79 / 80
番外編12・家族日和
しおりを挟む
午前中の空気が少しやわらぎ、午後の光がリビングに射し込んでいた。
詩織はソファで蒼生と咲良を見守りながら、ふわりと微笑む。
カーペットの上では、蒼生が妹に絵本を読んで聞かせている。
「ここでね、くまさんがお昼寝するの」
「おひるねー?」
「そう。咲良もいっしょにねんねするんだよ」
「ふぁ……ねむくなってきた」
絵本を抱えたまま、咲良が蒼生にもたれかかる。
蒼生はちょっと困ったような顔をして、それでもその小さな体をそっと支えていた。
「……咲良、重たいよ」
「……んー、だっこー」
詩織は思わず笑みをこぼし、クッションを持ってそばへ寄る。
「はい、クッションね。蒼生、えらいえらい」
「ぼく、おにいちゃんだもん」
胸を張る蒼生の頭を、詩織はそっと撫でた。
そんなふたりを見ながら、キッチンから戻ってきた怜司が、
自然と詩織の隣に腰を下ろす。
「にぎやかだな。……でも、落ち着く」
「ほんとに。騒がしいけど、あたたかいです」
怜司は詩織の肩に軽く腕をまわし、
ふたりで子どもたちのほうを見つめた。
咲良はすっかり蒼生にもたれて眠っている。
蒼生はなすがままに受け止めながら、絵本のページをめくるのをやめなかった。
「このまま……ずっとこんなふうに過ごせたらいいな」
詩織がぽつりとこぼした言葉に、怜司は短く答えた。
「過ごせる。俺が、そうするから」
その言葉に、詩織は安心したように息を吐いて、
そっと彼の肩にもたれかかった。
夜。
家の中がしんと静まり返っている。
蒼生と咲良はすでに寝室で眠りにつき、
詩織と怜司はリビングの明かりを落とし、ソファで肩を寄せ合っていた。
「……今日は、なんだか幸せでした」
「毎日がそうだろ?」
「はい。でも今日は、特別だった気がします。
ふたりが笑ってて、特別なことなんて何もない時間なのに……すごく満たされてた」
怜司は詩織の手を軽く握る。
その手には、変わらずあたたかなぬくもりがあった。
「……詩織がいて、蒼生と咲良がいて。
……十分すぎるくらい、幸せだと思っている」
「ふふ……そうですね。私も、そう思います」
静かな時間が、ゆっくりと流れる。
そのまましばらく黙っていた詩織が、ふと怜司の肩にもたれて、小さくつぶやいた。
「……もし、もうひとり家族が増えたら……って考えたら、ちょっとだけ……嬉しくなったんです」
怜司は、その言葉に一瞬だけ目を伏せ、そして微笑んだ。
「……考えてるのか?」
「ううん。まだ“もしも”の話。でも……
あの子たちと、怜司さんと過ごす毎日があたたかくて、
……もうひとつ、幸せを抱きしめてもいいかもしれないって、思ったんです」
「そうか……」
怜司はその言葉を反すうするように繰り返し、
詩織の肩をそっと抱き寄せた。
「それなら、俺はいつだって準備できてる。
詩織がそう思ってくれたなら、あとは全部任せてくれ」
詩織はくすっと笑って、怜司の胸元に顔を埋める。
「頼もしいです」
窓の外では春の夜風がそっとカーテンを揺らし、
ふたりの影が寄り添うように並んでいた。
ふたりの愛は、もう一度めぐる準備を始めている。
気づかれないほど静かに――でも、確かに。
詩織はソファで蒼生と咲良を見守りながら、ふわりと微笑む。
カーペットの上では、蒼生が妹に絵本を読んで聞かせている。
「ここでね、くまさんがお昼寝するの」
「おひるねー?」
「そう。咲良もいっしょにねんねするんだよ」
「ふぁ……ねむくなってきた」
絵本を抱えたまま、咲良が蒼生にもたれかかる。
蒼生はちょっと困ったような顔をして、それでもその小さな体をそっと支えていた。
「……咲良、重たいよ」
「……んー、だっこー」
詩織は思わず笑みをこぼし、クッションを持ってそばへ寄る。
「はい、クッションね。蒼生、えらいえらい」
「ぼく、おにいちゃんだもん」
胸を張る蒼生の頭を、詩織はそっと撫でた。
そんなふたりを見ながら、キッチンから戻ってきた怜司が、
自然と詩織の隣に腰を下ろす。
「にぎやかだな。……でも、落ち着く」
「ほんとに。騒がしいけど、あたたかいです」
怜司は詩織の肩に軽く腕をまわし、
ふたりで子どもたちのほうを見つめた。
咲良はすっかり蒼生にもたれて眠っている。
蒼生はなすがままに受け止めながら、絵本のページをめくるのをやめなかった。
「このまま……ずっとこんなふうに過ごせたらいいな」
詩織がぽつりとこぼした言葉に、怜司は短く答えた。
「過ごせる。俺が、そうするから」
その言葉に、詩織は安心したように息を吐いて、
そっと彼の肩にもたれかかった。
夜。
家の中がしんと静まり返っている。
蒼生と咲良はすでに寝室で眠りにつき、
詩織と怜司はリビングの明かりを落とし、ソファで肩を寄せ合っていた。
「……今日は、なんだか幸せでした」
「毎日がそうだろ?」
「はい。でも今日は、特別だった気がします。
ふたりが笑ってて、特別なことなんて何もない時間なのに……すごく満たされてた」
怜司は詩織の手を軽く握る。
その手には、変わらずあたたかなぬくもりがあった。
「……詩織がいて、蒼生と咲良がいて。
……十分すぎるくらい、幸せだと思っている」
「ふふ……そうですね。私も、そう思います」
静かな時間が、ゆっくりと流れる。
そのまましばらく黙っていた詩織が、ふと怜司の肩にもたれて、小さくつぶやいた。
「……もし、もうひとり家族が増えたら……って考えたら、ちょっとだけ……嬉しくなったんです」
怜司は、その言葉に一瞬だけ目を伏せ、そして微笑んだ。
「……考えてるのか?」
「ううん。まだ“もしも”の話。でも……
あの子たちと、怜司さんと過ごす毎日があたたかくて、
……もうひとつ、幸せを抱きしめてもいいかもしれないって、思ったんです」
「そうか……」
怜司はその言葉を反すうするように繰り返し、
詩織の肩をそっと抱き寄せた。
「それなら、俺はいつだって準備できてる。
詩織がそう思ってくれたなら、あとは全部任せてくれ」
詩織はくすっと笑って、怜司の胸元に顔を埋める。
「頼もしいです」
窓の外では春の夜風がそっとカーテンを揺らし、
ふたりの影が寄り添うように並んでいた。
ふたりの愛は、もう一度めぐる準備を始めている。
気づかれないほど静かに――でも、確かに。
38
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる