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戦争編〜第二章〜

第134話 きっと胃痛にも旬の時期がある

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 トリアングロ王国冒険者ギルド第二都市支部にて。


「それでは改めて作戦会議と行くましょう!」
「おー!」
「ぱちぱちー」
「やんややんや」
「……ふざけないと死ぬのか?」

 能天気3人組の茶化しにグレンさんが呆れたような視線を向ける。


 実は先程エリィとカナエさんの冒険者登録を終えた。
 この支部は人手が本当にないらしく、冒険者どころか職員も姿が見えなかった。冒険者登録を担当したのはギルドマスターってところで察して欲しい。

 この国は魔物が居ないと聞く。魔物による被害がないから治安は良いだろうが、冒険者のメイン活動的には非常にピンチ。
 冒険者ギルドの組織事態は国や貴族からの補助があるからいいんだけどね。冒険者はほぼ居ないだろう。


 私たちはギルドマスターに頼んでギルドの部屋をちょっとだけ貸してもらった。


「では再確認です。私はエルフであなた達の主人です」
「……奴隷の扱いが慣れてることにツッコミを入れても?」
「駄目です」

 勘弁してください。

「カナエさんのあだ名はクロ。髪色が黒だからですね。エルフと人語の翻訳が可能で買うされるしますた。ちなみに裏設定は魔族。異世界人の常識の無さを誤魔化す手段はこれくらいしか無きです」
「裏設定はいいけど、あたし別に意識してエルフ語喋れるってわけじゃないよ?」
「エリィと常に会話ぞしてくれると」

 そうそう、カナエさんなんだけど。
 『前世の感覚しか残ってないだけの私』でも苦労しているこの世界の言語を、『召喚されてすぐのカナエさん』が苦労なく喋ってる所。そして私の不思議語に特につっこまず、聞き取りに苦労もしなかった所。その点から考えて『自動翻訳』ってスキルを睨んだらまさにその通りだった。会話限定でいえば私以上。

 エリィが喋ることを封印すると同時に世話を押し付けることが出来たってわけだ。国境基地で苦労したんだ、察して。

「それでリックさんがシロ。髪色が白だからです。愛玩動物用で買うしたって感じで。要するに私のお気に入り。表に出るのもリックさんで」
「おう、任せろ!」
「あ、極力表情と口は動かすなかれ」
「おう……任せろ……」

 目に見えてしゅんとするリックさん。
 ピアスだけは外したくねぇー! って騒いでいたからそこは譲歩したけど、リックさんの発言とニコニコ笑顔が無ければ本当に別人レベルなので知り合いには有効だろう。幼馴染グレンさんお墨付きだ。
 逆に外見特徴しか知らない兵士には無効だろうけど。

「グレンさんはアカ。一応茶髪に偽装ぞしてますけど、バレる可能性は無きにしも非ず故にこちらからバラす方向性で。使用用途は雑用とサンドバッグですね!」
「……1人位色彩違った方が良いって言ったのは俺だし、手段も方法もない俺たちじゃ髪の毛に土汚れつけるくらいしか方法無いの分かるけど、分かるけど!」
「虐待の演技上手すぎることにツッコミぞしても?」
「経験から来てるから」
「闇ぞ煮詰め過ぎて笑うです」
「笑うな。いや冗談だけど、そこは笑うな」

 正直逃亡者は5人組ということはクラップ自身が確認しているから、特徴はすぐに伝わるんだよね。せめてもの抵抗で髪色をパッと見変えるようにした。泥って手段で。自然に泥だらけ土だらけになる理由は折檻くらいしか思い浮かばなくて……。

 不幸な事故? 思い浮かびましたが(面白くないので)使えませんでしたね。人生は遊び心。

「けどさ、嘘ついて良かったのか?」
「あぁ、奴隷のことです? 身分を上だと詐称するはまずいですけど、下だと詐称するはセーフなので平気ですぞ」

 グレンさんが実は王族なんだ! って嘘つくと不敬罪も引っかかってくるから一発アウトだけど、奴隷って言うならセーフだ。
 弱い身分はね、自分の能力を隠すのに1番向いてるんだよ。

 私がFランク冒険者という地位にいるのは『義務免除』ってのもあるけど本命は『油断を誘う』だからね。冒険者大会しかり。

「いや、そっちじゃなくて。冒険者ギルドとか、サブマスの妹だとか」
「……嘘、吐いてませぬよ」
「は?」

 グレンさんが思わず漏らした。

「あー、そういえばリィンって自分のこと『冒険者ギルドサブマス(エルフ)の妹』だとは言ったけど『ギルドの使者』とも『自分がエルフ』とも言ってないな」
「種族詐称もそこそこ重大ですからね」

 リックさんが思い浮かんだ通り。実は私、アウトな部分は嘘を吐いてないのである。そう、向こうが勝手に『ギルドの使者』とか『エルフ族』とか勘違い・・・する可能性もあるけど。

「…………つまり、リィンは口が上手い?」
「よくカタコトでそこまで印象操作出来るな!?」

 グレンさん自身がハッタリって言ったじゃん、私の事。
 別に奴隷3人のことだけじゃないし、魔法が使えるフリだけじゃないんだぞ!

「流石にうちのサブマスは怒るんじゃ……」
「妹ですぞ? 血は繋がるしてませぬけど」
「リリーフィアサブマスの? そんな、仲良かったっけ?」
「多分本人は知りませぬよ。私が名前に『フィア』ぞ使うしたのもそれ関係ですし」

 私がリリーフィアさんの妹弟子なのって私とフェヒ爺しか知らないだろうね。例外でライアーとか入ってくるけど。

「『今更ですけどリィンさんってたかが10年くらいしか生きてないのにフェフィア様から指導を受けるのも、名乗れるくらい習得してるのもおかしくありません?』」
「私14歳ですから!!」
「『誤差ですわ!』」

 10年も100年も変わらないって価値観してるエルフ族に人間の寿命をとやかく言われたくないです。

「さて、この街ですることぞ3つ。『情報収集』『路銀稼ぎ』『逃亡』です」
「具体的に頼む」
「路銀稼ぎは置くですね。情報収集は大まかに、要塞都市への向かう仕方とそこでの立ち回る身分、幹部の動向、ルナールの居場所へ辿り着く手段、戦争の現状とトリアングロの作戦。が、主なる所です」
「……それ、めっっっっちゃキツくないか? 少なくとも俺らみたいな冒険者が集められることか?」
「無理です。ですから、出来るが可能な範囲のみ」

 ……これに関してはリックさんの言う通りなんだけど、実は裏技があるんだよね。

「それで逃亡ですけど、クラップの激怒具合から本人ぞ来る可能性大です。あいつ、怪しいところに狙いぞつけるのは得意で中々目ぞ離さぬので」
「めっちゃ実体験」
「よく生き延びたよな」
「クラップって不機嫌の塊なのに」
「『よく分かりませんわ』」
「国境の作戦などでどうなるか分かりませぬが、その時には完璧に別人の変装ぞ手に入れるして、国境での姿のまま逃亡、が理想」

 国境基地での姿を『生野菜』だとすると第二都市に入った段階では『塩ゆで』。髪色変えたり色々お金をかけて変装した姿は『スムージー』だろう。
 塩ゆでの状態で第二都市から逃亡すると、塩ゆでという目立つ集団の行動は自然と辿られる。入った店や購入した物なんかはすぐに特定されるだろう。
 生野菜と塩ゆでの差を就く。生野菜で逃亡すると『生野菜=塩ゆで』に繋がらない場所が出てくるはずだ。誤差だけどね。

「ま、ともかく武力行使に来るされるとこのパーティー、弱きです。それはもう非常に」
「うん、まともに戦えるのリックくらいか?」
「……かもですぞねェ」

 無難な返事を返す。
 前衛職、1人しか居ないね。異世界人に戦闘は求めてはならない。住む世界が違う、物理で。

「冒険者ギルドと鎮魂の鐘はなるべく味方につけるしましょう。中立組織は私たちがクアドラードの民だと知るしても直接関係無きでしょうから。……あとダクア冒険者の私たちはギルドカード提示ですぐバレるです! 別に新しく作るしてもいいのですけどね、流石に2枚もちは揉み消せぬ!」

 ギルドカードを2枚持つってことは、まぁね、中立組織に喧嘩めちゃくちゃ売るようなもん。
 ある程度の守秘義務はギルドにもあるだけろうけど、ほら、『Fランク冒険者に人権は無い』から。どっかのエルフの言葉を借りるならね。

「Cランクコンビ、頼むですよ! ギルドは2人が命綱!」

 これは余談だけど、恐らくライアーは元々ギルドカードを持ってなかったから向こうで作ることが出来たのだろう。バレた時のリクスがデカすぎる。


「そういえばリック、依頼ボード見たか?」
「見た見た。依頼は街中の掃除とか力仕事とか、そう言う感じのやつしか無かったな」
「路銀稼ぎ、早速難関ですぞね……」

 仕方ない。釣りでもするか。
 身綺麗な女の子を餌に旬のチンピラを釣りあげよう。



 ==========




「よっっっとぉ!」

 第二都市は広い。治安の悪い場所に目星をつけ、その近くの宿に寝泊まりを決めた。
 全員同じ部屋で、睡眠は交代制。

 そして私は観光している世間知らずのお嬢さん、のフリをして街中を放浪した。

 そして裏路地に入り、目当ての金……、もとい寄付者を見つけて私は思いっきりぶちのめした。
 一対多はあまりにも経験がないけれど、対人戦なら経験がありまくるんだ。ファルシュさん家の教育方法は異常、ハッキリ分かんだね。

 ……あのクラップを半殺しに出来るパパ上が直々に指導したんだから、私の対人戦技術は魔法が無くても優れている方だよ。

「ぐ……ぅ……!」
「ほら、有り金ぞ置いてけ。この私に手を出すしたのですから、それ相応のリスクくらい理解出来る頭はあるですよね?」
「この……アマ……!」
「あ? 口ぞなってない。誰に向かうして口ぞ聞いてる」

──バキッ

「い゛──むがッッ」
「うるさき」

 骨が折れたくらいで悲鳴を上げられると困るので口を踏んずけて阻止する。ここで徹底的に心を折っておいた方が報復の危険性が無くていいからね。情報も取り出せるし、何よりプライドが高いのがいい。
 『歳下のか弱そうな女の子を大人数で囲んだけど逆にやられて有り金もっていかれました』なんて、恥ずかしくて到底言えやしないもの。プライドが高ければ高いほど。

「でぇ? 弱いのは、悪き者はどっちい? お兄さん達教えるしてくれますたよね、『強いやつが正しいんだよ』ですたっけ」

 ハッハッハッ! 私に喧嘩を売った不運を嘆け!

 さてと、お財布は、ど、こ、か、な!
 餌になる為に1人で来たから、早めに帰らないと心配されちゃうしね。今日の宿代程度あれば……。

 ゴソゴソと意識が朦朧としている男の懐を探る。地面に蠢いているのは3人。うん、このやり方、足がつかない限りは有効だな。

 だって被害者、客観的に見て弱そうな私だもん。正当性さえ提示すれば…………あぁいや、トリアングロだと逆になるのか? 私が勝ってるから有利になるだろうが。うーん。


 街を見る限り金貨価値はクアドラードと変わらない様子。
 財布にあったのは金貨10枚。随分多いな。

 1枚だけ残してあとは全部貰う。ありがとうチンピラ達、今だけは愛してあげる。

 私の懐に納めた瞬間、首筋に気配があった。

──バッ

 思わず振り返ると至近距離に獣人が居た。
 気配、気付かなかった。ここまで接近されていたのに!

「おっと、ようやく気付いたか」
「いつから?」
「この路地に入った瞬間だな」

 私より確実に強い。国のルールからすれば、弱い私はこの人に逆らえないって意味でもあるね。私は弱者が好きです。強者は嫌いです。
 獣人はザッザッと地面の音をわざと・・・鳴らしながら近寄ってくる。

「……。ふぅん」

 スン、と獣人の鼻が鳴る。

 私は近寄られる体から離れるように後ろへと下がった。


「嗅ぎ覚えがあんな。──あの狐野郎にベッタリついてた匂いと同じだ」
「……!」


 トリアングロ王国で私の心当たりがある狐、なんて。1人しかいない。


「俺の名前はトール・コーシカ。案外簡単にみっかったな。クアドラードの、お客サマ?」

 ゆったりとした動きは、獲物を狩る動物のようだった。



 Q.袋小路でどう考えても幹部に出会った私の胃は?

 A.瀕死
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