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王都編下
第93話 最初に死ぬのは果たして誰か
しおりを挟むカジノに来た。
今回はクロロスとエリィはお預け。
正直、クロロスの王都在住貴族の意見や情報、それとエリィの精霊行使は手放したく無かったけど、流石に食われてしまえばたまったもんじゃないのでお留守番。
その代わり。
「とても複雑なんですけどどういう神経してるんですか?」
「ほほっ、想像外で正直ドン引きですな」
本日のお供はグリーン子爵と元執事のシュランゲである。
「お前の神経を疑う。本当に疑う。この世の全てに謝れ。どうするんだこれ」
ライアーが罵倒の限りを尽くして私を責め立てる。
そう、グリーン子爵に奴隷の話を聞いて思ったんだ。
……あれ? 私も討伐系の奴隷ならいるよな? って。犯罪者は討伐したものが討伐報酬と言う名前の奴隷貸し出し代を得ることが出来る。
ダクアの奴隷商にこんな重要な奴隷を置いておくわけがなく、絶対王都に置いてるだろうなって設備見て確信した。
そしたらあった。ラッキーだよね。
シュランゲの服はグリーン子爵に貸してもらった(というか元々シュランゲの私物)から奴隷契約私に主人登録してちょっと手続きと契約したら終わったよね。布石。
シュランゲを奴隷として連れていくことの何が利点か、って。
・傍から見れば優秀な執事を携えているように見える
・主人がグリーン子爵じゃなくて小娘だとアピールする
・もしカジノに黒幕が居て、その黒幕がトリアングロの人間なら、真っ向から喧嘩売ることになる
の、3点なんだよね!
目をつけられる事大前提。目立ちたいのなら目立てばいいじゃない。
犯罪奴隷の購入が法的に認められていないから、ヴァイス・ハイトと言う執事が犯罪者だと知ってる者にもアピール出来るよね。
こいつ、倒したの、私達です。って。
……まぁグリーン子爵には『裏切られた上に主人が違う腹心の部下を見る惨めな領主』ってレッテルを貼り付けさせることになるけど。
というか別にグリーン子爵は来なくて良かったんだけどね。予め断ったし。でも子爵、『心配だから。カジノ側が』って。
そこ心配するとこおかしくない!?
「シュランゲ……ではなく、えーっと。ばいすハイト!」
「ヴァイスですね。偽名の方は」
「……ハイト」
「(諦めたな)」
「(諦めましたね)」
「(諦めましたな)」
「ハイト、事情は後で説明するですけど、このカジノにトリアングロの幹部ぞいる?」
まず大前提だが。奴隷商というのは一部の国を除いて世界中に点在する。大きな都市にはあるというわけ。
ただ、鎮魂の鐘や冒険者ギルドと違って奴隷商はまとまったルールや組織形態は無く、その国の定めた法律にしたがって運営されている。
つまり、国によって奴隷の扱いが違うというわけだ。
全国一律で『他人を売ることは出来ない』『犯罪奴隷は買えない』『犯罪奴隷の持ち主は討伐者』というのは決まっているが。
この国での奴隷に関するルールは分かりすくまとめると3つ。
一つ、奴隷は主人に嘘をついてはならない
一つ、奴隷は主人の命令が無ければ犯罪を犯してはならない
一つ、主人は奴隷の行為全てに責任を負う
これねー。理にかなっていて、抜け道がある。とんでもなく私好みのルールなんだよね。
犯罪行為って殺害とかなんだけど。
護衛とかすると殺さざるを得ないじゃん。それを厳しいルールで雁字搦めにすると何も出来なくなってしまう。だから命令があるなら殺してもOKです。でもその正当性が無ければ主人が罪を負います。
だから主人には正しい判断が求められる。要するに奴隷は手足だ。
基本的に奴隷って、犯罪奴隷じゃない限り生活に困窮した人が最後に頼る身分だ。だから残酷なことをやらせることは出来ない。
「──さぁ、どうでしょう」
そういう契約をしているからこそ、シュランゲはウソがつけない。
もちろんこれも抜け道がある。
ウソをつけないが、別に本当のことを言わなくても良いって抜け道が。
だからこれ、シュランゲの発言はちょっと注意しておかなきゃならないんだよね……。
「と、言うと?」
「私がカジノに入れば、それは『居る』ということになります。ですが、もしかすると私の関与外……新しい幹部もカジノにいる可能性もございます。なので、どうにも分かりませんな」
……どっちにも取れるな。
庇っている可能性もあるし、意味深に見せかけているだけとも見える。
「お前、激しくめんどくさい」
「グリーン子爵家の環境のせいですな」
「私のせいにするな!!!」
愉快だとめっちゃ笑うシュランゲ。
趣味悪いな。
「すごく腹が立つ事に私の従者として居た時より奴隷身分の方が楽しそうってことなんですよね……」
シュランゲ本人に聞こえないように小さな声で私に不満を漏らす子爵。うーん、分からんでもない。
というか偽ってばかりの生活だったから何も考えなくて良くてハイになってるんだろうね。
「ご主人様のご命令通りに動きますとも」
思わず私と子爵が同時に互いの顔を見た。
胡散臭さが天蓋突破しているんですけど。あの胡散臭さどこに隠していたんでしょうね。きっと眉毛です。眉毛かぁ。
目で語り合った。
「あーー嫌だ、本当に行きたくねえ、死ぬほど嫌だ。あーー帰りてえ。一切の嘘偽り無くペインの目の前でも言ってやる、めちゃくちゃ帰りてぇ」
奴隷商に行った辺りからずっと駄々こねくり回していたライアーが未だにペッタンペッタンしている。
「はーーーーーーー。敵に同情する」
ぶん殴るぞお前。
==========
一方その頃。留守番組。
「いいです事クロロス、私はゲームが苦手なのです」
「知ってる」
「でもお手伝い出来るのにぃ~~~~~~なんで私も呼んでくれませんの!」
「うんうんそうだな」
適当に相槌を打ちつけまくっている宿の中。
あー、なんか下の子もこんな時期あったなー、なんて大家族のクロロスは思いながらバブフの相手をしていた。
知ってる、手伝いという名の邪魔だよな。知ってる知ってる。
「ただいま~……って、エル……クロロス。リィンは?」
そこに現れたのはペインだった。エリィがバブちゃんだと知らないペインが『ついに友人にも春が来たかぁ。異種族はきついぞ』だなんてクソみたいなエールを送っているとも知らず、クロロスは簡潔に答えた。
「グリーン子爵と奴隷商行ってそのままカジノ行くって言ってましたけど」
「なんて????」
聞いてないんだがなんだその怒涛の展開。
「なんで子爵と奴隷商?」
「なんか、リィン嬢の唯一持ってる奴隷ってのを回収すると行 言ってましたけど」
「…………クライシス」
フードの下で男の瞳が輝いた。
「お前今からカジノ行ってリィンのフォローお願い出来るか?」
別の方向から調べたとはいえ、リィンと自分のに睨んだ場所が一緒ならまぁ戦力投下してもいいだろう。(建前)
「絶対面白いから(本音)」
奴隷が誰かわかった賢いペインパーティーはまだ見ぬ敵に黙祷を捧げた。
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