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第13話 光の扉

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 焦った陽介は、とたんに手を引っ込める。
 なんなくワームホールから抜け出した手のひらは、しっかりと手首と繋がっていた。
 指も動く。機能にも問題はない。
 
 夢ではない。であるとすれば、これは……見当もつかない。
 
 陽介は、微風とおそろしいまでに鮮やかな光に吹かれながら、呆然と突っ立った。
 
 この世のものではない、超自然的な現象に遭遇している。
 それだけは、辛うじて理解することができた。
 
 すると、『裂け目』の様子が変わった。
 
 周囲の光の繭が、薄く平らに伸びて、紫のワームホールを包み込むと、グシャッと新聞紙を丸めるみたいに、『裂け目』は小さく折りたたまれてしまった。
 
 ……蛹だ。陽介は悟った。
 『裂け目』の姿形は、発達の未熟な幼虫に過ぎなかったのだ。
 そして今、『裂け目』は蛹のように身を縮こませ、目まぐるしい速度で真の姿、蝶へと変貌を遂げようとしているのだ。
 
 陽介には、どこか嫌な予感があった。
 ここは危険だ。変態が完了する前に、早く逃げろ。本能がそう叫ぶ。
 
 だが、足が動かない。体が凍り付いてしまったみたいに、微動だにできない。
 絹の繭が発する神秘的な光に魅入られて、俺は、その場から離れることができなかった。
 
 ついに、蛹がその姿を変えた。
 天使が翼を広げるかのごとく、白の腕が二本、バサッと横に伸びると、太古の昔から定められていたといわんばかりに自然な動作で、『扉』の輪郭を作り上げた。
 
 球体状に丸まった光が、薄く伸展してゆき、やがて『扉』の輪郭の内側を白で覆い尽くす。
 
 もはやそこに『裂け目』の面影はない。
 あるのは、ミルクを固めて作ったみたいな、白色に発光する不気味で大きな扉。
 
 やがて、扉表面に、奇妙な紋様が浮かび上がってきた。
 グチャっとした複雑な紋様。
 天使と悪魔がせめぎ合い、耳の長い手足の生えた異形たちが、それを遠巻きに眺めている。
 
 ようやく眼前の扉は、変態を完了させたらしかった。

 ドンと兄の部屋の中央に鎮座する、『光の扉』。
 
 昼ともつかぬ夜ともつかぬ薄闇の中で、『光の扉』だけが、ぼんやりと怪し気に光っていた。
 
 扉の先に続くのは、天国か、それとも地獄か。
 
 陽介は、扉を開けてみたい衝動に駆られた。
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