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王都編下
第94話 なんでも許せる聖人君子は存在しない
しおりを挟むグランドカジノ『ヘレティック』にて。
「あれ、クライちゃん。ペイン達は?」
「(ブンブン)」
「ふぅん」
奇天烈トリアングロ爆発物ことクライシスを見た瞬間。ライアーは頭を抱え、子爵は首を傾げ、シュランゲは数秒フリーズした後なんてこと無い顔して会釈という形で挨拶をした。
「おや、リィン。お知り合いですか」
「ほらペイン達居たでしょう? あのパーティーのフードぞ被っているすたやつ」
「あぁ! あの物静かな彼ですか。お世話になりました。いやほんとに」
子爵がシュランゲを見ながらどう考えてもお前のことだぞと言いたげに睨む。
ただその目に憎しみは感じない。
フリーズから解除されたシュランゲはほけほけ笑っている。
「クライちゃん一緒に行動する?」
「(コクリ)」
私もライアーも気狂い野郎も冒険者大会で面が割れているのかカジノ内の注目をめちゃくちゃ集めている。会話は聞かせないように音量考えているけど。
まだ子爵と裏切り者の従者っていう話は広がってないみたいだ。
それにしてもこのセルフサイレント野郎は全部身振り手振りでコミュニケーション取るつもりなのか。イエスノークイズ苦手なんだけどなぁ。
「んでハイト、ここ、トリアングロの幹部もしくは手駒らしき人は居た?」
「おやおや。私をお忘れですかな? トリアングロが陸軍。白蛇の名を冠した幹部でしたらこちらに」
「それ以外」
「そうですな……カジノ側にそれと思わしき人物は居ませんな」
シュランゲは嘘はついてない。嘘は。
真実は言ってないけど。
オッケー、お前の方針とやり口は分かった。
「あぁ、改めるして紹介するですね」
私はダクア主従に向けて口を開く。
「こちらクライシス。──トリアングロの元幹部です」
シュランゲは膝から崩れ落ちた。
==========
「チェック」
「うっうっ、酷いですご主人様」
「リィン嬢」
「酷いですリィン嬢、私がクライシスがトリアングロの幹部だと知っておきながら私の反応を試すだなんて」
スンスンと泣き真似をしながら私に文句を言うシュランゲ。
よく分かったけど別に私の味方をするつもりは無いってことだよね。トリアングロの元幹部であるクライシスの情報をいわなかったんだから。
流石は歳の甲。
ウソを吐かずとも嘘がつけるってわけね。
「あーー、帰りてぇ……」
ライアーはシュランゲが合流したあたりからずっと文句垂れている。
もうこれ以上にないくらい面倒臭いのは分かるけど、帰らせないから。というか冤罪はお前もちゃんと含まれてあるんだからね?
一応ライアーの亡くなった従兄弟と暮らしていた云々の過去も考えて王都ではかなりの頻度一緒に居ること許容してるんだから、最後まで付き合ってもらうからね?
私もトリアングロには関わりたくないんだから。
「──100賭けとは随分無茶をしましたね。どうやら大きな賭けがお好きなご様子で」
にっこりとスタッフが笑いかけた。
「どうでしょう、奥にもっとチップを賭けれるゲームがあるのです」
「是非」
……かかった!
まぁ、かかったのは私の方かも知れないけど。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だよね。
シュランゲもライアーもなんなら子爵も『やめておいた方がいいよ顔』をカジノに向けているのが普通に腹立つ。
「私の味方クライちゃんだけ……」
「(えーって顔)」
「嫌がるなかれ」
てめぇのリボンでふん縛るぞ。
「はぁ、やれやれ。すまないけど私はここで離脱するよ」
「あーーー、なるほど分かるました」
子爵が離脱をするという。彼が貴族である限り、確かに地下闘技場に向かうのは色々とまずいだろう。
闘技場に貴族が入ってはならぬという訳では無いけれど、ああいう場所にグリーン家という看板引っさげて入ると派閥に巻き込まれるからね。多分、地下闘技場にいる貴族は一定の派閥に属しているんだろうから。
「なんで本当に分かるんだろうね。私にはリィンがよく分からないよ」
「俺も分かねぇからな」
「なら仕方ない」
私にはライアーが分からないわ。
「それじゃあ、勝っておいで」
「はい」
それは賭けのことではなく、黒幕との勝負のことだろう。
子爵は私たちと別れ、護衛と合流すると背を向けてカジノの外へと向かっていった。
──トン
「あ、ごめんなさい」
私にぶつかった子供がペコッと頭を下げてトタタタと駆け足でカジノの奥へ向かっていった。白銀の猫っ毛に思わず目を奪われる。こちらをキロッと見た瞳は宝石のように輝いていて。琥珀のようだった。
……めっちゃ目立つ外見だな。
「さっさと行って帰るか……。あー嫌だ。めちゃくちゃ嫌だ」
ライアーは未だに文句を垂れながら、案内のスタッフについて行くため足を進める。
まだ言ってんのかこいつ。
「…………、そうか」
隣でシュランゲが小さく声を漏らした。
「どうしますた?」
「いえ、子供が」
子供?
私が首を傾げ見ると、シュランゲは優しい目をして笑顔を浮かべた。
「あのような子供を見ると。トリアングロとクアドラードの固執も我々の世代で終わらせねば、と思うのですよ」
たとえ。
「例えそれで両国が潰えても」
シュランゲはぺこりと私に頭を下げる。
「申し訳ございません、リィン嬢。私は、私はやはり祖国を裏切ることが出来ぬのです。我が妻と我が子に誓ったのです。今この身はリィン嬢の物です。敗北者に、何も文句はありますまい。──ですが、私の様な復讐者は簡単に心を塗り替えることなど出来ぬのです」
「それが貴方の生き方?」
「左様です。グルージャの件でもうお分かりになったでしょう。私は貴女に使われない限り力にはなれません」
自主的に力になることはならない、と堂々と言い放った。
奴隷契約魔法により嘘を付くとどれだけ痛みや苦しみに強い人でも死ぬほど苦しくなるというのに、シュランゲは一切顔色を変えない。
「いいよ」
私は贖罪に笑って返した。
「私、言葉遊びは好きです。それにコロコロと自分の意思ぞ変える方が……信用ならぬ」
筋通しているシュランゲは扱いやすいってわけだ。
「あとシュランゲ」
「はい」
「私は魔法を使うですけど、そんな私でも別に嫌いでは無きでしょう」
魔法や魔法職は嫌いみたいだけど、個人は別に嫌いじゃなさそう。
私よりずっと歳上だからそこら辺の割り切りはちゃんとしている様だし。
「──シュランゲが息ぞしやすいならいいです、渋々従うよりはずっといい」
従う方も、従われる相手もね。
「そうです……か……。」
別に罪人相手に優しくなる必要なんて無いけれど。
トリアングロは嫌い。でも別にシュランゲが嫌いという訳ではない。
言葉遊びが好き。
別にシュランゲは嫌いじゃない。
だからシュランゲが過ごしやすい方が私はずっといいよ。
「裏切りには罰を、とは言いますが。これは、なんとも。厳しい罰だ」
……なーんて聖人君子なことを思うわけが無く!
簡単に情報を渡さないことも試してくることも素直に腹立つから精々『祖国への忠誠』と『私の優しさ』で苦しめ!
まぁ主人をコロコロ変えるやつが信用出来ないってのは本音だけど。
「100枚は稼ぐしてもらうですよ」
「老体に鞭を打ちなさる」
そして私たちは、地下へと向かい。
「ようこそ新たなお客様。私はこのカジノのオーナーをしております、レヒト・ヘレティックと申します」
見るからに胡散臭いオーナーと出会った。
応援ありがとうございます!
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