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戦争編〜第四章〜

第177話 続きはこの後すぐ

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 ヴォルペールが悪意極まりない作戦に打って出ている中、少しでもトリアングロ王国の情報を得ようとしているクアドラード王国は果たしてどういう案を取るのか。

 偵察? いいや、それよりも貴重な情報源がある。

「──いやはや、舐められたものですね。この私が口を割るとでもお思いでしょうか。いやぁ片腹痛い」

 ヴィズダム・シュランゲ。トリアングロ王国陸軍幹部が捕虜でいるのだ。
 捕虜、かどうかはさておき。

 ロークの脅……命令により、最前線に連れてこられたシュランゲ。それを野放しにすることも出来ず、クアドラード王国の国境で尋問を受けていた。

 クアドラードは兵力を分散してある。ひとつはトリアングロ、ひとつは国内。国内は魔法なしでも持続可能な政治を作る為に駆り出されている。
 要するに人手不足。

 では問おう。
 人手不足のクアドラード王国が選んだシュランゲの尋問役とは。



「──早く吐いた方が身のためだ。私に片腕しかないと思って油断していると痛い目に合うからな」

 答え。怪我で前線離脱している騎士団の副団長である。





 尋問の為に用意されたファルシュ邸の一室で向かい合った2人の心の声は同じだった。

「「(やりづらい……!)」」※トリアングロ兵

 もう、何が最悪かって全てが最悪なのである。

 なぜトリアングロの情報を得るためにトリアングロ兵がトリアングロ兵を尋問するのか。
 トリアングロの為を思うなら偽物の情報を聞き出せばいいのだが魔法のある国でトリアングロの偽情報を嘘つかずにどう誤魔化せと。
 それよりも普通に顔を知っている仲であることだし、攻めても緩めば気も緩む。どう演じろというのだ、という気持ちしかない。尋問とは心理戦であるはずなのに何を考えているのかトリアングロ的に読めちまうので何を探ればいいのか全く分からない。

「(ふむ、梟殿はトリアングロ兵の尋問をするくらいには信を獲られている様子……。いやまぁ、彼には何も動かずここぞという時のために潜伏する本命ではありましたからな)」

 シュランゲが観察をしながらアーベント・グーフォを見やる。
 本命はシュランゲも変わらず、なのだがこちらはイレギュラーが起こった状態。

「(しかし……──)」

 グーフォの姿を確認したシュランゲは変わらぬ表情で観察を続けた。

「(あの右手……。ヘマか私の知らない作戦か、のどちらかですか。正直潜入組も潜伏組も互いに仕事内容は知りませんからね……。──敵に情報が回るのを防ぐため)」

 実際シュランゲはグーフォの存在を知っていても担当する仕事内容などは分からない。ルナールの件もそうである。つまりまぁ、シュランゲが無意識にスタンピードの邪魔をする可能性だってあったわけだ。不思議な魔導具があった、と。
 ……まぁ、そんな無駄にされる行為が嫌いなルナールはきちんとトリアングロ特有の複雑な組み立ての魔導具を用いたのだが。解かれたが。


「(ふむ、ポーカーフェイスが微妙な出来だな。悟られる程では無いが……。演技ではなく嘘を言わない誤魔化し方が得意なタイプか……)」

 国王の選出に納得をする。
 嘘をつけるのは前提条件だが、嘘を誤魔化せる人間が選ばれている。特に中央に置かれれば置かれるほど。

「それに、貴方が私を傷付けることが出来るとは思いませんがね」
「(そりゃその通りだが)……何?」

 余裕綽々のシュランゲにグーフォは顔を顰めた。

「えぇ。私は貴方達の捕虜でもなく奴隷です。不肖のこの私の所有者は貴方でも国王でも子爵でも無い。この場に居ないただの冒険者」

 そう、あくまでも人の所有物。
 シュランゲが余裕の表情を見せるのには理由があったのだ。

「(た、助かる……! こちらが踏み込めない理由を作ってくれると非常に助かる……!)」

 いやもうなぜよりによって自分なのだと問いただしたい。

「…………くそっ(よーしこれで俺は諦めました。あーきらーめたー)」

 多少名誉に傷は付くがこれで選手交代が出来る。

「(ありがとう、見たことないけどFランク冒険者……! 今だけは感謝してやる……! まぁ、お前がいなきゃこうはならなかったわけだか……!)」

 曇り空がふたつの国を覆っていた。




 ==========




「私、ここに来るすて何日ほど経ちますたっけ……」
「5日ほどだな。ようやく起きて開口一発目がそれか……? 噂以上だな。──眠り姫」

 5日。ようやく交渉担当を引き摺り出せた。
 それは尋問が終わり、交渉の時間になったことを意味する。

「初めまして。俺の名はサーペント。あぁ、今更お前の自己紹介は必要ない。クアドラード王国のファルシュ領出身グリーン領ダクアの冒険者。地水火風全ての属性を使える魔法職。その特徴的な口調と目立ちやすい金髪は……潜入に向かないはずなんだけど本当になぜここまで来れたんだか。身長は145cm、体重が40kg、スリーサイズが上から……」
「まつすて!? 自分でも知らぬ情報ぞ出さなきで!?」

 体重ならまだしもスリーサイズを出すな。矢張りトリアングロ、滅ぶべき国……!

 はっはーん。
 こいつさては、性格悪いな……?(名推理)

「では、そちらの主張を聞こうか」

 サーペントがニコッと目を細めて笑う。
 ……そ~なんだよなぁ。

 交渉って互いに提示する条件があって、それを譲歩し合うことによって成り立つんだけど。私の望みって一方的なんだよね。向こう側が私に望む条件が無い。

「私の望みはただひとつ。ルナールに会いたき。あって、殴って、殴り飛ばして、殴って」
「殴り過ぎだな」
「このまま裏切られるすたなんてプライドに関わる状況から変えるすてやる。その為なら私はクアドラードじゃなくてもいい」

 サーペントをまっすぐ見据えて告げた。

 困ったものを見るような目でサーペントは私を見下ろしている。

「貴族に伝手があるのならそこからトリアングロとの交渉に持ち出せば良かったものも、なぜこう無理矢理来たんだ」
「それ中々出来ませぬからね…….?」

 なにそれぇ。
 貴族に伝手があるだけのただの平民冒険者がどうやって国家間の交渉に介入しろと。

「あのですね、色々の手ぞ回すて法の穴をつくは時間が非常にかかるます。その点拳は秒で済むです」
「なんつー脳筋具合い。頭が回る方だと思っていたが手っ取り早い方法があればそっちを選ぶタイプだな」

 気は長くないもんで。
 そこに法律があろうと無かろうととりあえずは何とか出来る手があるからさ。

「お前は魔法が得意だと聞いたが」
「はい?」
「魔法を捨てる気か?」

 私は少しだけ考えてその疑問に答えを返した。

「私、魔法は一時のものでしか無いと思うすてます。そもそも魔法なんて習う環境じゃなきですし……」

 私にとって魔法とは常に存在するものではなく、奇跡的に存在したもの。魔法というイレギュラーが存在する世界に転生したごくごく一般的な常識だ。
 一般的が誰だって? 私に決まってんだろ殴るぞ。

「正直魔法なしでもグルージャに勝てるくらいには戦えるつもりですぞ。自衛手段は一般人よりはあるです。あ、このグルージャは弟だけじゃなくて兄の方も含む」
「クライシスの方か……よく生きてたな……」

 私はゆるゆると首を振りながら顔を見る。

「ルナールが、ライアーが私に会いたくなきなのだろうというのは察しがつくです」

 私は分かってるよ、と言いたげな表情をした。

「私の顔ぞ見たら罪悪感が疼くですもんねっ! 思わず情ぞ浮かんできて悲しくて辛くなるですもんねェっ! 分かるます分かるます、なんせ私は可愛いから」
「(イラァ)」
「えェえェ分かるすてます。無関心ではいられませんモンね!」

 実際がどんなところか分からないけど。素っ頓狂な推理ほど腹立つものは無いでしょ。この煽りに煽られてルナールが出てきてくれたら嬉しいんだけど……。

 ま、無理だろう。

 さて、今日でここに来て5日になる。行動開始して6日。翌日だ。ひとまず、交渉は引き延ばそう。

「眠い」
「どれだけ眠るんだ」
「何もやることぞなく眠るばかりですと自然と眠くなるです、過剰睡眠」
「それを分かって寝るのか……」

 呆れるという方が表現的には正しい。
 サーペントはため息を吐いた。
 その姿を尻目に私はいそいそと睡眠の準備に取り掛かる。私を起こしていたくばルナールを出せ、話はそれからだ。

「まぁいいか。この環境下で過ごす時間が長くなるだけだからな」

 えぇ。

 このタイミングで引き摺り出せたことを感謝するよ。

「急速話題転換」
「なん、え、本当になんだそれは」
「今日のお天気は?」

 何故そんなことを聞くんだ、と言いたげにサーペントが首を傾げる。嘘を吐くか、真実を告げるかすら迷っている様子。

「……曇り空だが」
「そうですか」

 私はにっこりと笑って言った。


「明日は降ってきそうですね」

 種は撒いた。
 さーて、一眠りしよーっと。
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