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第二話 御影家には秘密がありました
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縁側の戸を閉めていると、夜空にちらちらと白い粉雪が舞っていた。
「寒いと思ったら……。誠さんは大丈夫かしら」
いまだ帰宅しない誠さんを案じながら戸を閉めると、廊下の奥で足音がする。
誠さんかしら?とそちらへ足を進めると、まばゆい金髪が目に飛び込んでくる。
「あ、春樹さん」
「あー、まただ。兄貴と間違えたんだろ。兄貴、まだ戻らねぇの?」
軽快な足取りで春樹さんは私の方へやってくる。
「はい。今夜、夏乃さんのことが解決するかもっておっしゃっていたので、何かお調べになっているんだと思います」
「ふーん。千鶴ちゃんも心配だよな。まあ、心配したって兄貴が探偵やめるわけじゃないだろうけどさ。それよりさ、千鶴ちゃん、体調はいいわけ?」
春樹さんの視線が私のお腹に下がる。
私も帯の上からお腹に手を当てる。時折トクトクと音がするけれど、前のように具合が悪くなることはない。
「私、思うんです」
「何を?」
「夏乃さん、お腹の中に赤ちゃんがいたんじゃないかって思うんです」
「は、マジ?」
春樹さんにとっては思いがけない話だったのか、ひどく驚いている。
「そう感じるだけなんですけど、きっとそうだろうって思って。でも……」
「何か気がかり?」
「誠さんは夏乃さんの死の理由を調べてるっておっしゃってました。自殺の可能性が高い、とも話してくれたんですが……、お腹の中に赤ちゃんがいるような方が自殺なんてするんでしょうか」
「それじゃあ兄貴が嘘をついてるって?」
そうなのだろうか、と首をかしげる。
「もしかしたら私を安心させるためにそうおっしゃったのかもしれません。藤沢さんが夏乃さんを殺したなんて、秋帆さんが言っていましたから」
「へえー。藤沢ってこの間来た、おどおどしたやつだろ? あいつがねー」
「春樹さんはどう思いますか?」
「俺? 俺は何も思わねぇよ。関係ないしさ。兄貴だって千鶴ちゃんの体心配して調べてるだけだろ? 別に池上家の中のことなんて誰も知りたくないさ」
春樹さんは肩をすくめると、お風呂に入ると言って立ち去ろうとする。
「なあ、千鶴よ」
「え?」
突然後ろから七二郎さんに声をかけられて驚くと、春樹さんが不思議そうに振り返る。七二郎さんの姿は見えないのだろう。眉をひそめて奇妙なものを見る目で私を見る。
「千鶴よ、はやく城へ行こう。ことが必ず待っておる」
「でもまだ誠さんがお帰りになってなくて」
「そんなことは知らぬ」
ぷいっと顔を背けてすねる七二郎さんは、春樹さんの方へ向かって歩いていく。
「千鶴ちゃん、大丈夫か?」
ようやく声をかけてきた春樹さんの横を素通りしていく七二郎さんを私はあわてて追いかける。
「すみません、春樹さん。誠さんが帰られたら私は黒石城へ向かったと伝えてください」
「えっ! こんな時間に出かけるのかよ。兄貴に叱られるぜ」
「あっ、でももう」
話しているうちに七二郎さんの背中は玄関の方へ消えていく。
「じゃあ本当に行きますから。お願いします」
ぺこりと頭を下げた私はすぐさま玄関へ向かって走り出した。
縁側の戸を閉めていると、夜空にちらちらと白い粉雪が舞っていた。
「寒いと思ったら……。誠さんは大丈夫かしら」
いまだ帰宅しない誠さんを案じながら戸を閉めると、廊下の奥で足音がする。
誠さんかしら?とそちらへ足を進めると、まばゆい金髪が目に飛び込んでくる。
「あ、春樹さん」
「あー、まただ。兄貴と間違えたんだろ。兄貴、まだ戻らねぇの?」
軽快な足取りで春樹さんは私の方へやってくる。
「はい。今夜、夏乃さんのことが解決するかもっておっしゃっていたので、何かお調べになっているんだと思います」
「ふーん。千鶴ちゃんも心配だよな。まあ、心配したって兄貴が探偵やめるわけじゃないだろうけどさ。それよりさ、千鶴ちゃん、体調はいいわけ?」
春樹さんの視線が私のお腹に下がる。
私も帯の上からお腹に手を当てる。時折トクトクと音がするけれど、前のように具合が悪くなることはない。
「私、思うんです」
「何を?」
「夏乃さん、お腹の中に赤ちゃんがいたんじゃないかって思うんです」
「は、マジ?」
春樹さんにとっては思いがけない話だったのか、ひどく驚いている。
「そう感じるだけなんですけど、きっとそうだろうって思って。でも……」
「何か気がかり?」
「誠さんは夏乃さんの死の理由を調べてるっておっしゃってました。自殺の可能性が高い、とも話してくれたんですが……、お腹の中に赤ちゃんがいるような方が自殺なんてするんでしょうか」
「それじゃあ兄貴が嘘をついてるって?」
そうなのだろうか、と首をかしげる。
「もしかしたら私を安心させるためにそうおっしゃったのかもしれません。藤沢さんが夏乃さんを殺したなんて、秋帆さんが言っていましたから」
「へえー。藤沢ってこの間来た、おどおどしたやつだろ? あいつがねー」
「春樹さんはどう思いますか?」
「俺? 俺は何も思わねぇよ。関係ないしさ。兄貴だって千鶴ちゃんの体心配して調べてるだけだろ? 別に池上家の中のことなんて誰も知りたくないさ」
春樹さんは肩をすくめると、お風呂に入ると言って立ち去ろうとする。
「なあ、千鶴よ」
「え?」
突然後ろから七二郎さんに声をかけられて驚くと、春樹さんが不思議そうに振り返る。七二郎さんの姿は見えないのだろう。眉をひそめて奇妙なものを見る目で私を見る。
「千鶴よ、はやく城へ行こう。ことが必ず待っておる」
「でもまだ誠さんがお帰りになってなくて」
「そんなことは知らぬ」
ぷいっと顔を背けてすねる七二郎さんは、春樹さんの方へ向かって歩いていく。
「千鶴ちゃん、大丈夫か?」
ようやく声をかけてきた春樹さんの横を素通りしていく七二郎さんを私はあわてて追いかける。
「すみません、春樹さん。誠さんが帰られたら私は黒石城へ向かったと伝えてください」
「えっ! こんな時間に出かけるのかよ。兄貴に叱られるぜ」
「あっ、でももう」
話しているうちに七二郎さんの背中は玄関の方へ消えていく。
「じゃあ本当に行きますから。お願いします」
ぺこりと頭を下げた私はすぐさま玄関へ向かって走り出した。
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