悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第三章:そんなの聞いてないっ!

8.困惑

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(無理だろうな、とは思ってたけど…)
 まさか談話室で二人きりになるとは思わなかった。
 王家主催の夜会だった。ミネルヴァは未だに少し気まずそうな顔をするフローティアに挨拶をして、そっと知り合いがいないか会場を歩いていた。そして、リリィ・クシャ・ワンドに腕を取られて、お話があるのですと談話室へ連れてこられ、二人きりになったというわけだ。
 関わらないようにして欲しいというギリットからの要請をわずか三日後に破ってしまい、どうしたものかと心中で首を捻る。
「ミネルヴァ様ですよね!」
 思い悩むミネルヴァを他所に、リリィ・クシャ・ワンドは晴れやかな笑顔だ。
 誰か共通の知人を間に挟んだ訳でもない状況で、突然自分の名乗りもせずに相手の名前を確認してくる非常識さは、果たして可愛い笑顔だな、と見逃して良いものだろうか。いや、良くないだろう、本人のためにも周りのためにも。今まで誰も注意してないのだろうか、同じ事を何度かしたと噂に聞いているが。
「貴方は?」
 少し嫌味っぽいかなとは思ったが、ミネルヴァは肯きもせずに問い返す事にした。
「あ、スミマセン。ワタシ、リリィ・クシャ・ワンドって言います。自分からまず名乗りなさいって、言われてるんですけど、つい気持ちが逸っちゃって、失礼しました」
 ぺこりとお辞儀をして謝ってくる。やはり注意は受けていたらしい。
「ミネルヴァ・アイネ・グリッツです。初めまして」
 素直に謝ってくれたし、それがあざとくも見えない。単純に幼さ故に行動が思考より前に行ってしまいがちなだけではないだろうか。
(普通に可愛らしい女の子よね?)
 ミネルヴァが内心ですこし天然なのかもしれないが、変ではないかな、と結論づけようとした時。
「ワタシ、1stはがぜんミネルヴァ様推しだったんです! だから、王太子様との仲、本気で応援してますから!」
「え?」
 異常事態だ。到底聞き流せる範疇に無い。だが、ミネルヴァが咄嗟に言葉が出てこずに戸惑う間も楽しそうなリリィ・クシャ・ワンドの言葉は続く。
「だって、1主って茶髪で緑の目で、なんか画面が地味っていうか。金髪碧眼の王子様の横には金髪碧眼のミネルヴァ様が絶対お似合いですもん。ワタシ、スチルも正規結婚ルートが一番好きだったんです。あ、王太子様が病気療養中だっていうのは、聞いてます。でも、本当に流石です。1stの最難関ルートだって言われてるミネルヴァ様はもう安定っていうか、1主って、王太子様ルート失敗して処刑エンドだったんですよね? ミネルヴァ様からしたら婚約者が病気療養中って、ご不安な事もあると思いますけど。ワタシ本気で応援してますから!」
「ごめんなさい。貴方が何を言ってるのか解らないんですが」
 少し考える時間をください、というつもりでミネルヴァはそう言ったのだが、リリィ・クシャ・ワンドはそう受け取ってはくれなかった。
「あ、そうですよね、意味解んないですよね。でも、気にしないで下さい。ワタシ、ミネルヴァ様と王太子様の仲を応援してますって、それが言いたかっただけなのでっ!」
 だから、それの意味が解らないのだ、と言いたくてもミネルヴァは上手く言葉を見つけられない。しかも、言いたい事を言い切ったリリィ・クシャ・ワンドは駆け足で部屋を飛び出して行った。慌てて後を追うように部屋を飛び出したが、そこにはもうその姿はなく。大声を上げれば衆目を集めてしまうと解るだけに叫ぶ事も出来なかった。
(待って、もう、全然意味の解らない事しか解らないわ)
 とにかくもう一度リリィ・クシャ・ワンドを探して話し合わなくては、とミネルヴァは会場へ足を踏み出す。だが、結局彼女を見つけることはできず。フランセスカとアンゼーナに合流できただけだった。
「ミーナ!」
「大丈夫?!」
 合流というか、確保に近かったが。
「どうされました?」
「貴方があの女に引っ張られていくのを見たって知らせが入ったのよ!」
「無事のようですわね…」
「リリィ・クシャ・ワンド様とは、少しお話をしただけです。それに、確かに少し非常識な方だとは思いましたが、悪い方ではないようでした」
 心配されているのが解ったので、変にリリィ・クシャ・ワンドを探してると言ったらまた悪印象を与える気がして、ミネルヴァは大人しくフォローに回った。本当はそのリリィ・クシャ・ワンドは何処に居ますかと訊いて回りたいところだが。
「良い方でも悪い方でも関係ないわよ非常識なのは迷惑だわ。まぁ、ミネルヴァが無事ならそれで良いのだけど…何か変な事を言われなかった?」
 アンゼーナの言葉にぎくりとしてしまう。
「変な事?」
「リテルタには婚約破棄の事って、クーの病気療養のためって伝え方になってるんだけど…なんか、あの子、ミネルヴァとクーほどお似合いの二人はいない、みたいな事を言い回ってるようなの。そもそもなんの関係も無いのに、なんだってそんな事を吹聴して回ってるのかは解らないんだけど」
 なんて事をしてるんだ、と思うが、アンゼーナと少々苛立っているフランセスカを前に不用意な発言はできない。
「そう、なのですか?」
「わたくしはミーナに対して害意があるのだと思いましたわ」
「そんな事は」
「ミーナの婚約者はイーグル次子爵ですわ。それが公的に正しい事実です。なのに先のような噂を言い散らすのは害意有っての事だと考えるのが妥当ではありませんこと?」
 困惑しつつもミネルヴァはひとまずひたすら二人を宥める事に終始し、結局この夜会の間にリリィ・クシャ・ワンドに再会する事は適わなかった。
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