悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第一章:まずは、スタートラインに立つために。

12.ついに時が来た

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 客間でセフィルニムと向き合って、ミネルヴァはイーグル自慢をしていた。
 時は緊張の卒院式当日であるのだが、ミネルヴァは至って元気である。
 いや、朝から本当に緊張はしていたのだ、迎えのためにセフィルニムが屋敷を訪れたその瞬間は、このままだと会場で卒倒するかもしれないと思うほどだった。ただ、そんなミネルヴァを見たセフィルニムが、フランセスカに似た笑顔で開式の時間が遅れるから少しお茶をもらっても良いかな、と言ったから、力が抜けたのだ。
 とかく女性が強いライネッツ公爵家で育ったからか、生来の性質なのか、セフィルニムは聞き上手である。柔らかな雰囲気で、否定も肯定もせず、絶えぬ笑顔で話を聞いてくれる。
「あ、いやだわ、私、話に夢中になって。式の遅延はどれくらい? まだ大丈夫かしら」
「ああ、そうだね、まだ大丈夫だとは思うけど。そろそろ向かおうか」
「ええ。でも、卒院式が遅れるなんて珍しいわね」
「両陛下がね。ラー・ティ・オーリの御視察の道中で予定が遅れてしまったらしくて、今朝、王都にご到着で、お休みになる時間を作るために少し延期する事になったみたいだよ。ブレナーが門の前で慌ただしく言ってた」
「…初めに理由を聞かなかったうかつな私が言える事ではないかもしれませんが、ブレナー様、お役目は大過なく果たされておいでなのでしょうか」
「どうだろう。少なくとも僕が屋敷を出る時には既にセスは出かけるところだったから、公爵家を回るといっていたブレナーは間に合ってないだろうね」
 式場に着いて開式が遅れる旨を伝えられ苛立つフランセスカの姿が目に浮かぶようだった。
 機嫌の悪いフランセスカをなだめる予行演習を頭の中でしながら、ミネルヴァはセフィルニムに手を取ってもらいながら馬車へ向かう。
「フランセスカから聞いていたけど、本当にミーナの騎士なんだね」
 先んじて馬車に乗り込むと、窓の外を示すセフィルニムと目が合った。指の先をたどると、イーグルが旋回していた。
「一緒に来てくれるみたいだ。心強いね」
「ええ」
 冗談めかしたわけでもなく、普通の事の様に言われて、ミネルヴァも素直に頷く。
「ニムが居てくれることも、心強く思っていてよ」
「本当? 嬉しいな」
 心底から頼もしく、セフィルニムにもイーグルにも守られていると思いながら、馬車に乗った。彼女は本当に安堵していた。全く緊張が無いなどということはないが、朝のような体をおかしくする程の緊張は無い。
(良かった。きっと乗り切れるわ。これが過ぎればグリッツ領に引きこもれるし…)
 彼女はもう卒院式への不安を乗り越え、その先を見据えていた。
 ミネルヴァは相変わらず閉じ篭っているが、なんとなく、分厚い殻に篭っていたはずのミネルヴァは薄い膜の中からそっとこちらを伺っているような、そんな気配を感じているのだ。王都に戻ってからは特に。フランセスカと笑っていた時なども、ミネルヴァも笑った、とそんな気がし続けていた。
(皆のお陰って、ひいてはミネルヴァの頑張りだけど。そういうのも含めて、私もちゃんとミネルヴァの力になれてるかしら………ねぇ? どう思う? 私、役に立ててる?)
 心でミネルヴァに問いかけつつ、笑顔でセフィルニムと談笑しながら馬車に揺られていたミネルヴァは、辿り着いた先で何が待っているのかを解っていなかった。予想もしていなかった。いや、予想のしようもなかった、が正解だろうか。
「エ………?」
 並んで中央の壇上に立つ王太子とリリィにフランセスカが相対して睨み合っている状況など。一体どんな事前情報があれば予想できたというのだろう。
(なにしてるの?)
 セフィルニムの腕に添えていた手でそっと服を引いて訴えると、困った様な、だが笑顔で首を傾げられる。
「少し早かったみたいだ」
 何が、とは訊き返せなかった。
 リリィの叫ぶような声が、
「これが証拠です!」
と、響いたからだ。
(え? 何の? っていうか、本当に、これ、どういう状況なの?)
 戸惑いで表情をなくすミネルヴァに、こんな時でも柔らかな笑顔のままでセフィルニムが移動を促す。中央で繰り広げられる騒動を避けるように、外側の廊下を回って移動しようと言うのだ。
「あっちはセスが担当だから、任せておけば大丈夫だよ」
 状況が飲み込めなさすぎて、小さく頷くことしかできなかった。先ほどの喧騒が嘘のように静まり返っている廊下を、セフィルニムと歩きながら、彼女はふと思いついた考えがある。
(もしかして、あれ、いわゆる断罪イベントなのでは………)
 大学生になってからはパソコンを使って、主にオンラインゲームでモンスターを狩っていた彼女は、古いタイプの乙女ゲームしか知らない。だが、ネット広告で気になって乙女ゲームに転生しましたという漫画は読んだことがあった。断罪イベントを数多くは知らないが、ミネルヴァが婚約破棄されたイベントとは別に、フランセスカという悪役令嬢に断罪イベントが降りかかっているのではないだろうか。
(いや、でも、フランセスカが何を断罪されるっていうの?)
 証拠という言葉が叫ばれていたのは言わば対立する側からだ。だが、ミネルヴァが知る限りフランセスカに断罪を受けるような所行はない。
(ニムも落ち着いてるし)
 態度や言葉から察するに、フランセスカもセフィルニムにとっても、先程の騒動は想定内の事であるようだ。もし、それが想定内の事であるのなら、断罪されるなどという事ではないだろう。
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