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戦争編〜第一章〜
第115話 国境のファルシュ領
しおりを挟むクアドラード王国とトリアングロ王国に朝日が登った。
開戦の朝日だ。
「指揮はこの俺、海軍が幹部〝鯉〟クラップが取る!」
トリアングロ王国は当然ながら戦争の準備をしていた。対してクアドラード王国はどうだろうか。
与えられた2日の猶予期間。出来たことといえば王都にて会議をして、それぞれの役割を決めること、そして各地の領主に伝えることだ。
特に現国王などは戦争停戦以来、国王の座に着いた。
国境の領地を治めるのはファルシュ辺境伯ただ1人だ。
そして1番厄介なのもファルシュ辺境伯。
トリアングロ王国は初撃に力を入れている。ローク・ファルシュを崩せば、今後の戦争諸々に大きな影響を与える。
「突撃!」
クラップの指示で各軍がファルシュ辺境伯邸を目指し攻めて行った。
その戦力差は10倍。いくら魔法を使えようと、その戦力差は絶望的なものであった。
「国境を越えるのは簡単だがローク・ファルシュを崩さなきゃ話にならんな。ローク・ファルシュの魔法を無力化すれば即座に撤退する。出来るなら腕の一本貰っていきたいところだが……」
「はっはっはっ、私には関係ないことだな!」
「おいデブ。お前も前線に決まってるだろうがよ」
「!???!? 私これでも戦えないぞ!?」
「知ってるわ」
黒に近いグレーの短い髪についた埃を払うように頭をかくと、クラップは前を見据えた。
ファルシュ辺境伯の私兵が首都に入らせまいと魔法を放っている。魔法があるだけで辿り着くまで時間がかかりそうだ。
──だが、魔法は所詮雑魚の魔法ばかりだ。
「フロッシュ、やれ」
「貴様は私の扱いが非常に荒い! ガサツだぞ! 全く、そんなんだから第二都市のソフィアちゃんに『思ってたのと違う……』って振られるんだぞ」
「お前なんでそんなこと知って……まさか」
「ソフィアちゃんは私の愛人だ」
「くそデブ!!!!!!!!!!! 爆発四散しろ!!!!!!!!!!!」
「わたしは自分の爆弾に被爆するほど馬鹿ではないのだよ!」
フロッシュはレディの扱いが紳士的なのでハーレム築く感じの男だった。
トリアングロ兵士がファルシュ兵士とぶつかる。
その中に飛び込んで行った……どたどたと重そうな足取りで走っていったフロッシュは爆弾を片手に持って敵陣に向かってぶん投げた。
トリアングロ兵士はソレがやべぇやつだと分かっているので即座に避け始める。
「ほらお前がちんたらしてっから!」
「フロッシュ様巻き添えやめてーーーー!!」
「ご勘弁を、どうか、どうか。せめて俺たちが逃げ切ってから」
「知るか、男は勝手に死ね」
「「「暴君幹部なんか殺してやるーーー!!!!」」
大前提、トリアングロ王国の幹部になるためには現存する幹部を殺す必要がある。
下から数えた方が早いフロッシュなど、他の化け物に比べたら殺しやすい方だろう。……成功すれば。
他の幹部は『下剋上』に対して、寸止めが可能だ。殺す難易度は高くとも再チャレンジの可能性がある。
ただしフロッシュは全く逆。殺す難易度は低くとも、火薬を扱うフロッシュは反撃の手加減ができない。
チャンスは1回。
殺すか死ぬか。
よって、フロッシュに向く死の刃は自然と少なくなっていく。
そんな反撃死亡率ナンバーワンを誇るフロッシュの爆弾は、魔法で防ぐ間もなくファルシュ私兵にぶち当たる。たまやー。
……なんて、ゆるゆると戦える訳もなく。
火薬で焦げた皮膚の匂いが、沸騰した血の匂いが。
熱が、痛みが、呻き声か、魔力が。
国境に広がっていく。
爆音と爆風に乗って死の香りが漂う。
覚悟無きものは死ね。
戦場にたった時点で、お前たちは悪で私たちは悪だ。人の命を合法的に奪い取れると思うな。
正義として命を略奪出来ると思うな。
フロッシュの爆発は魔法と遜色無い攻撃力を放つ。
ファルシュ私兵も勿論魔法を使う。命を奪う。
奪い合いの殺し合いが始まった。
再戦まで2日という短い猶予期間に、東西に伸びるクアドラード王国が騎士を率いて国境戦に間に合うわけがなく。
予め準備を整え、そして国境に兵を集めていたトリアングロ王国の戦力にたかが一領主の私兵が適う訳がない。例え人外的な技術を持つ魔法を持ってしても。
死は、等しく死だ。
魔法を使おうが使うまいが人は皆等しく死ぬ。
「下がれ! メーディオまで負傷兵を下げろ! 首都内に!」
ファルシュ私兵がここで消費するのはまずいと考えたのか開幕1時間であっさりと撤退の合図を出す。
手持ちの火薬が切れ、追加の火薬を補充しようと後方に戻ったフロッシュが仁王立ちするクラップの横に並ぶ。
「……匂うな」
「は!? 前線で埃に塗れ戦った私にケチつける気か!?!?」
「そうじゃねぇよおデブ。……ファルシュ私兵の動きがちっとばかしおかしい」
強いて言うなら。
「──判断が早すぎる、か?」
「分かってんじゃねぇか」
ファルシュ私兵の量は多くない。そりゃ、質は良いが。そして首都以外の途中に住む人間には手を出すつもりはない、キリがないから。
クラップは生粋の軍人だ。大を取るために小を切り捨てることが出来る。
だからクラップの出した指示は、兵を捨て駒にしかねないものだった。
「──ファルシュ領首都に攻め込み、領主をおびき出せ」
国境の、しかも首都に住んでいるということはそういうことだ。
一般庶民を戦いに巻き込むのに躊躇わないことは無い。
戦いの最中、首都圏に住む人間を逃すほど甘くもない。
……庶民を盾に取るのならその盾ごと切り捨てる覚悟はどうに出来ている。
「お前は固く考えすぎなのだ」
「あぁ? 喧嘩か?」
「勝てば良いのだ勝てば。どーせお前は二国統一した後に反発がどうとかも考えているんだろう」
図星だった。
庶民を殺す行為が乗り気でないは恨みが溜まるからだ。反乱の芽を作るのはあまり良策では無い。
「ぶつかってもない問題に手を取られてどうする。今はお前の成すべきことを成せ」
「……激弱デブが喚いてやがる」
「そういうところがモテないのだぞお前!」
そういうところがモテるんだろうな。
「ま、もう命令出した後だしな」
トリアングロの兵士が決して少なくない犠牲を払いファルシュ領の首都の扉を破る。
悲鳴が響き渡る。
ファルシュ領首都に住む住民にまで戦いの刃が振り下ろされる。
だがまぁ。
停戦中対策を取ってきたのはトリアングロ王国だけでは無い。
──どシュ
「……え?」
名も無き兵士があっけなく命をちらした。
鎧の隙間に差し込まれた槍がずるりと引き抜かれた。
「はーあー、折角ダクアでのんびりしてたのに」
「坊主は今冒険者だったか」
「じいさん耄碌してないよな?」
「老兵といえども小童共に負けるかい」
「無駄口叩いてんじゃないよあんたら!」
「拠点をグリーン領に移しても招集に応じなきゃなんないの辛いわぁ。ね、ヒラファきゅん」
「リーベさん黙っててくれませんか一緒にするな」
武器を手に取っているのは首都の住民。
要するに、一般庶民。
「……なんだと」
クラップは初手から敵の陣地へ引きずり込まれたことに気付く。
「領主の所へ易々と行かせるわけには行かんのでな」
肉屋の店主が、冒険者が、庭師が、整備士が。
手に取った武器は愛用していた武器。
ファルシュ領は20年前降格されたロークが国境に作り上げた土地だ。
ファルシュ。
古代語に精通している者はその名前に眉をひそめた。
王族から降格され、辺境伯へと落ちた男への侮辱の名前かと。
事実、ファルシュ領は偽りであった。
「さて、反撃と行こうか」
その土地に住まう民は、全て兵士と言っても遜色無い人物。
引退した騎士や魔法職、休暇中の騎士など。
戦いに関わる者達の住処がファルシュ領なのだ。
「おいおい……これじゃ、街全体が騎士寮みたいなもんだろ……」
戦力差は縮まった。
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