段は静かに過ごすことが多い主従の間であっても、自然と会話が始まった。話が始まれば、互いに仲が良い年頃の娘達だ、当然会話は楽しくはずむ。
「そういえば…フランセスカ様のご用事ってなんだったんでしょう。一日早いだけなら一緒でも良かったのでは、と思うのですが」
首を傾げるリーネアッラにミネルヴァが微笑んで予想を答える。
「私のために王都でもなるべく一緒に居てくれるつもりみたいだから、式の用意のためだと思うわ…流石に、王都では気を遣わないで大丈夫よって言ったのだけど。優しいから、セスって」
卒院式の装いは、学院制服の最礼装に手を加えたドレスで参加するのが慣例である。
公爵家令嬢ともなれば、当然の様に好みも引き立て方も知り尽くしたお抱えのお針子がいるので、本人が不在でもドレスそのものは出来上がる。現にミネルヴァのドレスも本人不在の中出来上がっていると報告を受けている。
ただ、やはり本番前に本人が着用して合わせなくてはならないし、髪型や小物の検討も必要なのだ。
「然様でございますね。用意と言えば、お嬢様のドレスは淡い青とうかがいました。髪飾りは青玉の金細工になさいますか?」
「気が早いわよリーネ」
まだドレスの現物も見ていない内から小物の検討を始めるリーネアッラに笑いながら、彼女の記憶の中で一枚の絵が思い浮かぶ。
「でも、そうね、あの髪飾りはしないわ…いっそ、イーグルの羽で飾りを作ろうかしら」
「えぇ!?」
「海辺の鳥だもの、真珠と合わせてみたらどうかしら、私の髪に飾ったらイーグルの灰色は映えると思うわ」
「もうお嬢様ったら。…冗談ですよね?」
「さぁ?」
慌てるリーネアッラをからかう様にはぐらかしながら、ミネルヴァは笑う。
ミネルヴァが気に入ってよく使っていた青玉をはめ込んだ金製の髪飾りは、彼女の瞳によく似た色をしている。そしてそれは、王太子の瞳の色にも似ているという事だ。だからこそミネルヴァはその髪飾りを愛用していた。
そして、彼女が思い出した絵の中で、同じ青玉をはめ込んだ金製の髪飾りを着けていたのはミネルヴァではない。
(絶対に…あの髪飾りだけは、もう着けられないわ)
いっそ処分してしまった方が良いのかもしれないと考えながら、その事をリーネアッラには知られないように会話を続ける。
さすがに卒院式にというのは冗談だったが、イーグルの羽で髪飾りを作るというのは、自分で言っておいてなんだが、名案だと思えてきた。話しているうちにリーネアッラもノってきて、ああでもないこうでもないと二人で話し続け、休みの際などに具体的なデザイン案を紙に書きつけたりした。
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