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戦争編〜第四章〜

第173話 口先の言い訳が得意ってどうなの

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「ヒュッ……!」

 ヴォルペールは息を飲んだ。自分の目で見える景色にでは無い、リィンの映し出す風景が、自分に宛られている景色に。

『リンク魔法を解除しろ。さもなくばこの娘の命は無い』

 魔法の発動者に向けられた言葉だ。
 視界を繋ぐ存在。トリアングロの景色を探る中間地点にリィンが立っている以上、リィンを殺せば探られないということになる。
 つまりこのメッセージは慈悲だ。
 『リィンが死亡する』も『ペインが魔法を解除する』も結論が変わらない。そこにあるのは中間地点であるリィンの生死だ。

 結局こちらができることは何も無いということになる。

「〝解除〟ッ!」

 トリアングロとしてはリィンの存在はイレギュラー。殺しておいた方が安全なはず。
 なのにリィンの生存が条件に入っている、ということはリィンが生存まで漕ぎつけているという意味になる。

 邪魔は出来ない。
 特にリンク魔法という言い方はリィンの言い方だった。

「……どうしましたか、ヴォルペール殿下?」

 ヴォルペールの纏う魔力が奇妙な動きをしたと気付いたローク・ファルシュが近寄る。とは言えど、最低1mは距離感を保っている。
 ……ロークの身に掛けられた魔封じの魔石は、未だ取り出せないままでいる。
 その事に気付かれない様に、ロークが距離を離しているのだ。

「ふ、ふふ。……──やってくれたなトリアングロ。いや、あのクソ狐」

 リンク魔法の存在を知っている者など限られている。
 リィンの元の瞳の色を知り、碧眼それが魔法だとわかる者は。

 ライアー、奴しか居ない。

「お前が宿命だろうが相棒だろうが知ったこっちゃ無い。俺の運命をこれ以上泣かせてみろ、この国で息をすることを許してやると思うなよ……!」

 ローク(二世)降臨である。その殺気に当てられた者は心がひとつになったに違いない。

「「「「(どっちもおっかねぇ!!!)」」」」

 血縁はそこそこの距離とは言え叔父と甥。今確かに血筋を感じた。

「──トリアングロに攻める」

 その言葉にギョッとしたのは騎士団だ。赤の騎士団の副団長である。

「しかしそれだと! ……国の方針と違えます」

 慌てたように声を落とす。
 国の方針は『時間稼ぎ』だ。国の内部を魔法便りにせずとも暮らしていける世にするために数年単位で防衛戦をし、時間を稼ぐ。
 兵も労力も装備も何もかもの消耗を激しくする攻城戦は方針に背いている。

 ある程度の采配はヴォルペールに任されているとは言えど、国力を失いかねない判断だった。

「赤の副団長。おかしいとは思わないか?」
「はい?」
「トリアングロは、攻めてこない。いや、まぁ、食い止めたとも言えるのだが。これまでクアドラードに攻めてきた幹部は3人。……合計12人いる中で、だ」
「それは…………少ない……?」
「あぁ」

 ヴォルペールはひとつ頷く。

「(いや俺の方針は戦争勝利なんで言いくるめさせてもらうけどな!)」

 口先で丸め込もう作戦、開始である。

「1人クアドラードで捕虜にしているとは言え、半数以上の行動が不明だ。トリアングロ内で準備をしているのならともかく、最初に仕掛けていた地雷を回避した我々の探りを入れている可能性が高い」

 治療により待機中、青の騎士団副団長レイジ・コシュマールが心の中でめちゃくちゃ苦い顔をした。表情に出さない辺りはプロだ。

「トリアングロ国内にいる幹部は確認が取れている者だけでも合計8人。鯉、蛙、鶴、鹿、狐、猫、猿、犬」
「それと砦を構えているだろうから、十中八九、そこ牛がいるはずだよ」

 ロークの言葉だ。
 あまりにも多い。半数以上は確認が取れている。

 と言うか半数以上も確認が取れているリィンの悪運を少し同情した。

「戦争前にあれだけ念入りに企んでいたのだ。何か、さらに企んでいるとみて良い。相手は我々を滅ぼす気満々なのだから、防戦ばかりだと巨大な力で潰され兼ねない。……と、私は思いますね」

 取り繕うような王子の仮面を被ると、副団長は頭を下げた。

「……失礼しました。殿下のお心のままに」

 ミッションコンプリートである。

「(にしたって……)」

 ヴォルペールは1人苦虫を噛み潰す。

「(本当に、企んでいるにしては行動が遅いぜ……?)」

 戦況が、上手く読めない。


 ==========



「──教えてやろうか姫さん! お前が引っ掻き回すせいで俺の仕事どころか色んなやつの仕事が滞るんだよっっっっ!」

 鬱憤を晴らす様に叫び散らしながらクラップが入ってきたのを見て、私は再び眠りに落ちた。


──ガチャン、ガシッ…!

「寝んな姫さん」
「ぶびゅぶるうぅ」

 頬っぺたを潰されました。顔面握るよりはましだけど女の子の可愛い顔にすることじゃ無いよね。

 わざわざ別の牢屋に入れられた私の牢屋のガッツリ厳重な鍵を開けてまですることかと私は思うわけですよ。

「クラップさん元気?」
「あぁ、お陰様でなぁ? ちょろちょろちょこまか現れたり消えたりとまぁいっそがしいやつを追いかけてりゃ療養も忘れるくらい元気になったわ」
「褒めるしろ」
「嫌味に決まってんだろうがこのスットコドッコイ」

 スパーンっ、と思いっきり頭をはたかれる。
 いっったぁ!? 本当に遠慮がないな!?

「……ん?」

 クラップが不思議そうな顔をして私の顎を掴み、上を向かせる。緋色の瞳と目が合う。

「お前、目はどうした」
「へ?」
「黒に見える。夜中でも見間違えないくらいに青色が目立っていたが」

 もしや情報伝達がお済みでない?
 やれやれ、私は優しいからね、ちゃんと教えてあげようじゃない。

「こっちが私の素の色。碧眼は人の魔法です。解除してもらいますた故に」
「あぁ……なんかそんな報告あったな……」

 思い出しているのか顎に手を当てて考えた。思い返し終わったのか私に向き直る。

「黒の方が似合うな」

 ……。どっちの意味だ。
 トリアングロの国の色としての黒か、それとも純粋に瞳の黒なのか、迷う言葉だぞ。
 どっちみち浮かれる様なもんだけど。

「どっちが好き?」
「少なくとも第三者が覗いてるって時点で青を選ぶと思うか?」
「これだから童貞は」
「今なんで息を吐くように俺をディスった」

 私はため息を吐く。

「言っとくですけどね、クラップさん。私がリンク魔法ぞ使うされてた・・・・・・理由ぞ存在するですぞ?」
「ほう?」
「私、クアドラード王国にトリアングロの狐冤罪かけるされてたです。ところがどっこい蓋ぞこじ開けるすてみればコンビが本物の狐ですた。それでは国に1人残すされた狐疑惑ぞ持つ美少女はどうなるでしょ~うか」

 そう、狐とコンビを組んでいた狐疑惑持ち。
 普通なら絶対。

「……まさか監視か。お前の」
「イグザクトリー!」

 ──監視の為だと思うよねぇ!!!!

 まぁ、ぶっちゃけそこら辺が実際どうなっているのか分かんないんだけど、いざとなれば実家の権力振り回すのでオーケーです。
 ただ少なくともペインの安否確認の為っていうのは本当なんだろうなぁ……。

「だから、今私クアドラードに帰る出来ませぬ。養ってはぁと」
「(嫌そうな顔)」
「おい」
「……いや、姫さん、クアドラードがトリアングロ疑惑を向けているように、俺らもクアドラードのスパイ疑惑普通に向けているからな?」
「え、でもフロッシュさんとカナエさんみたく、クラップさんが私ぞ監視すれば万事解決ですぞね?」

 私がドヤ顔で説明する。
 するとやつは可哀想なものを見る目で私を見下ろした。

「姫さん俺に拷問受けときながら頼る先が俺なのか……」
「えっ」
「えっ」

 もしかしてあれを拷問だと思ってるの……?
 あれで心に深い傷を負うとでも思ってらっしゃる……?

 可哀想。クラップが一番ちょろいと思っているからの提案だったんだけどな。

「その目をやめろ」
「あいた!?」

 脳天にチョップが振り下ろされた。
 今両手封印されているんだから勘弁してくれないかな!?

 向かい側の牢屋で4人が驚いている。
 残念ながら声は聞こえないんだよな……厳重。

「というかクラップさん何しに来たです?」
「面を拝みに来た」
「崇めろ」
「だから嫌味だって言ってんだろうがその顔面叩き割るぞ」

 ごめんて。

「……まぁ」

 クラップは私の頭をワシワシと掻き回した。

「無事で良かった」

 仮にも2回敵対した人間に言う言葉じゃない。むず痒くなりながら俯いていると、クラップは再び口を開く。

「お前がくたばってたら俺が姫さんをボコすタイミングが無くなるからな」
「本当にそういう所ぞトリアングロ!」

 暇つぶしなら帰れ!!!!!
 
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