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第一章:まずは、スタートラインに立つために。
11.ちょっと一息
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「あら、良いじゃない。びっくりするくらい似合っていましてよミーナ」
「本当?」
フランセスカの正直な褒め言葉にミネルヴァも弾んだ声を返す。
今、ミネルヴァの髪にはイーグルの羽を使って作られた髪飾りが燦然と輝いていた。
結局、馬車移動の五日間で、ミネルヴァとリーネアッラは試行錯誤を繰り返し、これだ、と思える一枚のデザイン画を作り上げた。勿論、金属の装飾品は簡単に作れるものではないし、デザイン画が現実になるとは彼女達も考えていなかった。あれこれと妄想を詰め込むのが楽しかったのだけなのだ。
だからそのデザイン画をミネルヴァお抱えのお針子、サフ=ジーノ・アノスに見せたのも、こんなものを作って欲しい、というより、こんなに素敵なものを考えたから見てちょうだい、という意味合いが強かった。
デザイン画とイーグルの羽、折れてしまったものを抜いた羽や落ちた羽を集めたものだが、を見つめたサフ=ジーノが、一度工房に持って帰っても良いかと訊いてきた時も、
「構わないわ」
と、あっさり応えたが。それも、サフ=ジーノなら、何か素敵な羽飾りを作ってくれるかもしれない、というぼんやりした期待があっての事でしかない。
まさか素人のデザイン画が驚く程の再現率で立体に成るなど、予想すらしていなかった。
「でも、いくらジーノが有能でも、これを作ったのはあなたではないわよね? 昨日の今日で、どうやって作ったっていうのかしら」
フランセスカの言葉に、サフ=ジーノが運命なのですと笑う。
「うちの若手の銀線細工を作ってる者が、ちょうどこんな感じの髪飾りを作ってたな、と思って。お借りして持って帰って確認したら、まぁ、そっくりで。この羽もその者のイメージにぴったりだったらしくて、そのままあっと言う間に仕上げてしまって、こうしてお嬢様の御髪を飾ることになりました」
「あらまぁ…」
サフ=ジーノの嬉しそうな返答に、成る程運命だわ、と納得してフランセスカは再びミネルヴァを見つめる。
緩くまとめただけの髪に添えられた髪飾りは、イーグルの灰色の羽が使われてるにも関わらず、ミネルヴァの金髪をよく引き立て、かつ映えていた。土台の銀線細工も、施された真珠も、あくまで羽がメインだと解る加減が絶妙で、あまりにもミネルヴァに似合っていた。
「センスがいい小物職人が入ったということね、私にも今度何か作品を見せて頂戴」
「勿論ですお嬢様」
サフ=ジーノはミネルヴァお抱えだが、そこそこの規模で工房を構えている。優先順位の最上段がミネルヴァというだけで、実はフランセスカを始め未婚の貴族令嬢達からひいきにされているのだ。
(時間つぶしの思い付きのつもりだったんだけど…)
ミネルヴァはもう一度鏡で髪飾りを確認して、リーネアッラに視線を投げる。その背後に大変お似合いですお嬢様、という文字を浮かべた満面の得意顔で頷かれた。
(どうしよう、卒院式、ちょっと楽しみになって来たかも)
別荘で過ごしていた時に比べれば慌ただしい日々になっているが、囲む人々の温かさのおかげか、三ヶ月の休養で英気を養ったためか、過ぎる周囲に置いて行かれるような事は無く。リーネアッラが居るからとか、フランセスカが一緒だからとかでなく、ミネルヴァという人生を楽しいと思って生活ができている気がする。
鏡の前でくるくると姿勢を変えていたミネルヴァは、ふとイーグルが見つめている事に気付いた。その視線の前で、白い学院の制服に淡い青を足した柔らかなラインのドレスが広がるように、ふわりと一回転して見せる。
「ピー」
ちょうど一周回って止まると、囁くように小さく鳴いた。なんだか褒められているような気がして、ミネルヴァが笑顔になると、背後からフランセスカの感心したような声が聞こえた。
「あらイーグルはちゃんと見る目が有りますわね」
「似合っているって?」
「僕の羽がこんなにも似合うのは世界中を探してもお嬢様以外には居りません、って言ってますわ」
イーグルの代弁なのだろう、芝居がかった様子で礼を取りながらフランセスカが言った。一度短く鳴いただけで伝えたとは思えない分量である。
「そんなに?」
「そんなに」
二人は真面目な顔で見つめ合った。
「………」
「………」
お互いに同じタイミングで顔を背け、肩を震わせる。口元をそっと抑えているが、堪え切れなくなるのも時間の問題だろう。
「イーグルちゃんてセンスが良いのねぇ、うちに顧問で来てもらいたいくらいだわ」
「もう無理っ!」
「どうして今言ったのジーノ!」
二人は他人の眼があれば眉を顰められただろう位には大声でお腹を抱えて笑い出す。してやったりというサフ=ジーノの表情は、口を歪めて必死に笑いをこらえているリーネアッラとつぶらな瞳で主人を見つめるイーグルだけが見ていた。
「本当?」
フランセスカの正直な褒め言葉にミネルヴァも弾んだ声を返す。
今、ミネルヴァの髪にはイーグルの羽を使って作られた髪飾りが燦然と輝いていた。
結局、馬車移動の五日間で、ミネルヴァとリーネアッラは試行錯誤を繰り返し、これだ、と思える一枚のデザイン画を作り上げた。勿論、金属の装飾品は簡単に作れるものではないし、デザイン画が現実になるとは彼女達も考えていなかった。あれこれと妄想を詰め込むのが楽しかったのだけなのだ。
だからそのデザイン画をミネルヴァお抱えのお針子、サフ=ジーノ・アノスに見せたのも、こんなものを作って欲しい、というより、こんなに素敵なものを考えたから見てちょうだい、という意味合いが強かった。
デザイン画とイーグルの羽、折れてしまったものを抜いた羽や落ちた羽を集めたものだが、を見つめたサフ=ジーノが、一度工房に持って帰っても良いかと訊いてきた時も、
「構わないわ」
と、あっさり応えたが。それも、サフ=ジーノなら、何か素敵な羽飾りを作ってくれるかもしれない、というぼんやりした期待があっての事でしかない。
まさか素人のデザイン画が驚く程の再現率で立体に成るなど、予想すらしていなかった。
「でも、いくらジーノが有能でも、これを作ったのはあなたではないわよね? 昨日の今日で、どうやって作ったっていうのかしら」
フランセスカの言葉に、サフ=ジーノが運命なのですと笑う。
「うちの若手の銀線細工を作ってる者が、ちょうどこんな感じの髪飾りを作ってたな、と思って。お借りして持って帰って確認したら、まぁ、そっくりで。この羽もその者のイメージにぴったりだったらしくて、そのままあっと言う間に仕上げてしまって、こうしてお嬢様の御髪を飾ることになりました」
「あらまぁ…」
サフ=ジーノの嬉しそうな返答に、成る程運命だわ、と納得してフランセスカは再びミネルヴァを見つめる。
緩くまとめただけの髪に添えられた髪飾りは、イーグルの灰色の羽が使われてるにも関わらず、ミネルヴァの金髪をよく引き立て、かつ映えていた。土台の銀線細工も、施された真珠も、あくまで羽がメインだと解る加減が絶妙で、あまりにもミネルヴァに似合っていた。
「センスがいい小物職人が入ったということね、私にも今度何か作品を見せて頂戴」
「勿論ですお嬢様」
サフ=ジーノはミネルヴァお抱えだが、そこそこの規模で工房を構えている。優先順位の最上段がミネルヴァというだけで、実はフランセスカを始め未婚の貴族令嬢達からひいきにされているのだ。
(時間つぶしの思い付きのつもりだったんだけど…)
ミネルヴァはもう一度鏡で髪飾りを確認して、リーネアッラに視線を投げる。その背後に大変お似合いですお嬢様、という文字を浮かべた満面の得意顔で頷かれた。
(どうしよう、卒院式、ちょっと楽しみになって来たかも)
別荘で過ごしていた時に比べれば慌ただしい日々になっているが、囲む人々の温かさのおかげか、三ヶ月の休養で英気を養ったためか、過ぎる周囲に置いて行かれるような事は無く。リーネアッラが居るからとか、フランセスカが一緒だからとかでなく、ミネルヴァという人生を楽しいと思って生活ができている気がする。
鏡の前でくるくると姿勢を変えていたミネルヴァは、ふとイーグルが見つめている事に気付いた。その視線の前で、白い学院の制服に淡い青を足した柔らかなラインのドレスが広がるように、ふわりと一回転して見せる。
「ピー」
ちょうど一周回って止まると、囁くように小さく鳴いた。なんだか褒められているような気がして、ミネルヴァが笑顔になると、背後からフランセスカの感心したような声が聞こえた。
「あらイーグルはちゃんと見る目が有りますわね」
「似合っているって?」
「僕の羽がこんなにも似合うのは世界中を探してもお嬢様以外には居りません、って言ってますわ」
イーグルの代弁なのだろう、芝居がかった様子で礼を取りながらフランセスカが言った。一度短く鳴いただけで伝えたとは思えない分量である。
「そんなに?」
「そんなに」
二人は真面目な顔で見つめ合った。
「………」
「………」
お互いに同じタイミングで顔を背け、肩を震わせる。口元をそっと抑えているが、堪え切れなくなるのも時間の問題だろう。
「イーグルちゃんてセンスが良いのねぇ、うちに顧問で来てもらいたいくらいだわ」
「もう無理っ!」
「どうして今言ったのジーノ!」
二人は他人の眼があれば眉を顰められただろう位には大声でお腹を抱えて笑い出す。してやったりというサフ=ジーノの表情は、口を歪めて必死に笑いをこらえているリーネアッラとつぶらな瞳で主人を見つめるイーグルだけが見ていた。
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