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冒険者編
第10話 掃除用具に近くて遠い
しおりを挟む「ふんふふーん」
私は入手したそれを腕に抱えて街を歩く。
周囲の視線は気になるところだけど、目立つならそれはそれでいい。
私の気分はうなぎのぼり鯉のぼり。
屋根まで登れる。
「箒とか絶対使えねぇだろ……」
──そう、物理で。
私は両手で箒を握り締めてライアーを見た。
この箒は月組で貰った箒。魔法少女に箒、なんて如何にもファンタジーな組み合わせ、私が選ばないわけが無い。
これも月組のマルスさんという人が魔改造を施した、一応杖というわけだ。
張本人曰く『風と水の魔石を埋め込んであるから、掃いて良し、水拭きしても良し。ただし威力良すぎて塵も水も汚れもそこらに飛び散る』
掃除用具としてはあまりにも致命的。何故掃除用具を魔改造しようと思ったのか小一時間詰め寄りたい所。知ってる? これ武器なんだよ。
あ、ちなみに月組からは速攻で追い出された。
グレンさんが『厄介事が帰ってくる前に早く逃げろ!』って言ってた。月組は頼るべきところじゃないと確信した瞬間だね。なんで平和な街中で逃げなきゃなんないのか問いただしたい。
「あ……」
「どうした?」
街を歩いていると鍛冶屋のマークが付いているのに可愛らしい服が置いてある店が見えた。
店構えを観察しているとライアーはふぅんと興味無さそうに視線を戻す。
「あちらなる店、ご存知?」
「いや。知らん。……つーか俺、お前には言ってなかったがこの街に流れ着いて1年も経ってねぇからな?」
「え、そうなのです?」
びっくり。
あ、でも出身なら拠点くらいあるか。今、宿暮らしだもんね。てっきり借金取りに追われて夜逃げしたからだと。
じとーっと見られたので顔を背ける。おかしいな、そんなに顔に出してるつもりはないんだけど。
「……。まぁ、俺帰るわ」
「はぁい」
私を見下ろしてそう言ったライアーは踵を返す。
今視線、髪の毛にあった?
ツインテールに結んだ金髪を掴む。
よく考えたら髪質が確実にケアしてる人のそれ。あー、やばいな。身分がバレ……。バレ?
「バレぬですよね、絶対」
私はそう確信して店の扉を開けた。
「こんにち……──」
「──お願いします、お父さんを探してください!」
厄介事の気配を察知ッッッ!
==========
「あー、あぶね」
リィンの視線から外れた瞬間全力でダッシュしたライアーはもう店が見えない位置に移動し、フゥと息を吐き出した。
ライアーが猛ダッシュした理由。
「アイツ、嫌いなんだよな」
──店主のことが超絶苦手だということだ……!
「自然だったよな。うんうん、アイツに違和感を抱かせることなく離脱できた」
別にライアーとリィンはコンビを組んでいるわけじゃない。組んでいるわけじゃないから見捨ててもいいわけだ。
倫理的にそれはありなのかと言われるとありよりのなしだが、ここは異世界なので別にいいのだった。リィンがこれを知って怒り散らすかは別として。
ライアーは『申し訳ねぇな(スッキリした顔)』と心の中で思いながら行き着いた先の店を見た。
「あ……」
本日リィンが駄々を捏ねくり回していたお高い店だ。
相変わらず服とは思えない金額の商品が立ち並ぶ。
ただのオシャレなマントにしか見えない服が金貨5枚もすれば、ズボンだけで8枚する服もある。心の中の文法は投げ捨てられた。
リィンを生贄……もとい犠牲にしてしまったライアーは考えた。
『ライアー! どうしてあの店入るの止めてくれなかったんですか!』
『いや俺知らねぇって言ったろ』
『ダウト! 店の人がおっさんを知ってるって言ってました!』
『く、バレたか』
『こうなったら……。警備の人にライアーから暴行を受けましたって泣きながら抱きついてやる!』
やりそうだ。
いや、短い付き合いでもわかる。あいつはやる。絶対やる。
想像の中のアイツは何様だ?
ライアーは考えた。残念ながら真実は貴族様なのである。転生前の性根すら腐っていたのかもしれない。
ライアーは知らんぷりをするのが悪手だと気付いたので打開策を考える。もちろん知っていると言い巻き込まれるのはたまったもんじゃないが。
「待てよ」
ふと思い浮かぶ。
『嘘ついて悪かったな』
『許しません!』
『嘘ついてでもお前と別行動したかったんだよ。ホラ』
『こ、これはなんかオシャレな髪飾り!』
『折角綺麗な金髪なのに何も飾りっけないのは勿体ないだろ』
『ライアー……!』
『はははよせ。俺に惚れたら火傷じゃ済まねぇぞ……』
完璧である。
リィンの不思議語の再現は完璧ではないのだが言語としてはこれが完璧なのである。
完全勝利のファンファーレがライアーの脳裏に鳴り響く。
ちなみにこの手口は贔屓にしているお姉ちゃん(複数掛け持ち)に使う技と同じである。モテる男は辛いのだ。こうして金はなくなっていく。
宿は一緒で部屋も隣なのだし、今後関わらないということはまず有り得ない。高望みしても無理みが強い。
それならば面倒なことは極力避けるべきだ。それに使わなかったらどっかの姉ちゃんにあげればいい。完璧である。
そうしてライアーは優れた頭で考え出した策を実行し、その手にはお高い店で金貨1枚使い入手したアクセサリーがあった。
「おっ、ラグレイト!」
「…………げぇ」
確実にライアーを指差しながら、ライアーとは似ても似つかぬ名前で呼ばれた。1文字しか合ってない。
厄介事の気配を感知──!
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