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第三章:そんなの聞いてないっ!
6.通い妻ミネルヴァ
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アンゼーナとフランセスカから、そして他の様々な会の場でも、リリィ・クシャ・ワンドについて話を聞いたミネルヴァは、ずっと考え続けている。
(んー…仮に私と同じように転生した人だとした場合、なんか変よね)
アンゼーナから聞いたセフィルニムに対する態度は、最大限の好意でもって解釈すれば、異文化圏の物慣れぬ少女がとった行動だと頷ける。ちゃんと周りが注意してあげなくてはいけないとは思うが、愛称で呼ばれた本人が怒らなかったのなら、特に責められるほどとは思えない。
だが、フランセスカから聞いた話には、ちらほら異文化圏というレベルでは看過できない話が混じっていた。
(でも…)
もし状況が自分と同じなら、きっと元々の人格があるはずではないだろうか。
(私も、やってきた事はほとんどミネルヴァという枠に入ってたはず)
仮に覚醒と共に元の記憶が無くなってしまったとしたら。その言動はこの世界で奇異に感じられてしまうのではないだろうか。そして、そんな人物を使節団に入れるものだろうか。
(考え難いわよね。使節団に選ばれた後で突然覚醒したのだとしても、あんまり常識外れな行動をとってたら体調不良とかを理由に国に帰らされるだろうし)
使節団の状況を聞く限り、リリィ・クシャ・ワンドは常識外れな行動を取ってしまうところがあるが愛されている人物のようなのだ。
(やっぱり、普通にこの世界の人なのかしら)
ヒロインが、常識という名の因習を打ち壊す行動を取る、というのは他所から見れば痛快で楽しいものだ。勿論、その打ち壊し方にも受け入れられるものと、無理なものはあるだろうが。某かの物語の主人公になるような人物は多かれ少なかれ常識外れに行動的で、そうでないと話にならない気はする。
(たぶん彼女はこの世界の人だった…)
そういう考え方に照らし合わせれば、リリィ・マリア・ネートは、紛れもなく物語の主人公だった。ただ、前世の記憶にあるような乙女ゲームのヒロインではなく。貧民街という底辺から成り上がった自分を、更なる高みにあげようとした成り上がり物語の主人公だったが。
ミネルヴァは一応裁判記録を全て読んでいる。リリィ・マリア・ネートという少女の来歴は異世界の存在を感じさせはしなかった。この世界にある薬物を使って王太子の判断を鈍らせ、玉の輿に乗る事を目指していただけだ。
(そもそもここは本当にゲームの世界なのかしら…?)
ゲームの中に隣の国など出てこない。
ヒロインが投獄される終わり方もなかった。
だいたいミネルヴァの人生は既にゲームを超えているのだ。
(現実よね。この世界に生まれてきたんだから。全部現実…私ちょっと物の考え方がおかしくなってるのかも。前世の記憶があるんだから特別って思い込み過ぎてる気がしてきたわ…こういう考え方、改めないと)
アンゼーナがあまりにも敵視していたので、真剣に考えてみたが。直接会ったこともない相手の為人には、どう頑張っても確信を持てない。
(会ったこともない人を噂で決め付けるのも良くないわよね)
その内王家主催の夜会あたりで会う機会も来るだろう。どんな人物かを探るのは、それからでも良いじゃないか。そう思い至ってミネルヴァは考えるのを止めた。別に、ギリットの家に着きそうだから考えるのを止めた訳ではない。
馬車を下りて通りを歩き、家の扉の前に着た所で、ミネルヴァは見知らぬ女性に声をかけられた。
「ああ、あんたがメイスさんの通い妻さん?」
「え?」
初耳である。
「あらぁ、やだよぉ…本当に可愛らしいんだねぇ」
「あの」
戸惑うミネルヴァを他所に、職人の妻といった風情の女性はぽんぽんぽんと言葉と荷物を渡してくる。
「あ、これ、メイスさんに渡しといてくれるかい? 家の棚直してもらっちゃってありがとねぇ。しっかし、あんた本当に美人だねぇ。メイスさんはさ、職人としちゃまだ名が通ってないけどね、ありゃ真面目ないい職人だよぉ。仕事だってね、その内増えるだろうし、あんたしっかり支えてやんなきゃだよっ!」
「え、はい、頑張ります」
「うんうん。それじゃあね、あたしも旦那のケツ蹴ってやんなきゃだから」
「あ、はい」
(支えるのではなく…?)
温かさと優しさが有るが遠慮の無いパワーを久しぶりに浴びたミネルヴァは、しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。
(はっ、いけない。親戚のおばちゃんの事とか思い出してる場合じゃないわ)
とにかくギリットの家に入ろうとして、両手が塞がっている自分に気付く。野菜が入っている籠を下に置こうか、声を張り上げようか、少しの間悩んでいると、扉は中から開いた。
「ミーナ、どうしたんだ? 顔が…」
「今ここでお野菜を頂いたの! リットに家の棚を直してもらったって、仰ってたわ!」
「ああ、角のランダさんかな」
「そうなのね」
自分がギリットの通い妻と認識されている事に真っ赤になっていたとは、なんだか恥ずかしくて、知られたくなかった。
(というか、これは、リットも知ってるのかしら…私リットのご近所さんからそういう認識なの?)
この後、嬉しいけれど恥ずかしい思いで抱えた籠の野菜を見ていたミネルヴァは、スープを作る、と言い出してギリットを驚かせる。
(んー…仮に私と同じように転生した人だとした場合、なんか変よね)
アンゼーナから聞いたセフィルニムに対する態度は、最大限の好意でもって解釈すれば、異文化圏の物慣れぬ少女がとった行動だと頷ける。ちゃんと周りが注意してあげなくてはいけないとは思うが、愛称で呼ばれた本人が怒らなかったのなら、特に責められるほどとは思えない。
だが、フランセスカから聞いた話には、ちらほら異文化圏というレベルでは看過できない話が混じっていた。
(でも…)
もし状況が自分と同じなら、きっと元々の人格があるはずではないだろうか。
(私も、やってきた事はほとんどミネルヴァという枠に入ってたはず)
仮に覚醒と共に元の記憶が無くなってしまったとしたら。その言動はこの世界で奇異に感じられてしまうのではないだろうか。そして、そんな人物を使節団に入れるものだろうか。
(考え難いわよね。使節団に選ばれた後で突然覚醒したのだとしても、あんまり常識外れな行動をとってたら体調不良とかを理由に国に帰らされるだろうし)
使節団の状況を聞く限り、リリィ・クシャ・ワンドは常識外れな行動を取ってしまうところがあるが愛されている人物のようなのだ。
(やっぱり、普通にこの世界の人なのかしら)
ヒロインが、常識という名の因習を打ち壊す行動を取る、というのは他所から見れば痛快で楽しいものだ。勿論、その打ち壊し方にも受け入れられるものと、無理なものはあるだろうが。某かの物語の主人公になるような人物は多かれ少なかれ常識外れに行動的で、そうでないと話にならない気はする。
(たぶん彼女はこの世界の人だった…)
そういう考え方に照らし合わせれば、リリィ・マリア・ネートは、紛れもなく物語の主人公だった。ただ、前世の記憶にあるような乙女ゲームのヒロインではなく。貧民街という底辺から成り上がった自分を、更なる高みにあげようとした成り上がり物語の主人公だったが。
ミネルヴァは一応裁判記録を全て読んでいる。リリィ・マリア・ネートという少女の来歴は異世界の存在を感じさせはしなかった。この世界にある薬物を使って王太子の判断を鈍らせ、玉の輿に乗る事を目指していただけだ。
(そもそもここは本当にゲームの世界なのかしら…?)
ゲームの中に隣の国など出てこない。
ヒロインが投獄される終わり方もなかった。
だいたいミネルヴァの人生は既にゲームを超えているのだ。
(現実よね。この世界に生まれてきたんだから。全部現実…私ちょっと物の考え方がおかしくなってるのかも。前世の記憶があるんだから特別って思い込み過ぎてる気がしてきたわ…こういう考え方、改めないと)
アンゼーナがあまりにも敵視していたので、真剣に考えてみたが。直接会ったこともない相手の為人には、どう頑張っても確信を持てない。
(会ったこともない人を噂で決め付けるのも良くないわよね)
その内王家主催の夜会あたりで会う機会も来るだろう。どんな人物かを探るのは、それからでも良いじゃないか。そう思い至ってミネルヴァは考えるのを止めた。別に、ギリットの家に着きそうだから考えるのを止めた訳ではない。
馬車を下りて通りを歩き、家の扉の前に着た所で、ミネルヴァは見知らぬ女性に声をかけられた。
「ああ、あんたがメイスさんの通い妻さん?」
「え?」
初耳である。
「あらぁ、やだよぉ…本当に可愛らしいんだねぇ」
「あの」
戸惑うミネルヴァを他所に、職人の妻といった風情の女性はぽんぽんぽんと言葉と荷物を渡してくる。
「あ、これ、メイスさんに渡しといてくれるかい? 家の棚直してもらっちゃってありがとねぇ。しっかし、あんた本当に美人だねぇ。メイスさんはさ、職人としちゃまだ名が通ってないけどね、ありゃ真面目ないい職人だよぉ。仕事だってね、その内増えるだろうし、あんたしっかり支えてやんなきゃだよっ!」
「え、はい、頑張ります」
「うんうん。それじゃあね、あたしも旦那のケツ蹴ってやんなきゃだから」
「あ、はい」
(支えるのではなく…?)
温かさと優しさが有るが遠慮の無いパワーを久しぶりに浴びたミネルヴァは、しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。
(はっ、いけない。親戚のおばちゃんの事とか思い出してる場合じゃないわ)
とにかくギリットの家に入ろうとして、両手が塞がっている自分に気付く。野菜が入っている籠を下に置こうか、声を張り上げようか、少しの間悩んでいると、扉は中から開いた。
「ミーナ、どうしたんだ? 顔が…」
「今ここでお野菜を頂いたの! リットに家の棚を直してもらったって、仰ってたわ!」
「ああ、角のランダさんかな」
「そうなのね」
自分がギリットの通い妻と認識されている事に真っ赤になっていたとは、なんだか恥ずかしくて、知られたくなかった。
(というか、これは、リットも知ってるのかしら…私リットのご近所さんからそういう認識なの?)
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