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43話 俺、家族に頼る

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 さっきまで「お姉ちゃんカッコいい?」なんてこと言って自慢気にしてたのに、都合が悪くなったらすぐこれだ。
 責任を全部俺に押し付けたわけだ。

「で、ネオはどう考えてるの?」

 そんな学園長の言葉に俺は一瞬身体がビクンッとなった。こう言うのもなんだが、俺は魔族をある意味頼りにしていた。変な契約を交わされるまでは。



 んな感じの出来事があったわけだけど、結局俺は魔族には頼らず姉ちゃんと二人でデンゼル平原に向かっていた。
 姉ちゃんがカッコつけたいがための宣戦布告は阻止し、結論としては俺が魔族の王――所謂、魔王であるならば民を巻き込まず、この争いを掌握せよといったわけのわからないことをあのおっさんリグルドの案で話がまとまった。

 ほんとご都合主義だ。
 それにあいつらにとっては得する話だけど、俺にとってはまだ何一つも解決すらしてないから得もクソもない。
 
「姉ちゃん二人で乗り込むってマジ?」
「マジマジ!」
「先が思いやられる。ほんとに大丈夫なのか?」
「どうかな、お姉ちゃんもわからない」
「今、思ったけどこれって契約した意味なかったんじゃ」
「そんなことないよ。もうネオ君は魔王なの自覚しなきゃ。それにお姉ちゃんの旦那様なのよ。魔族のみんなに認めてもらうためにも、これから頑張らないといけないんだから」
「はい、俺の将来絶望しかない模様」

 なんて話してるけど、今、絶賛全力疾走中です。かれこれ数10分は走り続けてるが、一向にデンゼル平原が見えてこない。

 どうなってる……あ、そうだった。
 俺と姉ちゃん魔国にきたから近くにデンゼル平原があるわけがない。失態だ、これはもう俺もボケが始まっているのか。

 少しばかり自分に不安になりながらも、姉ちゃんにその旨を伝えると、そうだったと納得している表情を浮かべていた。
 そりゃ一向に見えてこないはずだよ。
 ここから走り続けても、およそ二週間かそこらは掛かる距離だぞ。

「だったら今すぐお姉ちゃんの手を握って」
「あ、ああ……」

 俺が姉ちゃんの手を握ると、白い光に包み込まれた。あまりの眩しさに目を瞑る。すると若々しい野郎どもの怒声や鼓舞が聞こえてきたのだ。

 そっと目を開けると、砂埃が舞って視界が悪い中ではあるが、ぐっと目を凝らしてみると剣や槍で鎧を着た兵と兵がぶつかり合う姿が見える。
 すでに数え切れないほどの人が血を流し、地面に倒れ込んでいる。ケガを負ってその場を動けない者はトドメを刺され、背を向け逃げる者も殺される。

 そんな光景を見て俺は察した。
 ここはデンゼル平原で起こっている両国の争いのど真ん中だと。

「おい姉ちゃん。とんでもないことになってるぞ」
「う、うん……ここ戦場のど真ん中だね。やっちゃった」
「『やっちゃった』じゃねぇし! もう少し順序というものがあるだろ! 戦場の近くに転移するとか」
「仕方ないでしょ。だってネオ君急いでるっぽかったから」
「まあ、それはそうだけど。こんな戦場で普通二人で乗り込むか?」
「乗り込むよ。だってお姉ちゃん過去に――」
「はいはーい、悪魔と人を一緒にしないでください。俺にはそんなポテンシャルはないんです」

 まるで夫婦喧嘩。赤の他人から見たらそう思われるだろう。けど、これが日常であり、俺と姉ちゃんにとっては大切な行動の一つ。
 しかしそんな話をしている最中に無粋にも水を差す輩が現れた。

「おい貴様、ここは戦場。くっちゃべる場所じゃねぇんだよ!」

 一人の兵士が俺に剣を振り下ろす。
 だが、その前に兵士の姿は灰と化し、砂埃と一緒に風に流された。

「姉ちゃんその力ほんと化け物だな」
「お姉ちゃんを化け物って言わないで」
「だってその力を使えば誰でも灰にすることできるんだろ?」
「できなくはないけど……魔力量が多い人にはちょっと無理かな」
「へぇ~意外な弱点発見」
「あ、あわわま、まさか……ネオ君はお姉ちゃんを」
「ないない。俺には姉ちゃんしかいないから」

 その言葉を聞いて安心したのか、姉ちゃんは大きく息を吸って吐いた。
 でもこのまま戦場のど真ん中にいても、何の進展もないまま命を狙われるだけになってしまう。

 仕方ないか、まずは姉貴とユリアナと合流するか。

 殲滅剣はあえて使わず、そこらに無惨に放置されていた血が付着した剣を片手に俺は阻む者を斬りながら進み続けた。てっきり殲滅剣を持っている時だけ最強系主人公になる、そんな体質だと思ってたのに実際はこの有り様だ。
 相手の剣を受け流すのは至難の業ともいうけど、今の俺では決してそんなことはなく、す~いすいと軽く淡々と弾き返している。

 でも姉ちゃんは不思議なんだよな。
 俺の後ろでさっきからにこにこしているだけだし、近づく相手を指パッチンで灰にしちゃうもんだから、もう誰も近づいてこない。
 それに暇そうに何やら一人ぶつぶつ言ってるけど、こんな戦場で野郎どもの雄叫びが飛び交っているから聞き取れない。

「なあ、姉ちゃん。俺たちどこに向かえば?」
「ユリアナちゃんの魔力を感じるのは……うーんとね、ここから東に少し行った場所かな」

 姉ちゃんがどうやって魔力を感知したのかはわからない。けど、これも悪魔の固有能力なのだと自分の中では納得している。
 だって結局それを突き止めたとして、俺に何の特がある? その能力が使えるようになるわけでもあるまいし。

 東に向かって進んではいるけど、なかなか姿が見当たらない。
 こんなに大勢がいるとそりゃそうかもしれないが……。

「セレシアさんお頼みします」
「ええ、ユリアナ様も」

 ああ、この声は間違いない姉貴とユリアナだ。

 俺は剣を片手に二人を背後から襲おうとしている兵の首を飛ばした。頭が宙を舞う。不思議なもので目はキョロキョロと動いているようだ。
 どうやら死んだことにまだ気づいていないらしい。

「やっと合流できたな」
「ネオ遅かったわね。で、もちろん作戦通りに!」
「ちょっと、いや、かなりわけがあって無理というか時間がありませんでした。申しわけありません」

 深く頭を下げると、ユリアナは腕を組んで会長だったあの頃のように俺を見下した……かと思えば、ユリアナも姉貴も頭を下げたのだ。

「えっとわたしもちょっと……」
「マジか……」
「マジよ……」
「俺たち、終わったな」
「終わったわね。もう運に任せるしか」

 その時だった。
 戦場で激しくぶつかり合う力を感じたのは。
 その二人の剣戟で突風が巻き起こり、大地はひび割れる。転移者と転移者の殺し合いか、とも思えたが片方はイザベル教団の信者の一人だった。

 あの教会に俺達を連れてくるだけ連れてきて、空気が悪くなったら早々に立ち去ったあの男だ。
 もう名前は覚えていない。っていうか名前教えてもらったっけ? それすら疑問だ。

 だがしかしあの勇者転移者らしき男とよく渡り合っているなと感心して見ていると、二人の男女が俺たちの元に駆け寄ってきた。

「皆、無事か?」
「こんなとこで会うなんて奇遇ね」

 父さんと母さんだった。
 これは奇遇ではない、二人をこの戦場から逃がすため俺たちが助けにきたのだ。

「あらセレシアまで……よかったわ。もう本当に心配したのよ」
「母上すみません。私が勝手に屋敷を飛び出してしまったからに」
「でもよかったわ。無事に姉弟で再開ができて」
「ええ、わたしも嬉しいです」

 さて父さんと母さんは見つかった。
 あとはサラだけだ。
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