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戦争編〜第二章〜

第131話 異世界人、参戦

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「と、言うわけで自己紹介しましょう」
「はい! 異世界から来ました、シラヌイ・カナエです! 家名はシラヌイ、名前がカナエ。気軽にカナエちゃんって呼んでね!」
「はーいありがとうごじょります。さて、次は」

「──ちょっと待って」

 ツッコミ役グレンさんが手のひらを向けて静止させた。

「異世界をそう簡単にながせてたまるかーーーー!!!!」

 あ、追っ手に気付かれたくないんで黙って貰えますか?




 クラップから逃げ出せた私たちは近くの森に逃げ込み、ひとまずの準備や情報を共有するため人の避難した集落へと足を踏み入れた。
 地の利はあちらにあり。ここもすぐに特定されるだろうから逃走経路の確認と擦り合わせも兼ねている。

「で、異世界人ってのは一体なんだ?」
「異世界人はその名の通りこの世界とは異なる世界から来るした人の事です。転移、召喚、転生……も入るですかね?」
「転生は含めるな」
「らじゃ! ……えっ何故グレンさん」

 異世界人の定義ってなんだろなー、と考えていたら転生は却下された。いや、まぁ、微妙な範囲だから異世界人としての括りでいいのか迷ったけども。まさかグレンさんに否定されるとは。

「とりあえず本人に説明してもらおうか」
「あ、うん。もちろんだよ。──改めまして、異世界人のシラヌイ・カナエです。ツインテールの子が言う中で言うと召喚の部類かな」
「あー。じゃあクアドラードで最近召喚される人した、ってもしかしてシラヌイさんですぞ?」
「……どこからどこまでが最近か分かんないけど、まァ多分あたし。むしろ早々起こってたまるか、と思うんだよ」

 それはそう。

「雑談に興ずる暇は無きですのでサクサク進めるです。まずは簡単な自己紹介、私はリィン、この人がグレンさん、あっちがリックさん、あの子がエリィ」
「ふむふむ。あ、あたしの事は良かったらカナエで呼んでね」
「理由は?」
「えっ、理由? うーん、名前の方が、親しい感じするから?」

 家名を呼ばれると都合が悪い何かがあるのかと思って探ってみたけど、どうやら普通にそう考えているっぽい。

 改めてカナエさんを見る。
 歳は大体成人したばかり……18歳、ってところかな。童顔の可能性も考えて23歳。黒い髪に黒い目。クアドラードよりもトリアングロでよく見る色彩で平民に多い。ぱっちりとした瞳は若干つり上がっていて、肌の色は黄色。身長は高めだろうけど、この世界では普通のサイズ感。この世界的に言うと、良くて潜入向き、悪くて没個性。

 それよりも格好だ。上質で動きやすい服を着ているが裾など痛みやすいところが解けており、上から着たマントは土が着いていたり汚れが目立つ。靴も底が磨り減っているし、なんなら運動には向かない。ブーツな事が幸いして壊れては無いけど、所々傷が入っている。
 仕草や言葉遣いは普通。運動も普通。


 ……それなりにお金を持った屋敷で保護されていて、突発的に抜け出した。って所か。

「カナエさんの目的は?」
「えっ、あー、うん。えっと……」

 西日をチラリと確認して困ったように笑った。

「私たちはクアドラードの冒険者です」
「おいリィン!」
「やだ怒るしないでグレンさん」

 カナエさんの目的地はクアドラードにあるという事は視線でわかった。というかトリアングロの幹部から逃げるという明確な目的があり、国境まで走り通してきた人がトリアングロ内に目的がある方がおかしい。
 国境基地に用事があるならクラップから逃げる必要もないし。

「最近の子って怖いなぁ……。クアドラードの貴族に伝えないといけないことがあるの、私、フロッシュ君の屋敷で計画を聞いたから」
「……!」
「だからお願いします! あたしをクアドラードに連れてって!」

 私はグレンさんと顔を見合わせた。
 リックさんとエリィ? ……蝶々って、なんで子供の視線を奪っちゃうんだろうね。

「伝えるしたき内容は?」
「実は、フロッシュ君が国境の南側に地雷を仕掛ける話を聞いて。国境って言ったらファルシュ領でしょ! 北側は険しくて到底抜けられやしないし、戦争が始まったら進軍が止められないから、急いで行かなきゃ」
「……あの、非常に残念なこと言うですけど。戦争、既に始まるすてます」
「えぇえええ!? えっ、じゃあ無駄足……? 既に爆発に巻き込まれて……?」

 カナエさんは一気に顔を青くする。
 カリカリとペンを取り出して紙に書いていたグレンさんが顔を上げた。

「いや、まだだ。地雷は埋まったまま。……よし、はいリィン」
「ありがとうです」

 グレンさんが書いていたのは簡潔な報告書だ。それを私は見続ける。


 【国境基地にクラップとフロッシュ。人員は少ない。ただし地雷を埋めてある為、罠。場所は国境の森から南側。範囲は不明。
 異世界人シラヌイ・カナエと合流。】


「グレンさん王都の行く仕方とか土地系分かるますた?」
「おう。そういう系はお前無理だと思ったからそっち優先で情報集めてた」
「アハハ……何故デスゾネー」

 一般常識を幹部の前で集めるのは無理だわ。うん。

「ペン貸すして」

 報告書をじっと眺めながら手を差し出すと、グレンさんはそこにペンを置いてくれた。
 さて、私の入手した情報を入れるかな。

「何してるの?」
「あァ、実はクアドラードに一瞬で文書を送るが可能の方法ぞあるんです。あッ、文字、読めるですか?」
「ううん。文字は無理。翻訳機能がついてるのか会話は出来るんだけど」

 それはそれは。非常に僥倖。

「地雷の情報ぞ届けるすてます。冒険者クランに情報ぞ届けるして、貴族に入るようにするんです。内容追加。クラップは怪我ぞすていて……」

 カナエさんに教えるように口に出しながら書く。


 【国境に第2王子有り。身バレした。ルナールの居場所は王都。そちらを目指す。
 個人情報。 クラップ→判断能力が早い。その分先入観に騙されやすい。 フロッシュ→心理に強い。腹に火薬武器を詰めているため、見た目よりも素早い】


「…………」

 グレンさんの視線が痛いです。

「……リィンすごいな。いやほんと」

 呆れたような声色でそんなこと言わないでください。

「多分送信完了したと思うです。──さて、エリィの魔法が使えぬことぞ判明しますたし。さっさと逃げるですか」

 そろそろ視線を紙から外そう。
 見られたらまずいけど、あと2回くらいタイミングを取ってペインに伝えるかな。

 金もなければ武器もない、知識もなければ食料もない。色々と色々にピンチなんですけども。それでも足を止めるわけにはいかない。
 近くに川があるのが良かった。水分を確保出来たし、ある程度の休憩も取れた。

「カナエさん、多分この場の誰よりトリアングロに詳しきです。私、王都に向かう必要がある故に。手伝うして貰えませぬか?」

 断られたら断られたで仕方がない。本当に私がクアドラードに情報もたらしたか判断出来ないんだから。
 さて、交渉材料は無いけど追手が同じだからそこを押せば……。

「うん、いいよ」

 私の考えを無駄にするようにケロッとカナエさんは答えた。
 えっ、えぇ……。むしろ逆に大丈夫?

「クラップから助けてくれたのは事実だし……。それにね」

 カナエさんは真顔で言った。

「──金髪碧眼とエルフは異世界ファンタジーとして需要があるんだよ!!!!」

 ……。
 ……ようこそ、幻の世界へ。
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