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冒険者編
第9話 月組
しおりを挟むクラン月組……じゃない。ザ・ムーンは冒険者ギルドの傍にあった。
「ほえ……」
見上げる扉。
建物はそこまで派手じゃないしこじんまりとした感じだけど、ザ・ムーンと書かれた看板が如何にも冒険者ですと言った雰囲気を醸し出している。
ファンタジーだ。
「あ、ライアーは帰っていいぜ」
「は?」
「別にコンビってわけじゃないんだろ?」
オレゴさんが扉を開けかけた状態でおっさんに向けてそう言い放った。
ただ道案内に使ってただけだし。
「良きですよ。ここからは月組に頼む故に」
昨日も昨日で色々迷惑かけたしな。
ライアーはよく面倒くさがらず説明してくれてたから、質問しやすかったけど。所詮そこまで。
クランという大人数の集まりを見つけたのだからパーティも組みやすくて……。
「──断る」
予想外の返事に目を見開く。
「リィン」
「えっ、なにです」
名前を呼ばれて思わずドキリと心臓が跳ねる。
その真剣な表情に何故か焦りが生まれた。
「単独行動したら多分俺だけ月組に巻き込まれる。巻き込まれるならお前も道連れだ」
??????????
「賢明な判断だと思うぜライアー……」
「どういうことぞ???」
オレゴさんですらゴクリと真剣な表情をしていた。えっ、私だけ通じてない隠語? 何事?
「多分お前がいたら防波堤になると思う。ここで単独行動するのは確実に悪手だ」
がしりと肩を掴まれた。
胸に湧いてくる嫌な予感。どうしよう。
この街唯一のクラン。唯一である理由は月組に問題があるからの様な予感がする。(正解)
私本当にこのクランに頼っていいのかな。
性格悪くて利用出来るものなんでも利用しちゃうドクズとか出てきたらどうしようっ!
「そんじゃリィンちゃん。どうぞ、ようこそ俺たちのクランへ」
扉を開けるオレゴさん。
「おお……!」
思わず歓声を上げる。
開いた先はロビーの様な空間。ソファや椅子が置いてあったり、隅には荷物が置けるスペースもある。奥に見えるのはキッチンだろうか。自炊も出来るだなんて。
武器がコロコロ置かれてある感じを見ると、ファンタジー! って感じがする。いいなぁ、拠点。
「オレゴおかえ…………!???!??? 天使がいる!?」
「は? お前何を言っピーーーーーー!」
「お前らうるせぇえ! は? 俺たちのクランにかわいいおんにゃのこ? はああああああ!? 俺もうるせぇ!」
感動を打ち消す阿鼻叫喚。
なんだこれ。
「こいつら相変わらず感情が激しいな」
ライアーのボソリと呟く声に納得するような。納得しちゃいけないような。
あと感情が激しいってパワーワードに妙な説得力上乗せさせる顔をやめて欲しい。
なんで街の外ですら見られなかった真剣な表情をここでするんだ。
「グレンいるー?」
「えーっと、リックとリアンとニコラスとあとレオン! アイツらと一緒に狩りだからもう少しかかるかもー」
吹き抜けになった2階から柵に体を預け誰かがそう告げる。
リックって名前は聞いたことある。確か1度遠目で出会った人だ。
「パパとママも一緒か。なら少し奥まで行ってんな」
??????????
確実によく分からん情報を詰め込んでくるのやめて欲しい。
「よく分からねぇだろ」
隣のライアーがゴクリと真剣な表情で凄む。
「この街の人間、例えリリーフィアちゃんだとしても月組はよく分かってねぇんだ……」
「ひえ……」
あのエルフのお姉さんですら分かってない組織を良くもまぁギルドの近くに置こうと思ったよね。
──バン!
背後の扉が勢いよく開かれた。
「ぜー……ぜー……」
汗をダラダラ垂らしながらローブを着た赤毛の男が激しい息切れと共に入ってきた。
「げホッ、ごホッ」
「あ、グレンおかえりー」
「ただいま……──じゃないだろオレゴッッ!」
グレンと呼ばれた男はオレゴさんに吠えた。
鬼気迫るというか、鬼のようというか。すごく、同情したい気持ちでいっぱいになる。
一目見て分かった。
「街に戻った瞬間お前がクランの中に女の子連れ込んだって聞いて爆速で帰ってきた俺の気持ちを考えろ!」
──この人、苦労人だ。
「ニコラスにリック任せて俺は一息付く間もなくこれだ! お前らに荷物持ちの俺の気持ちが分かるか!?」
そう、リックって言う荷物のな!
苦労人(確信)はこの世の不条理を嘆くように叫ぶ。
「怒るなってグレン、そんなことより」
「そんなことより!?」
「……ごめんなさい」
オレゴさんは綺麗に頭を下げた。グレンさんは普通に頭を抱えた。
「俺たちの評判がリックのバカのせいで悪いの、知らないとは言わせないからなお前ら……」
怒るグレンさんの声にそこらじゅうでそれぞれの行動をしてた人間がギクリと肩を跳ねさせた。うーん。気苦労が多そう。
「それで」
私と目が合った。
「……。魔法職か。得意属性は何?」
「えっと、水か風」
「なるほど」
グレンさんはガラガラとそこら辺に積みあげてある武器を漁り始める。
「えっと、これが水でこっちが風か」
樽に乱雑に置かれた恐らく杖。何個か色々変わった形もあるけど。
彼はそれをドシンと私の目の前に置いた。
「これ、使ってないヤツらだから気に入ったのあれば取って行っていいよ」
神か?
いや、あまりにも親切だから警戒してしまう。この魔窟を纏めるパワーを持った苦労人が一筋縄でいくはずがない。
何を企んでいる? 対価の要求?
タダより高いものは無いというし。
「俺はグレン。えっと、名前聞いてもいいか?」
「り、リィンぞ……」
「リィンか。もしかして遠慮してるのか?」
えん、りょ?
思わずライアーをガッツリ見た。えー、お前が? みたいな顔で見下ろしていた。
「心配するな。先輩が新米の世話をするのは普通のことだよ」
「で、でも」
──貸しを作るのは……!
クソみたいな自分本位の理由を心の中呟いているとグレンさんは困ったように笑った。
おっさんが嫌そうな顔をした理由が分かった。
ここ、善の塊だ。
「遠慮するな。それにここにあるやつ、うちのアルスってやつが魔改造したやつだから」
それはそれでどうかと思う。技術勿体なくない?
まぁ、お金少ないし……。
善の世界から抜け出したいし。
ガタガタと自分に合いそうな武器を探していく。うーん。どうしよう。別に武器自体は要らないけど、あれば便利なのはわかったし。
「こっ、これは……!」
そこで私は、運命的な出会いをする。
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